現場調査⑤
山田村長との面談を終え、村役場から出た俺達は再び車で移動をしていた。
山田村長に書いてもらった星さんの住所を頼りに、彼の家へと向かっている。
メモに書かれた住所までは、十分程でたどり着いた。森を出て海さんと合流した場所からそれほど離れていない所をみると、星さんは徒歩で山に入ったんだと思う。
ちゃんと戻っているのだろうか……。
考え込んでいる俺の様子を見て、車を道の端に寄せた後に海さんが聞いてくる。
「その星さんって人が心配?」
「はい、無事に戻ってればいいんですけどね」
「ふふふ。行ってみよう。案ずるより産むが易し、ってね」と海さんは車のエンジンを止め車から降りる。「そうですね」と返し、俺も海さんを追うように車を降りた。
俺は住所と表札を確認する。
表札が『星』でも、ここら辺一帯に星さんは多いらしく、隣の家もまたその隣も表札が『星』なのは、ここに向かうまでに確認した。
「よし、ここで間違いないね」
メモと一致している事を確認して、両開きの引き戸の玄関横のチャイムを鳴らす。
ピンポーン ピーンポーン
しばらく待っても返事がない。
試しに引戸を引いてみると鍵が掛かっていなかったらしく、すんなりと引戸が開かれる。
「すみませーん! 誰かいらっしゃいませんかーー」と今回は玄関から声を張り上げる。
すると、「少々お待ちくだされ」と奥の方から少し枯れた弱々しい年配の女性の声が聞こえてきて、間もなくして玄関の方にやや腰の曲がった老婆がゆっくりと姿を現す。
「初めて見る顔じゃのぅ。どちらさまで?」
「急にお訪ねしてすみません、僕は神田川、こちらが服部と申します」
俺は軽く頭を下げる。
「これはこれはご丁寧に、それで、この家にどんな用件で?」
「あの、先ほど森で辰巳さんと出会って……」
俺は、簡略に事の顛末を伝えた。
「辰巳を救ってくださって、感謝してもしきれないのじゃ。あの子はこの老いぼれの宝物なのですじゃ。」
お婆さんは、俺の手を両手で握りしめ何度も頭を下げてお礼を述べて来る。
「あ、頭を上げてください。それで、辰巳さんはお戻りですか?」
「それが……まだ、戻ってきてないのですじゃ……。家を出て結構時間が経っているのじゃから心配で……」
戻ってないのか……それならば。
「海さん。俺、さっき辰巳さんと会った場所に戻って探してきます。海さんは、ここで待機してもらってもいいですか? もし、辰巳さんが戻ってきたら連絡下さい」
「おーけー。お婆さん、少しの間お邪魔してもいいですか?」
「構いませんのじゃ。大したもてなしもできませんが」
「ありがとうございます。咲太君は送らなくてもいいのかい?」
「はい。走っていけばいいので。それに入れ違いになるのも嫌なので」
海さんは俺に向かって頷き、「そうだ」と何か思いついた様子で今度はお婆さんに身体を向ける。
「そうだ、お婆さん、辰巳さんの携帯の番号を教えていただけませんか?」
◇
俺は、辰巳さんの家を出て裏山に入った。
お婆さんに近道を教えてもらったので、すぐに先ほどの熊の死骸がある場所に辿り着いた。やっぱり辰巳さんは見当たらず、俺はスマホの液晶に目を落とす。
「それにしても、凄いな恵美さんは」
俺が見ているのは、恵美さんが作ったという位置特定アプリだ。このアプリが凄い事は、携帯の番号さえ入力すれば、その番号の持ち主の居場所が分かると言う。
だけど、これってモロにプライバシーの侵害じゃ……国家権力だからいいのか?……いや、良くないだろ!
唯一救いなのは、メンバー以外を対象に使う時は美也子さんの承認が下りないと使えない。アプリ内で承認申請を行うと美也子さんの方に飛ぶ様になっている。勝手には使えないってことだ。
「お? 辰巳さんの反応が」どうやら承認が下りたようだ。
どれどれと辰巳さんの反応がある場所を見ると、現在、俺が居る場所より深い場所に反応が見える。
「反応が動いてないと言う事は、辰巳さんは移動中ではないという事だな……」
一つの場所に留まっている……嫌な予感が頭を過ぎる。
「ええい! 考えていてもしょうがない、とりあえずこの場所に急ごう!」
◇◇
移動すること数分。
木々に隠れて俺は辰巳さんの反応が示す場所を見ていた。
そこには、ボロボロの小屋が一つ建っており、恐らくあの場所に辰巳さんが何らかの形でいるのだろう。
「頼む……無事にいてくれよ!」
そう願い、俺は周りを警戒しながら、小屋に近づき備え付けの窓から仲の様子を覗く。
中には、先ほど倒した『憑依者』と同じ様な血色の悪いモノが数体と、おかっぱ頭の痩せた男。
そして、次に俺の視線が捉えたのは、縄で椅子にくくりつけられ、口にガムテープを貼られた辰巳さんだった。
幸いに辰巳さんの目は開かれており、外傷はないように見える。
ただ、俺が驚愕したのは、辰巳さんの視線の先に居る人物。
その人物は、おかっぱ頭の男と何か話し込んでおり、辰巳さんはその人物をギッと睨んでいる。
俺が驚くことも無理はない。
「何でここに山田村長が……」
なんと、先ほど俺達が会っていた村長の山田さんがいたのだ。
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