【回想】戦闘奴隷として⑫
――翌朝
いくら生活水準が高くなったとしてもここ数ヶ月で身についたライフサイクルが乱れる事はなく、俺は朝日が昇ると同時に目が覚めた。
まぁ、あの牢屋では朝日なんて拝むことは出来なかったんだけど……。
「おはようございます、サク」
「おはよう」
どうやらそれは俺だけではなかったらしい。
紗奈をはじめ、ベン、アル、ホルヘと同質のみんなも俺より一足先に目を覚ましていた。
こっちの世界でも未成年である紗奈以外のメンツは結構な量の酒を飲んだにも関わらず、誰一人として二日酔いの様子はなく、スッキリとした感じだった。
こんな時でも状態異常耐性が仕事をしてくれたらしい。
身支度を整えた俺達は、朝食会場へと案内された。
そこには、出来立ての朝食が用意されており、一心不乱に朝食を貪る俺達をみて給仕の者達は顰め面を向けていた。
朝食でこんな感じだ、昨日の晩はもっと酷かったのだろうと思いつつも誰一人手を止める者はいなかった。
こちとら羞恥心なんてとうの昔に捨て去ったのだからな。
何事もなく朝食を終えた俺達は、小隊毎に分かれて隊長の元へ集まった。
訓練でもするのかと思いきや、今後のスケジュールなどの簡単なブリーフィングを行った。
「進軍開始までの間、貴様らには引き続きこの屋敷で英気を養ってもらう」
俺の所属はオルフェン王国第四部隊第三小隊であり、目の前には第三小隊長であるアッシュ小隊長だ。
アッシュ小隊長は、三十路手前の良くても悪くてもザ・軍人と言った感じの男だった。
なので、俺達が奴隷だからといって差別などはせず部下として扱ってくれた。
俺はそんなアッシュ小隊長に向けて手を挙げた。
「発言を許す」
「屋敷で英気を養うとは……もうすぐ戦争だというのにそんな呑気な事をしていていいのでしょうか?」
「なんだ、11号。貴様はこの待遇が気に入らないのか? 別にいいんだぞ? いつもの塒に戻っても」
アッシュ小隊長の一言でベン達から勘弁してくれよって目を向けられた。
「い、いえ! そんな、気に入らないなんて思っていないです! ただ、気になっただけで」
「……陛下並びに首脳陣のほとんどは貴様の言っていた通りの意見だった」
「では、なぜ?」
「今回、我が軍を纏められるミルボッチ殿下がそう進言なされたからだ」
「ミルボッチ殿下?」
初めて聞く名前だった。
「いいか、ミルボッチ殿下は我が国の第三王子であらせられる。殿下は、何度かこちらに視察に来ていらしてな、貴様らの置かれている境遇に大変胸を痛めておられた。今回の戦争は、貴様ら戦闘奴隷共が要になる。そんな貴様達が十二分に力を振るう事ができるよう私財を投じられておられる」
「私財を、ですか?」
「そうだ。陛下からはそんな事に充てる予算はないと突き返されてな。ミルボッチ殿下の私財で賄う条件で渋々了承を得たと言う訳だ。ちなみにこの屋敷は殿下の別荘だ」
正直、そのミルボッチという王子の真意は分からないが、実際に俺達に士気は高まっていた。
ミルボッチの思惑はどうであれ、ボボルッチやその取り巻きよりは頭の回る者だろうと考えられた。
「そうですか……」
「明日、ミルボッチ殿下が激励の為にこの屋敷に御出でになられる。感謝の一言でも伝えれば殿下もお喜びになられるだろう」
良い思いをしているのだから殿下にお礼を言えとアッシュ隊長に念を押され、その日のブリーフィングは終わった。
ブリーフィングが終わり、自由な時間を与えられた。
俺はというと走り込みをしたり、筋トレをしたりと身体を動かしいていた。
元々インドアな人間だったのだが面白いように身体が動くようになり、身体を動かすのが好きになった。
「こんな俺をみたら母ちゃんも親父も驚くだろうなぁ」
こんな時くらい休んだらどうなんだと通り過ぎる仲間達に言われるのだが、せっかくデカい風呂があるんだ、汗をかいて入った方が気持ちいいだろうと返すと誰もが苦笑いを浮かべていた。
「うへぇ~やっぱり、汗をかいた後に入る風呂は格別だな~」
広い湯船で手足を思いっきり伸ばし寛ぐ。
風呂に入り、きれいな服を着て、旨い飯や酒を飲み、きれいなベッドで眠る。
たった一日衣食住が満たされただけで無機質だった俺達の顔に表情が戻りつつあると共に口数も徐々に増えてきていた。
良い傾向だと思うのだが……。
「本当にこんな調子でいいのだろうか?」
二日後にはベルガンディ聖国に向けての進軍が始まる。
それなのに、こんな緩い雰囲気のまま戦争に臨んで俺達は生き残る事ができるのだろうか?
今まで相手にしてきた農民崩れの盗賊団と違い、敵は戦略下で動く練度の高い兵士。魔法士だって多数いるという。
正直、この国の戦力なんてたかが知れている。
俺達25人の戦闘奴隷頼みの戦争なのだ。
「25人のうち誰1人欠ける事無く帰りたいなぁ」
切実にそう願った。
その夜も俺達はどんちゃん騒ぎをして一日を終えた。
酔っぱらった三上のおっさんが紗奈にちょっかいを出そうとして股間を蹴られたのは、まぁ、いい思い出だろう。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




