一課との衝突
「えっ? 一課の人達と合同ですか?」
「もっと言えば、奴らのバックアップだ。奴ら主導で対処する」
美也子さんが俺の問いかけに補足する。
「正気ですか? 確実に死にます」
先ほど俺と合流した紗奈が無表情で現実を伝える。
「だからお前らにフォローを頼むんだろ? 腕の一本くらいはもげてもいいが、死人は出さないようにしてくれ」
「了解しました! 誰も死なせません!」
「サクがそう言うなら……」
美也子さんは俺達の言葉に軽く頷き、一時間後に出発だ。
「美也ちゃん、僕が連れて行けばいいのかな?」
俺達の話を聞いていた海さんが、手を上げて聞いてきた。
「いや、海はもう上がってくれ。この二人には一課の車に乗ってもらう」
「そう? 分かった。二人とも気をつけてね」
海さんの労いの言葉に俺達は「「はい!」」と返事をする。
「あ、そうだ……」
美也子さんは、事務室から出ようとしていた俺達を引き止めた。
◇◇
美也子さんからの追加の指示を受けた俺達は廊下を歩いていた。
「そう言えば、一課って何だ?」
素朴な疑問を紗奈に投げかける。
「アタシもそこまで詳しくはないのですが、一課のやっている事はアタシ達とさほど変わりはないと聞いています。ただ、彼らの仕事は表の仕事、アタシ達六課は裏の仕事を受け持っていると言う認識です。因みに一課は謂わば全体の中でも花形の組織ですので、面倒な程に選民意識が強いだとか……」
「そうか、勉強になったよ」
そんな会話を交えながら俺は紗奈と駐車場に向かう。
俺達六課の駐車場と違って、一課が使っている駐車場は屋外にあった。
言われた時間に駐車場に行くと、そこには既に数名の人達が集まっていた。
「来ましたわね?」と前髪ぱっつん黒髪美人さんが俺達を見つけるなり声を上げる。
「ふん! 時間前行動もロクにできないのか? これだから六課は」
と、きっちりとした七三頭のメガネイケメンが、人差し指でめがねをグイっと上げながら、やけに尖った口調を俺達に向ける。
「お待たせしてしまいましたね。六課の服部咲太です、そしてこっちは室木紗奈です。今日はよろしくお願いします」
俺はペコッと頭を下げ、それに釣られ紗奈も軽く頭を下げる。
「私は一課を取りまとめている御堂筋加代子と申します。本来ならあなた方のバックアップなんていらないのですが、室木課長がどーーーーしてもと頼み込んで来たので、仕方なく同行させてあげますわ!」
何だこの挑戦的な人は……あ、明らかに紗奈の機嫌が悪くなってる……。
「私は、一課 課長代理桂木だ。御堂筋課長の言う通りお前らの力なんて要らない。お前らの所の課長がみっともなく、どうしてもと泣付いてしつこいからしょうがなく同行させてやるんだ、感謝するんだな。じゃぁなければ、誰がこんな寄せ集めのゴミ共なんか――!?」
やたらと六課を貶す口撃をしていた桂木の目の前、そう、まさに右の眼球の前に紗奈のナイフの先端が向けらている。
一瞬、一瞬だった。
瞬きをする一瞬の内に紗奈はナイフを抜き一瞬で桂木に突き出したのだ。
そして、俺が紗奈のナイフを押さえてそれを止めている。
「え? え?」と混乱している御堂筋課長を含め彼女の部下達も何が起こったか分からない状況だ。
「紗奈。お前殺す気だっただろ?」
「サク、離して下さい。この男は許せません」
無表情の紗奈は怒り心頭の様で、戦闘モードに切り替わっている。
「まぁ、この人がムカつくのは分かるけど、一応美也子さんの指示で彼らのフォローをするんだ。ここで問題を起こしたら、美也子さんの顔に泥を塗る事になるぞ?」
俺の説得に紗奈は「ふぅ~」と短く溜息を吐き、「もう、大丈夫です。サク離して下さい」と言って俺が離したナイフを背中にしまい込み、ゆっくりと口を開く。
「桂木課長代理」
桂木は、「な、な、なんだ!」と、急に名前を呼ばれてうろたえている。
「死にたくなければ、次からアタシの仲間の事を貶さない事です」
「お、お、お前! こんな事してタダで済むと思っているのか!」
「なぁ、あんた。俺達は別について行かなくてもいいんだぜ? あんたの所の課長さんがどういった伝え方をしたか分からないけど、うちの課長はあんたらの事を絶対死なすなって言ってたんだ。正直紗奈の今のスピードにも反応できないようじゃ、あんたら束になっても一分持たないぞ?」
「ふざけるな! お前らみたいな奴らが対処できて、我々選ばれし一課が対処できないわけないだろ! 舐めるのも大概にしろ!」
桂木の物言いに、「はぁ~」と自然に溜息が漏れる。
「と言う事ですので、俺達は必要ないようですね? 御堂筋課長」
「えっ? ちょっ……」
「課長! こんな奴ら必要ありません! あなたの部下は優秀なのです!」
「そ、そうですわね……貴方達、今回は私達だけで行きますわ。戻ってよろしくってよ」
「分かりました。一応、今の会話は録音させていただきましたので、俺達は御堂筋課長の指示通り今回は同行しないようにします」
俺はそう言って、録音中のスマホを見せる。
御堂筋課長は複雑な表情をしていた。部下の前で下らない見栄を張っているのだろう。彼らの生死が掛かっているのにも関わらずだ。ここまで見た感じこの人にリーダーの素質はないな……。
「では、次に会える事を祈っています」と言って俺はべこっと再度頭を下げた。紗奈は挨拶無しにズカズカと建物に戻った。
「あんな奴ら必要ありません! 私達だけで十分です! さぁ、行きましょう!」と桂木は、困り顔の御堂筋課長の手を引っ張りミニバン乗せ、あわただしく出発する。
◇◇
俺達は、地下駐車場に停まっているツーシートのスポーツカーに乗っていた。
俺が運転席、紗奈が助手席といった形だ。
「美也子さんの言う通りだったな?」
「えぇ。愚かな人たちです」
美也子さんは、事前にこうなる事を予想していたため、俺に会話を録音するように指示していたのだ。
後で勝手について来なかったと言われそうだから保険のためだ。
そして、彼らだけではどうにもならないので、別で動いてほしいと。恐らく、彼らと行動を共にしていたら俺達は不愉快な思いをすると予想し、自由に動ける様に計らってくれたのだと思う。
「まぁ、そう言うなって。てか、お前さっき本気で桂木の事ヤろうと思っていただろ!」
「仲間を貶されたのですよ? 怒って当たり前ではありませんか!」
「だけど、殺しはまずいだろ!」
「死なない程度に留めて置くつもりでしたよ。たぶん」
たぶんって……紗奈はテヘっと笑みを俺に向ける。
「よし。とりあえず行こうか?」と俺はエンジンを掛ける。ぶるるるるんと胸にズンと来るような重低音が俺にぶつかる。
そして、俺達は憑依者が待つ場所へと出発する。
車のバンパーの上に若葉マークを付けながら。
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サブタイトルを変更しました(2019.12.05)
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