連続失踪事件 ②
宍倉兄妹が池袋中の荒くれ者達に追い回されていたあの日から4ヶ月が過ぎた。
宍倉兄妹は首都圏内を転々としていた。
あの日、宍倉兄弟の長男である蓮は、魔力の器を解放させた。
この世界の人間も魔力の器を各々の体内に有している。
しかし、体内に有していると言っても姿形がある訳ではない。
それこそ身体を解剖したからって肉眼で確認できるモノではないため、実際は誰も知らないのだ。
魂と同等の物だと考えれば分かり易いだろう。
しかし、それは存在するのだ。
魂の器を解放するためには親からの遺伝が8割、そして、自然に魔力を取り込むこむ事が2割必要とされる。
この世界には魔法士は存在しない。
だからこそ、いくら自然に魔力を取り込んだとしても親からの遺伝がないため魔法の器を解放する事がないのだ。
だが、蓮にはそれができた。
蓮には親からの遺伝が備わっていたという事になる。
そして、最後のきっかけを与えた事で蓮の魔力の器は解放された。
器が解放された事で、自然と蓮は魔法について理解した。
そして、その力を利用してあの窮地から逃れたのだ。
それから蓮達が一つの場所に留まらず首都圏内を転々としている理由。
それは、蓮に魔力を譲渡したあの女と同じく魔力の器を持っている者を探すためだ。
探し出しては、魔力を奪う。
自分達がより強力な存在となるために。
その過程で洋と葵も蓮同様に魔力の器を解放させた。
蓮達の標的とされているのは、イドラが復讐のために魔王アーノルド・ルートリンゲンの精神を操りこの世界に送った魂。その魂が入り込んだ【憑依者】の残党だ。
イドラがこの世界から去って以来、目的をなくした【憑依者】達は、この日本という世界に溶け込んで生活していた。
そんな彼らの存在が蓮達にとっては格好の的だったのだ。
それが世にいう【連続失踪事件】の始まりだったのだ。
◇
~咲太視点~
四谷三丁目交差点の一角にある雑貨ビルの一室に俺達の会社【株式会社リアース】はある。
【寿司健】から戻る際に美也子さんから連絡をもらった。
美也子さんからの連絡とは連続失踪事件に関する仕事の依頼だった。
詳細を聞くために六課の拠点に出向こうとしたのだが、美也子さんも外出中で六課の拠点がある防衛省よりも、俺達の事務所の方が交通の便が良いという事でこっちに来てもらう事になった。
「うん? 灯りがついているな」
ビルの外から俺達の会社の電気がついている事に気付く。
「司君じゃないですか?」
「まぁ、あいつしかいないよな」
株式会社リアースの主要メンバーは、現状俺、司、高次さんの3人だ。
紗奈と高瀬達は、まだ高校生のため高校を卒業した後にこの会社に入るかどうかを決めてくれと言ってある。
なので、実際にこの会社に来るのは、俺以外には司と高次さんしかいない。
ただし、高次さんは、身辺整理のためまだ北海道にいてこっちに本格的に来るのは2週間後となっている。
なので、都内で大学に通っている従兄弟の司だと考えるのが妥当だろう。
エレベーターで俺達の事務所がある7階へと昇っていく。
「やっぱり、お前だったか」
事務所の中では、司が真剣な面持ちでタブレットをのぞき込んでいた。
「あっ、兄上。紗奈も」
「ふふ。司さん、こんばんはです。凛ちゃんは一緒じゃないんですね」
「うむ。こんばんは。少し確認したい事があって今日は一人で動いていたのだ」
司は、幼馴染の彼女である凛ちゃんと同じ大学に通っていいて、両家の親公認で同棲している。なので、いつも一緒にいるイメージが強いのだ。
「確認したい事って? かなり真剣な表情でなんか見ていたようだが」
「それがだな――」
トゥルルルルルル~~~。
司がしゃべり出そうとしたタイミングで内線が鳴る。
「アタシが出ますね」と紗奈が電話の受話器をとる。
紗奈の反応を見る限り美也子さんで間違いないようだ。
紗奈は、そのまま入口へと美也子さんを迎えに行く。
「悪いな司。美也子さんが来たみたいだから後でもいいか?」
「室木課長が?」
「あぁ、お上さんからの初仕事だ。連続失踪事件を手伝って欲しいとの事だ」
「ほぅ、それはベリーナイスなタイミングだ」
「何が?」
「お連れしました」
「うん、ありが――って、統括部長!?」
てっきり美也子さんだけだと思っていたが、美也子さんの上司である室木修統括部長も一緒だったので、慌ててしまった。
そんな俺の様子を見て、いたずらが成功した時の様な子供みたいな反応をみせている美也子さんにジト目を向ける。
「休みの日にすまないね、服部社長」
「いえ、お気になさらないでください。さぁ、こちらへ」
俺は、室木総括部長と美也子さんを応接室へと案内する。
紗奈には飲み物をお願いし、司と一緒に室木総括部長の向かいに座る。
すると、すぐに紗奈がペットボトルのお茶を人数分持ってきて各自の前に並べ、自分の膝の上に座れという美也子さんのセクハラを全力で振り払い、端の方に陣をとる。
「時間も時間だし、早速本題に入ろうか。室木課長」
美也子さんは、はいと言ってカバンから資料を取り出す。
資料を捲ると連続失踪事件の現時点までの捜査ファイルの様だ。
そこには、今まで失踪している被害者達の情報や失踪した場所の詳細、聞き込みの内容、防犯カメラの記録などが記されていた。50近い人達が消えているため、資料はかなりの量になっている。
「職業、年齢、住所パッと見て何らかの関係性が見られない」
「それに防犯カメラも……何の前触れもなくいきなり人が消えて追跡不可ってそんな事ありえるか?」
「あぁ、なので捜査は困難を極めている状況だ。ただ、室木課長の部下である、まぁ、君達も良く知っている東城君がある事に気付いてね」
「ある事とは?」
「追跡不可になった事案が最近でもあったという事だよ」
追跡不可――なんか、あったかなぁ……と記憶を辿っていく。
「あッ!」
全く予想だにしなかった所から声があがる。
紗奈だ。紗奈が何かを思いついたかの様な声を出していた。
「紗奈たんは気付いたようだな」
「何か分かったのか?」
「はい。ほら、サク。アタシがイドラさんに連れていかれた時。あの時も追跡不可だったじゃないですか。あの恵美さんでさえ」
「あッ、確かに!」
それで、みんなかなり参っていたのを覚えている。
あの時は確か魔力察知で見つけ出したな。
「あの時、紗奈君を見つけ出した君達になら何か情報を掴めるのではないかと白羽の矢が立ったわけだ。どうだろう、協力してもらえるだろうか?」
検討する必要もない。
「どれくらいお力になれるか分かりませんが、協力させてください」
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
次話は、17日までに更新できればと思います。




