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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
アフターストーリー

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連続失踪事件 ④

「ハァ、ハァ、ハァ、な、なんだ、アイツはッ!?」


 千葉県の外房に位置する漁村。

 一定間隔で設置されている街灯の光だけを頼りに男は何かから逃げていた。

 そう、一心不乱に逃げていた。


 男の名前は、酒井岳史。

 この漁村でイカ漁を営んでいる漁師だった。

 だったと言うのには理由がある。

 この男の身体は確かに酒井岳史の物だその中身は全く違う魂が入り込んでいる。

 そう、この男は所謂【憑依者(つきもの)】なのだ。


 魔王アーノルド・ルートリンゲンにより魂の転移を成功させた彼らは大いに期待に胸を膨らませていた。

 それもそのはず、あの、世界最強の魔王アーノルド・ルートリンゲンの配下となり、魔法も使えないこの脆弱な地球人共を征服するのだから。

 ただ、その期待は粉々に崩れ落ちた。

 アーノルド・ルートリンゲンの指示役であるイドラが消えてしまったから。


 それならばと自分達で団結してこの世界を征服しようとも考えたのだが、自分達【弐式】より遥かに力のある【参式】が何者かに討伐されてしまった事を後から知る。

【参式】を葬れる者にどうやっても太刀打ちできない。そう悟った憑依者の残党は、そのまま各々の身体の人生を送る事にしたのだ。


「くそッ! 何だあの化け物共は! 俺達とは違う、全く別の存在だ。やつらなのか? 【参式】共を葬り去った化け物共は」


 遠くに住む数人の仲間から注意喚起はあった。

 “ヤバい奴らがいると”

 その仲間も今となっては連絡が取れない。


「俺には分かる。仲間達(あいつら)は、消されたんだ。あの化け物共に!」

「逃げるなよオッサン」

「ひぃッ!?」


 酒井の目の前に恐ろしく顔の整った青年が降り立つ。

 そして、一拍おいて青年を追うかの様に青年とよく似た顔立ちの少女が現れる。

 宍倉蓮とその妹である宍倉葵だ。


「蓮にぃ、速いよ~」

「てか、お前がおせぇんだよ葵。洋はどうした」

「洋にぃは、途中で追うの諦めてコンビニでプリン食べてるよ」

「ったく、あいつは……まぁ、いい。葵、こいつはお前が喰え」

「蓮にぃ……私は、もう……」

「もう? なんだよ」

「もう、嫌だよ……もう止めよう?」

「はぁ? 何言ってんだお前! こいつ等を喰えば、俺達はもっと強くなるんだぜ? それこそ、誰にも負けない程の強さをよ! お前も実感してるだろ? 強くなっているという事をよ」

「そうだけど……私達が喰ったら、この人達……その、死んじゃうんだよ?」

「バカかお前! この間の奴がべらべらしゃべってたろうが、こいつらの存在をよ!」


 蓮達は憑依者の存在を知っている。

 この者達が別の世界であるリアースからこの世界に渡ってきた魂であり、この世界の人間の身体を乗っ取っているという事を。

 身体の持ち主の魂は既に存在しないという事を。

 そして、魔力の器に関する情報も全て入手済みだ。


「こいつらは死んで当然の存在だぜ? それならその力を俺達が有効活用してやろうって話しただろうが? これから俺達が何不自由なく生きる為にはもっと力が必要なんだよ! さっきも言った通り誰にも負けない力が必要なんだよ!」


 蓮は、力に酔っていた。

 それもその筈。暴力で渦巻く様な毎日を過ごしてきた。

 宍倉兄妹は誰にも負けないと言う自負があった。

 だが、それはただの自惚れだった。

 数の暴力には抗えなかった。

 だが、今となってはその数でさえも圧倒できる力を手に入れた。

 軍と対峙しても負ける気がしないと蓮は思っている。

 それが、蓮が上長している要因だ。


 だが、長兄の蓮とは裏腹の次男の洋と長女の葵は違っていた。

 二人は自分達に与えられた力を恐れていたというよりは、こんな力を手にいられる自分達の存在が恐ろしかった。

 自分達は本当に人間なのかと。

 自分達の存在意義が分からずただただ恐ろしかった。


 そして、力を奪った相手が霧の様に消えてしまうという事についても恐ろしく思っていた。

 こんな化け物みたいな存在を圧倒し、この世から消え去ってしまう事をすんなりと受け入れられるほど洋と葵は蓮ほど精神力が備わっていなかった。


「な、なんだお前達はッ!」


 酒井の膝は震えている。

 そんな酒井に向けて鋭い犬歯を覗かせながら漣が口を開く。


「俺達か? 俺達は、あんたを狩る者だ。大人しく俺達に喰われろよ」 

「お、俺が何をしたって言うんだ! 俺は、ただ、普通に生きているだけだ!」

「はぁ? 普通に? てか、その身体、お前のじゃねぇだろよ? 人の命を人生を見勝手に奪っておきながら今更弱者の振りしてんじゃねーよ!」

「ぐッ……」


 あまりの正論にぐうの音も出ない。


「という事で「に、にぃちゃ……」――おせぇぞ洋!」


 蓮が弟の洋の声がする方、背後を振り返る。


「……お前、誰だよ……?」


 蓮の双眸にはプラスチックのスプーンを口に咥えたままの洋の肩に手を回している一人の青年の姿が映る。 

 黒髪のガタイの良いスーツ姿の男だ。


「初めまして。株式会社リアース代表取締役社長服部咲太です」

最後までお読みいただきありがとうございます。

後2話で終わりになります。

次の話は23日までに更新します。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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