連続失踪事件 終
「初めまして。株式会社リアース代表取締役社長の服部咲太です。で、こっちが」
「専務取締役の竹本司だ」
取り敢えず自己紹介をする。
社会人として当然の行いだ。
あの後、司と合流した俺は、魔力残滓を追いこの場所に辿り着いた。
もちろん、当事者の一人である宍倉洋も一緒に。
俺の目の前には白髪交じりの顔色の悪い中年の男と二人の少年少女がいる。
洋にどこか似ていてかなり美形なのを見るとこの二人が洋の兄妹なのだろう。
それにしても……宍倉兄妹の長男である蓮の顔を見て、洋の顔で引っかかっていたのが何かが判明した。
――宍倉蓮の顔がランディスの顔に瓜二つだったからだ。
漣だけではない、洋の妹である葵はどこかランディスの妹であるレウィに似ている。
もし、こいつらがランディスの血筋の者であれば魔法の器についても説明がつく。
でも、そんな事があり得るのか?
いや、あり得ない話ではないか。100年もの間この世界で生きてきたランディスだ。
子の一人や二人いたっておかしくない話だ。
ランディスは、妹のレウィがあまりにも突出していたため勘違いしがちだが、人族よりも高い魔力を持つ魔族の最上位に君臨するヴァンパイア族のしかも分家であるにしてもルートリンゲンの苗字を持つ者なのだから。
「てめぇ、俺の弟に何しやがった!」
「そんなに怒鳴り散らすなよ。安心しろ、お前の弟には別に何もしてないよ。逆にプリンおごってやったくらいだ、コンビニで一番高いやつ。なぁ?」
「うん、美味しかった」
司を待っている間、洋にプリンを買ってあげた。
洋はその時のスプーンを未だに口にくわえている。
「はぁ~洋にぃ……あんたって人は……」
「だって、しょうがないじゃん! しゃちょーさん、滅茶苦茶強くて手も足もでないんだもん! しゃちょーさんには僕の物理攻撃も魔法も全然効かないんだからさ!」
「まぁ、そういう事だ」
蓮の方が洋と妹の葵よりも多くの魔力を取り込んでいると言う事は分かる。
三上みたいにパンクしていないのは、魔力の器の容量の差だろう。
「てめぇは一体なんなんだ!」
洋から自分がまるで歯が立たなかったという話を聞いたからか、
蓮は俺に対してかなり警戒を向けている様子だ。
「言っただろ? リアースって会社の社長をしている者だと」
まぁ、それだけじゃ分からないか……。
「まぁ、簡単に言えば人知を超えた何かに対応するべく組織された会社だ。お前らが使っている魔法とかな」
「た、助けてくれ! こいつらが急に襲い掛かってきて!」
白髪交じりの男が縋るようにして必死に助けを求めてくる。
恐らく俺達の登場により何とか生き延びられると思っているのだろう。
「意思疎通が取れるけど大した魔力は感じられない。お前は弐式だな?」
「--なっ!? なんでそれを……」
【憑依者】には、壱式、弐式、参式と三つの分類にカテゴライズされている。
特徴としては、壱式は自我を持たないが、弐式と参式は自我を持っている。
そして、弐式と参式は単純に強さで分けられる。
まぁ、参式でも俺達にとって雑魚なのは変わらないが。
白髪交じりの男の胸倉を掴み、俺の方へ寄せる。
「……ッ……」
「勘違いするなよ? 俺達はお前を助ける為にここに来たわけじゃない。その身体の持ち主の一生を奪った極悪人のお前が、自分だけが助かろうなんて甘いんだよッ! 司!」
胸倉を掴んだまま男を司の方へと乱暴に投げる。
司が男を拘束した事を確認した俺は、再び蓮の方へ顔を向けなおす。
「さて、大人しくついてきてくれるとありがたいんだけどな」
「ふざけんな! 捕まってたまるかよッ!」
「まぁ、そう簡単にはいかないよな」
「にぃちゃん、ダメだって! しゃちょーさん、マジハンパないって!」
「うるせぇ!」
蓮が魔力を高める。
かなり濃密なそして強力な魔力だ。
これが何十人もの【憑依者】を喰らった結果というわけか。
これは【憑依者】如きでは太刀打ちできないなぁ。
「誰にも俺達の邪魔はさせねえええええええッ!」
蓮が大玉転がしサイズの炎の塊を生成し、俺に向けて発射させる。
迫りくる炎の塊に対してなんのアクションも取っていない俺に対して蓮は得意げな表情で言い放つ。
「てめぇも他の奴らと一緒でビビッて動けねぇんだろ! ざまぁねーな! 関係ねぇ奴が首突っ込むからだ! ぎゃはははははは!」
迫りくる炎に塊に対して右手を伸ばす。
すると、炎の塊は俺の右手に接触するや否のところで消滅する。
「俺がビビる? この程度の魔法で? ありえねぇよ!」
「な、なにをした!?」
かなりの魔力が詰め込まれた渾身の一撃が一瞬で消滅したことに対して蓮はかなり狼狽えていた。
「さっき、僕の魔法を消したのと同じだ」
「だいぶ上達したな兄上」
「せんむーは、あれが何なのかわかるの?」
「うむ。お前の兄の魔法を魔法障壁にぶつけて相殺したのだ」
「魔法障壁? 相殺? なにそれ?」
「そうだな……例えば熱湯の中に氷をいれたらどうなる?」
「そんなの溶けるに決まってるじゃん! 僕のこと馬鹿にしないでよね!」
「そう興奮するな。別に馬鹿にしたわけではない。そう、溶けてなくなる。それは、高温によって氷という個体が液体に融解されるからだ。そして、液体は、沸点を越える事で蒸発してしまうもの」
「つまり……しゃちょーさんの魔力がにぃちゃんの魔力よりも強力だからにぃちゃんの魔法がしゃちょーさんの魔法障壁によって消されたってこと?」
「うむ。その通りだ。驚いた、意外と理解力があるんだな」
「まぁね、こう見えて僕、勉強はできる方なんだ! 全国模試で1位とった事もあるんだから!」
「おぉ、それはすごい! 勉強が好きなのか?」
「うん! 楽しいもん!」
あいつらめ、かなり和んでいるな……。
「魔法を消すなんて! そんなの反則だろッ!」
確かに反則に思えるかもしれないけど、アイツには効かないんだよなぁ。
アーノルド様の弟子になり、メキメキと力をつけている友の顔を浮かべる。
「頼みの綱の魔法は俺には効かない。大人しく俺についてきてくれないか?」
「うるせええええええ!」
魔法で身体強化を施し俺に殴り掛かってくる蓮。
人間離れした速さで繰り出される強力で正確な攻撃。
相手が普通の人間、いや、【憑依者】程度であれば脅威になるだろうが、
あいにく俺にとっては脅威でも何でもない。
「無駄だよ」
迫りくる蓮の攻撃をすべて左手の人差し指の先端で止める。
圧倒的な力の差を分からせるために敢えてそうした。
「ふざけんな! ありえねぇだろ! くそッ、くそおおおおお!」
それでも、攻撃の手を緩めない蓮。
そんな蓮に対して縋るように葵が叫ぶ。
「蓮にぃ、もうこんな事は止めよう! その人の言うとおりにしようよ!」
洋と葵は、蓮の【憑依者】狩りに対して乗り気ではなかったという。
逆にどんどん力に溺れていく兄を憂いていた。
そんな妹の願いが通じたのか、蓮の攻撃の攻撃が徐々に止んでいく。
手が止まった蓮は、洋と葵を一瞥したのち俺に視線を戻す。
「……弟と妹は関係ない。俺が無理やり連れまわして、無理やり魔力を吸わせた。だから、罰するなら俺だけにしてくれ!」
真剣な眼差しでそう懇願する蓮。
こういう奴は嫌いじゃない。
ふいに俺の口元が緩むそんな感じがした。
「さっきも言った通り、お前達を罰するのは俺じゃない」
「……くそッ」
「まぁ、聞けって。お前達が消した奴らは、この世に存在してはいけない極悪人共で、俺達のターゲットでもある」
「何が言いたいんだよ」
「つまり、お前達が消さなかったら俺が消してたというわけだ」
【憑依者】の残党がいるのなら、俺がそれを処理する。
それがイドラさんをあっちの世界に送り返した俺の責任でもある。
「ただ、お前達は連続失踪事件で世間を騒がせすぎた。その償いはしなくてはいけないと俺は思っている。俺の言っている事が分るな?」
「……あぁ」
「そんな顔すんなって! 大丈夫、お前らの事は俺が責任を持って守ってやるからさ」
この世界に存在してはならない力を持つ宍倉兄妹を国は放っておく訳がない。
何だかんだ言って自分達の都合の良いように扱うに決まっている。
「お、お願いします!」
蓮は、そう言って俺に頭を下げる。
「おう! 任せておけ!」
こうして世間を騒がしていた連続失踪事件は、人知れず密かに終止符が打たれたのであった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
あともう一話だけ続きます。




