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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第5章 退治する男

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現場調査③


 俺と海さんは木々が生い茂る山道を横切っていた。


「お? あそこに見晴台があるね」

「確かに看板が出てますね」


 海さんが指差す方を見ると、『パノラマ展望台』と書かれている看板が見える。

「そうだ。あそこでお昼にしよう。景色も空気も最高な場所で鈴さんの美味しい弁当をいただく、最高に贅沢だと思うんだよね」


「それいいですね! そうしましょ!」


 俺がノリノリで回答すると海さんは、ニッコリとイケメンスマイルを浮かべて頷く。


 看板があるところを右に入ると、そこには駐車場らしきものはなく、広々としたスペースがあり、ベンチがいくつか崖の方面を向くような形で設置されていた。


 崖の前には危険防止のためか、俺の腰位ある木製の柵が立ててある。

 そして、その前には固定式の双眼鏡が置いてあり、お金を入れる場所が無いのを見ると誰でも無料で使えるようだ。


 俺達は邪魔にならない様に車を止め、鈴さん特製弁当と飲み物を拵えて車から降りる。


「ふあ~っ! 気持ちがいいね!」


 海さんは両手を天に向けて身体を伸ばす。


「すーはーすーはー! そうですね、空気も透き通っている気がします」


 俺も同様に背伸びをしながら、大袈裟な呼吸を繰り返していた。


 柵の付近に行くと俺の目に広がっていたのは、標高はそこまでないが、緑一杯の山々が広がっており、普段自然に接していない俺にとっては目新しい光景だった。


「さぁ、ベンチでランチにしようか」


 俺は、「はい!」と返してベンチの上で風呂敷をほどくと、そこに現れたのは檜製の角型で大き目の弁当箱二つ重ねてあった。


 そして、蓋を開けるとそこには、鶏そぼろが載った白米に、だし巻き玉子、ウィンナー、焼き魚の切身、ブロッコリーなど様々なおかずがぎっしりと詰まっており、どれも俺の食欲を掻き立てていた。


「うまそう!」

「あっははは。うまそうじゃなくて、実際うまいから鈴さんの料理は! さぁ、食べよう!」

「はい! いただきます!」


 俺と海さんは鈴さんの弁当に舌鼓を打ちながら、世間話をしながら箸を口に運んでいた。

 丁度弁当を半分くらい食べた所で、俺の耳に「ぐおおお!」と動物か何かが威嚇する様な声が聞こえた。


「うん?」

「どうしたんだい?」

「何か聞こえませんでした? 何か動物の鳴き声みたいな……」

「そう? 僕の方は何も聞こえないけどね」


 俺や紗奈の身体能力は、向こうで鍛えた分常人とは掛け離れている。

 それは聴力や視力なども当てはまるのだ。


 俺は弁当箱をベンチに置き、柵の方へと向かう。

 

 そして声のする方へと視線を向けると、何かが動いているのが見えた。

 

 目を凝らして見てみると、口の周りを血だらけにした血色の悪い男が背中に籠を背負っている男を追いかけていた。


「まずいッ! 人が襲われようとしてる! 海さん助けに行きます!」

「え? ほんとに? それじゃ急いで車を!」


 俺は首を横に振る。


「車じゃ間に合わなさそうなので、ここから降ります!」


 俺はそう言って柵を乗り越え、崖の下に向けて飛び降りる。

「ちょ、咲太君!?」


 俺は両腕を顔の前でクロスさせて、一直線で走り抜ける。

 木の枝や横たわっている大木などによって道を塞がられるが、それを人並み外れた動体視力で難なくかわしていく。


「たす……たすけて……誰か! 助けてください!」


 助けを呼ぶ声がする……いた!


 襲われていた男は目を瞑り、「ばあちゃん……ごめん……」と言って尻餅をつく。


「うおりゃ!」


 俺は二人の間に入り、襲い掛かってくる男の顔面を殴り飛ばす。

 すると、男の頭はいとも簡単に吹き飛び瞬く間に灰になった。こいつ、やっぱり『憑依者』か…。よかった……もし、気狂いの一般人だったらと思うとぞっとする。


 そして、尻餅をついてあっけらかんとした表情の男に歩みより、ニィッと笑い「そんな事は、ばあちゃんに直接言ったらどうですか?」と少し皮肉っぽく言ってみる。


「あ、あの……えっ? 首が……でも消えてなくなって、えっ?」


 かなりパニクっている様だ。


「とりあえず、落ち着いて下さい」

「あの……あなたは? いや、その前に。助けてくれてありがとうございます!! もう、ダメかと思ってました!」

 男は俺の両手を握りしめ何度も何度も頭を下げる。


「いえ、間に合って良かったです。俺は服部咲太って言います。差し支えなければお名前を教えてもらえませんか?」

「星辰巳です」

「星さんですか、何があったか教えてもらえますか?」

 

 星さんは、一度、深呼吸をして俺に事の顛末を語ってくれた。


「と言う事は、先ほどの男以外にも居るって事ですよね? 方向を教えていただいても?」

「あっちです! あっちで熊を襲っていました」

「星さんは、大通りに出てください。俺の仲間が車で通るハズですので一緒に待っていて下さい!」


 俺は、星さんにそう伝え、彼が指差す方向に向かって駆け出す。


 そこから数百メート進んだ場所に食い荒らされた熊の亡骸が取り残されていた。


「くそ……逃がしたか……」


 恐らく異常を感知して逃げ出したのだろう。

 映像でみた様子だと奴らに襲われていた家畜とかは骨と皮しか残していなかったが、この熊の亡骸は良く見ると半分程残っていたのだ。


 念のため現場の写真をスマホに残して、俺はその場を去った。


★☆★☆★☆★☆


 星辰巳が襲われていた山の奥深くに簡易な作りの山小屋が木々に隠れるように建てられていた。


 山小屋の中には、先ほどまで熊を貪っていた数体の『憑依者』とメガネを掛けたおかっぱ頭のゲッソリとした男がテーブルの周りを囲むように座っていた。


「おい! もう一匹はどうした!?」

「ぐあ! ぐが! ぐあ!」

「何? 人間に襲い掛かろうとして、乱入してきた別の人間に消されただと?」

「ぐが! ぐが!」

「へぇ~それは興味深いな。我々に比べれば雑魚である壱式でも普通の人間には脅威のはずだが、それをいとも簡単に葬りさったと……」

 

 男は俯き少し考える様な仕草を見せる。

 そして、徐々に口角がつり上がる。


「うひひひひ! いいぞ! その人間の身体を手に入れればワシも参式共と同様……いや、それ以上の力を手に入れられるかも知れん! 明日にでもその男を捕らえに行くぞ!」

「ぐが! ぐが!」

「うひひひひひひ!」


 人気のない森の中で男の狂気に満ちた不気味な笑い声が響き渡った。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!


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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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