表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第4章 対峙する男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/269

え?高校生!?

第4章開始です。

「スッスッ、ハッハッ、スッスッ、ハッハッ」


 二回吸って、二回吐く。


 マラソンのセオリだ……とネットに書いてあった。

 こんな呼吸法に頼らなくても全然疲れを感じないのだが、一応雰囲気と言う事で。


 そう、俺は今走っている。何で走ってるかって?

 金メダリストに俺はなる!……と言うわけでもなく、

 家から職場のある市ヶ谷までトレーニングがてら走っているのだ。

 距離にして二十キロ強、三割程度の力で走って一時間って所だ。


 電車で通っても、駅までの時間と乗り換えとかを考えると、時間的にあまり変わらない。

 なら、トレーニングを兼ねた方が時間の無駄にはならないだろう。



 ということで。

 今日から俺は正式に六課の一員になる。


 バイトは二日前に円満退職した。

 明美さんには泣かれたが……これでちゃんとこっちに集中できる。


 ここ一ヶ月で何度か『憑依者』を退治したが、それらは、あの狼男みたいな奴とは違い、人間の姿で自我のないただの気狂いの様だった。


 そして、瞬殺出来るほど弱かった……。

 なのて、玄さん達でも対処でき、俺と紗奈はよっぽどの事がない限り手を出さなかった。


 それでも一般市民にとっては驚異であることは変わりない。


 本当に何だったのだろう? あの狼男は……。


 奴等が俺達のいない遠く離れた地に現れたら?

 奴等が束になって現れたら?


 おそらく大惨事になる事は間違いないだろう。


「おっ? 見えてきた」


 そんな事を考えていると、目的地である防衛省の建物が見え始めた。


 入口に辿り着いた俺は守衛さんに、紗奈が持っていたものと同じ黒いセキュリティカードを見せて敷地内に入る。


 敷地内は、出勤時間のせいか、きっちりとしたスーツ姿や軍服姿の人達が足早に歩いていた。


 そんな人波に、普段着姿の俺は異質な存在なのだろう。

 人とすれ違う度に突き刺さる様な視線を感じる。


「ジーパンにTシャツ……明らかに浮いているよね、俺」


 自分の服装に思わず苦笑いがこぼれる。


 試用期間中は基本現場集合だったし、ここに来る事があっても通勤時間とは被ってなかったため、服装など気にする事はなかったのだ。


「俺ももう社会人だし、ちゃんとしないとな……」


 改めてそう思った俺は、少しでも早くその視線の群から逃れるため、六課の事務室へと急いだ。


 □◆□◆□◆□


 エレベーターで地下に降り、長い廊下を進む。

 立ち止まった先には、白い扉。

 六課の事務室だ。


 一応顔見知りではあるが、今日から正式に六課ここのお世話になる。

 改めてちゃんと挨拶をしないとな、俺は社会人なんだから!


「改めまして! 本日よりお世話になります、服部咲太です! 皆さんよろしくお願いいたしますッ!!」


 俺はセキュリティカードを使い室内に入るや否や、頭を下げて声を張り上げる。

 どうだ、俺の気合の入った挨拶は!

 

「うるせえぇ! 頭に響くから、デッカイ声出すなんじゃねえええ!」

 

 短い期間ではあったが、俺は六課のみんなとある程度、良い関係を築いたと自負していた。

 だからなのか、予想だにしなかった返しを受けて、俺は驚き、下げた頭を上げ怒鳴り声がした方へと恐る恐る視線を向けると、真っ青な顔をした美也子さんがソファーに横たわっており、キラキラな瞳が描かれているアイマスクを片目だけずらし、俺を睨んでいる。


「挨拶しただけなのに怒られるって……就職先間違えたのかな……」


 美也子さんは「ちっ!」と露骨に舌打ちをして、アイマスク下ろし、俺に背を向ける。


「おはよう……ございます……」

「鈴さん、おはようございます!」


 俺が固まっていると、メイド姿の鈴さんが声を掛けてくれた。

 鈴さんは相変わらず物静かで、表情があまり変わらない。真のポーカーフェイスと言えるだろう。


「美也子さん、具合悪いんですか?」

「えぇ……重度の……二日酔いです……」

「二日酔いかよッ!」


 言われて見れば、ソファーの前のテーブルには酒ビンが剣山の様に並べられていた。

 どうしようもないな……。


 はぁ~とため息を吐き、俺は室内を見渡すが誰もいない……。


「あの、他のみなさんは?」


「まだ……出勤して……いません……課長以外は……基本……自由行動ですので……」


 なんじゃそりゃ……。

 鈴さんが言うにはこの六課は少し特殊で、俺を含めた課長の美也子さん以外のメンバーはフリーエージェント的な扱いらしい。なので、任務外は急を要する際に連絡がつけば、基本自由にしていいらしい。


 前言撤回、素晴らしい所に就職した!


「まぁ……結局……皆様……一日に一回は顔を出しますが……」

「そうですか。俺は何をしていれば?」

「さぁ……?」

「さぁって……」


 うッ、クールビューティーがコテンと頭を傾げる仕草は破壊力があるな……。


「美也子さん! 俺は何をすれば「だ~か~ら~。うるせぇって言ってんだろうがッ!!」……」


 鬼の形相の美也子さんが俺に向けてワインボトルを投げてくるが、


「よっと!」


 俺は余裕でそれをキャッチする。


「ちっ!」


 本日二度目の舌打ちが俺に向けられる。


「美也子さん、俺は何をしてればいいんですか?」


 出勤初日から放置はきついので、もう一度聞く。


「咲太、お前何歳だ?」

「二十歳ですけど……」

「二十歳って言ったら成人。つまり大人だよな?」

「そうですね。それが何か?」


 何が言いたいんだこの人?


「お前は大人のくせに言われた事しかできねぇのか!! 仕事というのは、自分で見つけてやるもんだろうがあぁぁ!」


「えぇッ!?」


「ったく、これだからトーシロは……。イテテテ」


 まだ、頭が痛いらしい。

 ってトーシロって……。俺の扱い酷くない?


「ていうか! 言われた事って、何も言われてないんですけど!? 探せって今のところ、バトルしかしてないんですけど!? ほら、普通あるでしょ!? 新入社員研修とか、OJTとか!」

「咲太。お前OJTの意味分かってるのか?」

「勿論分かってますよ! 馬鹿にしないで下さい!」

「なら、OJTなら終わってるだろうが。」

「へ?」

「アホ面してんじゃねぇ! お前この一ヶ月間何をしてた?」

「皆さんについて行って『憑依者』退治……あっ!」

 OJTは終わっていたのね……。


「そう言う事だ。クソッ……余計な体力使わせやがって……もう騒ぐなよ?」


 それだけ言って、美也子さんはソファーに沈んだ。


「はぁ~パトロールに行ってきまーす」


 美也子さんは、ソファーでゴロゴロしながら、早く行けと言わんばかりにしっしっと手を払う。


「服部様……」


 俺が肩を落としながら事務室から出ようとした際に、鈴さんに呼び止められる。


「鈴さん、様付けはちょっと……」

「気にしないで……下さい……そういう……仕様なので……」

「仕様って……。それで、どうしたんですか?」

「これを……」


 鈴さんから渡されたのは、かわいいピンク色の布袋に入ったお弁当だった。


「これ、お弁当ですか? 俺の為に!? 感激「いえ……違います……」で……あぁ、違うんですね……。じゃぁ、これは?」


「紗奈様の……お弁当です。お忘れになったので……届けて……ほしくて……」

「届けるってどこにですか?」

「紗奈様の……高校まで……お願いいたします……」

「あ~高校ですね……へ? 高校? 紗奈って高校生?」

「はい……紗奈様は……近くの……曙橋高校の……2年C組に……」


「えええええっ!?」

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

感想・評価・ブックマークよろしくお願いします!

評価は最新話の下部からできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ