ミカエルの正体
遅くなってすみません!
「な、なんで……?」
俺と紗奈がここにいる事に御堂筋課長は驚きを隠せない様子だ。
「室木課長がこうなる事を見据えて俺達に別途指示を出していたんですよ。御堂筋課長とその部下を絶対死なせない事を前提に守れと……あの二人は大分重傷の様ですが」
俺はそう口に出し、満身創痍な桂木ともう一人の男に視線を向ける。
「美也ちゃんが……」
「サク、この人もここに置いておきます」
そう言って紗奈は気絶している女の人をお姫様だっこで連れてくる。
「うん、紗奈はここでこの人達を守ってくれ。俺はあいつらに引導を渡してくる」
「はい。カッコいいところ見せてください!」
「おう!」
俺は紗奈に向けて親指を立てる。
「お、お前……、何でそのままなんだ!」
二階で俺達の様子を眺めていた、制服を纏った少年が声を震わせながら俺に指先を向ける。
「えっと……俺の事知っているのか?」
「ミカエル、どういう事なのさ? いつも冷静沈着なあんたがそんなに狼狽えるなんてさ」
「黙れ! ローリー。僕はアイツに聞いているんだ! 服部! 何でお前はそのままの姿でこっちに戻ってきてるんだ!」
ミカエルに先程の余裕は無くなっており、まさに取り乱しているという言葉がぴったりなほどに声を張り上げている。
「だから、何なんだよお前! 何で俺の事を知っている!」
「くそ……っ。聞いてないぞ! よりによって僕達の中で最強と謳われていたお前がそのままこっちに戻って来ているなんてっ!」
「僕達? こっちに戻ってきた? もしかして……お前、召喚奴隷か?」
僕達と呼ぶと言うことは、こいつはあの二十五人の中の一人という事だ。
紗奈が「ああああっ!?」と何かに気づいたらしく、俺に向けて声を荒げる。
「サク! その人多分、三上さんです! あのオジサンはいつも自分の事を天使族のミカエルだと訳の分からない事を言ってました!」
「うっそ? 三上さん?」
「ちっ! そっちは紗奈ちゃんか、相変わらず勘が鋭いな……そうだよ! 三上だ」
まじか……。
三上さんは、俺達が召喚された際にステータスオープンと叫んでリンチに遭った四十過ぎても中二の心を忘れない哀れなおっさんだ。
当時の三上さんは、不摂生が祟った様な不健康な容姿のヒキニートで、今の姿とは似ても似つかない。
それはそうと……。
「てか、何やってるんですか! 何でそいつらと一緒にいるんですか!」
「うるさい! あっちで早々に死んだ俺が、美少年に生まれ変われる、しかも向こうで培ってきた力を引き継いてだ! 普通、二つ返事で承諾するに決まっているだろッ! こっちで、強くてニューゲームが出来るのにその機会を棒に振れるか!」
三上は興奮した面持ちで、先程とはうって変わったように醜く歪んだ顔で叫ぶ。
「だからと言って人様に迷惑を掛けちゃだめでしよう!」
「うるさい! お前に何が分かる! 異世界に召喚されて俺TUEEE、ムフフハーレムを築けると思っていたのにっ! 蓋を開けて見ればクソみたいな奴隷生活、そして戦争であっさり死んだ俺の気持ちを!」
三上さんは、二回目の戦場で敵方の女魔導士のお色気攻撃によって無様に散った、俺達、召喚奴隷の中での戦死者第一号なのだ。
「三上さんの気持ちは分からなくないけど、だからと言って今あんたがやっている事は人の道から外れてるっ!」
異世界召喚に心踊って絶望に突き落とされた俺としては、三上さんの気持ちが痛いほど分かる……が、それとこれとは別の問題だ!
「うるさいっ! 俺はこの世界で俺TUEEEするんだ! 沢山の女を侍らせて、贅沢の限りを尽くすんだ!」
「自分の欲のために他人の命を……アッチにいた時からクズだクズだとは思っていたが……あんた正真正銘のクズだな!」
そうだ、この人は元々こう言う人間だった。
自分勝手で、他人に迷惑を掛けても何も感じない。
自分さえ良ければ他人なんてどうでも良い……三上という人間はそんな人間だった。
「クズ? おいおい、この選ばれた僕がクズだと? 僕は一流の進学校に通う超金持ちのお坊ちゃんなんだぞ? それに僕にメロメロな彼女だって何人もいる! そんな僕がクズだと? ぐふふふふふ!」
「勘違いするなよオッサン。それは元々あんたのモノじゃない、あんたが奪ったんだ! あんたの本質は変わらないんだよッ!」
「ふん! 勝手に吠えてろ。この先僕の邪魔になりそうだし、お前らはここで死んでもらう」
「なぁ、何をそんなに余裕ぶってるんだ? あんたは俺達の中でも断トツに弱かった。だから、一番先に死んだんだ。そんなあんたが俺に勝てると本気で思ってるのか?」
「ぐふふふ。確かにお前らと比べたら自力は弱いかも知れないなぁ。だけど、僕にはこーんな事が出来るんだっ!」
勝ち誇った顔の三上の全身を薄紫色のオーラが纏う。
あっちの世界で嫌と言うほど見てきた力。魔力だ。
だけど、俺達の様な召喚者に魔力が宿る為には、あっちの世界でかなりの時間を過ごす必要があるはず……。
「なんであんたに魔力が……」
「考えて見たんだ、人の魂が喰えるなら魔力もいけるんじゃなかって。そして、こいつらの様な異世界人が乗っ取った身体だったらっ!」
勝ち誇った顔の三上はローリーの口を塞ぐように手で掴む。
「うぐっ! うぐぐぐっ!」
ローリーは必死に手を離そうとしてもがくが、三上の手はビクともしない。
「何をするつもりだっ!」
「こういう事さ!」
すると、ローリーの口を塞いでいる手に纏っている魔力が荒々しく渦巻く。
「うぐぐがががっ! うがああっあ……あ…あ…」
最初は必死にもがいていたローリーは、あっという間に萎んだ風船のようにシワシワなり白目を向いてその場で崩れ落ちた。
「あぁ~これだよ、これ! 魔力が満ちる! 因みにあっちの人間は基本、魔力が扱える様になってからは魔力が生命の源みたいな物になるから、魔力を全て抜かれるとこの様に廃人となって死ぬんだ。まぁ、こんなゴミ、僕には関係ないけどね! ぐふふふふ」
「おいおい、そんな裏技があったのかよ!」
「おっと、お前には無理だよ? 魂を喰った者にしかこれは出来ない。まぁ、お前の様に元の姿で戻ってきてる奴なんてそうそういないからな~あ、紗奈ちゃんは出来ると思うよ? ぐふふ」
「知っててもやりません!」と紗奈が怒鳴る。
「まぁ、どうでもいいけどね。さて、これがお前を前にしても余裕な理由だ。納得いったか? ぐふふふふ」
確かにやっかいだな……三上は腐っても召喚奴隷、身体能力は俺達に近いものがあるだろうに、そこに魔力がプラスされるなんて……。
「なぁ、服部~顔色が悪くないかぁ? 分かるよな? 召喚奴隷に魔力。まさに鬼に金棒だよなっ! ぐふふふ」
「姿かたちが異なっても変わらないその下品な笑い声が、気持ち悪くて吐き気がしただけだよっ!」
「気持ち悪いだとっ!? このモテモテの美少年の僕が気持ち悪いだとっ!」
「うん、気持ち悪い!」
「はい、すこぶる気持ち悪くて吐きそうです」
俺に続いて紗奈も口撃する。
「お前らああっ!」
侮辱された事で怒り心頭の三上の魔力が爆発的に膨らむ!
「紗奈! 後ろは頼んだっ!」
「はい! 任せてください! ここにいる方々は指一本触れさせません!」
相変わらず頼もしい紗奈に俺は笑顔で頷き、三上に視線を戻す。
「掛かって来いよ三上、同じ元戦闘奴隷のよしみだ。苦しまないで逝かせてやるよ!」
俺の挑発に三上は顔を真っ赤にし二階から飛び降りた。
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