連続失踪事件 後日談 終
~18年前~
「ボス、食材が届きました!」
「入れ」
ランディスの第一の眷属である巽鍛治は、主の許しを得て室内にはいる。
岩肌が剥き出しになっている薄暗い場所は部屋というよりは洞穴に近く、その中心に座っている人物の存在によって不気味さが際立っていた。
「あ、あの、ここは、どこですか?」
「食材ってなんですか」
「…………」
食材と称されて連れてこられた3人の少女の内2人はガタガタと震えながらキョロキョロと室内を見渡し、もう1人の短髪の少女はギッと部屋の中心に設置されているソファーに座って虚ろな目で天をみている男を睨んでいた。
「……近くに」
「はいッ、おい、つれてこい!」
巽は部下に命令し、少女らを部屋の中心部にいるランディスの前に並べると、ランディスは気怠そうに立ち上がり少女達を値踏みするかの様な目で見る。
「ひぃッ!?」
「助けて、下さい、痛い事は、しないで」
先程の2人は、これから自分達がどんな目に遭うかは知らされていないが、自分達の未来が決して良い物ではないと本能的に感じ取ったのかランディスに恐怖し、助けてくれと懇願する。
「あっ、こいつら漏らしやがった! すみませんボス、すぐに片づけますんで!」
慌てる巽をランディスは右手で制す。
この部屋に入ってきた者達は少なからず同様の反応する。
だからなのか、ランディスはこの部屋に入ってから自分の事をずっと睨んでいる少女に興味が沸いたのだ。
「娘、お前は怖くないのか?」
「ハン! こんな事でビビるようないい育ち方をしてないからね! 実の親にこんな所に売られるくらいだし」
「おい! お前、ボスになんて口の利き方を!」
巽が少女を咎めようとするが、再びランディスが巽を制す。
「娘、名は?」
「レディの名を聞きたいなら、まずは名乗るのが紳士ってやつなんじゃないの?」
少女の負けん気の強い返事に対して巽たちは顔が真っ青になるのだが、ランディスは高々に笑い声をあげる。
「くっはははははは、そうだな、それは失礼した。私の名前はランディス」
「へぇ~やっぱり、外人さんだったんだ。どおりでいい顔してると思ったよ。アタイは雫、宍倉雫だ」
「しずく、だと……?」
「そう、雫だ。アタイの名前に何か文句でもあるのかい!?」
「……文句などない。そうか、雫というのか……鍛治、この娘と話がしたい」
「えっ? いえ、御意に」
そう言って、巽は部下達と2人の少女を連れてランディスの部屋から出て行った。
◇
「雫様は、実の親に売られてピエロの晩餐に来たのです。ランディス様の食事として。だけど、ランディス様は、雫様の事を気に入り、そして、雫様もランディス様に惹かれて行きました。そんなお二方が恋仲になるまでにそんなに時間は必要としませんでした」
「俺の親父はやっぱり人を喰ってたのか……」
蓮には事前にランディスの事は知らせてある。
だが、心のどこかでは違うと思っていたのだろう。
「雫様と出逢い、ボスは人を喰らう事をお止めになられました」
「えっ? いや、食べてたけど……」
「――ッ……服部さんは、どうして……いや、止めておきましょう。お止めになられたのですが、雫様の訃報を耳にしたボスは、再び人を喰らう様になったのです」
ランディスの野郎……意外と意思が弱いな。
「何で、親父は俺達と一緒にいてくれなかったんですか?」
「あの日、若様達がお生まれになったあの日、ボスをはじめとするピエロの晩餐の全構成員が自分の事の様に喜んでいました。しかし、しばらくしてからボスが仰いました。子供達には陽の光を沢山浴びて育って欲しいと」
「それで……」
「はい、全て若様達のために、離れる事を決断したのです」
◇
遠山さんが知っている全てを教えてもらい俺達は帰路についた。
車が出発してしばらくしてから助手席に座っている蓮が、俺に向かって頭を下げる。
「おい、どうしたんだよ急に! びっくりして事故りそうになったちゅーねん!」
「本当にありがとうございました! 咲太さんが、俺を止めてくれなかったら今頃ただじゃ済まなかったと思うし、今回の俺達の出自に関しても咲太さんがいなかったら一生知る事は無かったと思う」
「何だろうな、俺は、お前の親父さんを手に掛けた当事者としてやるべき事をやっただけだよ。それにしてもいいのか? 俺はお前の親の仇だぜ?」
「何を今更! 咲太さんはやるべき事をやっただけだ」
「そう、か……」
「俺、高校出たら咲太さんの下で働きたいっす!」
「ほう、なんでか聞いてもいいか?」
一応、漣達が俺の庇護下に入る事は決定済みだ。
だけど、進路は違う。俺は、蓮達に好きな事をやれと言ってある。
あっちの世界に関係している者であれば来るもの拒まずのスタンスだが、一応志望動機を聞いてみる
「咲太さんみたいに強くなりたい。それと、今まで散々好き勝手やってきたんだ。俺も、世のため人のためってやつをやってみたい」
「ははは、そうか! 分かった、これからもよろしくな蓮」
「うっす! よろしくお願いいたします!」
こうして俺はまた一人可愛い弟分を迎え入れる事になった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
また、頃合いをみてサイドストーリーを書きたいと思っていますので
引き続きよろしくお願いいたします。




