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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
アフターストーリー

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連続失踪事件 ①

 ――話は半年ほど前に遡る


 池袋周辺に宍倉の姓を持つ三つ子の兄妹が住んでいた。

 長男の蓮、次男の洋、末っ子の葵。

 宍倉兄妹はそのモデルの様な整った容姿とはかけ離れた凶暴さで池袋界隈では有名だった。

 その凶暴さを支えているのが、人間離れした身体能力。

 アスリートであれば世界最高峰へと至れる程のソレをスポーツ関係者達は何とか自分達の所に取り込もうと躍起になっていたのだが宍戸兄弟は頑なにそれを拒んだ。

 その理由としては、「悪い事ができなくなる」という酷く稚拙なものだった。


 そんな宍倉兄妹だが、暴力団と肩がぶつかったぶつかってないとかで喧嘩になり、相手を病院送りにした。

 日常茶飯事とは言えないが、度々同じような事はあった。

 普通に考えれば暴力団からの報復行為があっても良さそうなものだが、昨日まではなぜかそれがなかった。

 そんな状況がこの兄妹達を更にイキらせる事になり、怖いモノ知らずの宍倉兄妹はより好き勝手に振る舞う事になったのだ。

 ただ、それも昨日までの話、今現在宍倉兄妹は病院送りにした暴力団員の組員から追い回されていた。

 明らかに報復行為とみられるソレに三人は混乱していた。


「クソッ、どうなってんだ!?」

「今までこんな事なかったのにぃ……」

「二人とも狼狽えない! 今は、この場を切り抜ける事だけを考えて!」

「お、おう」


 誰が一番色濃く母親の性格を受け継いでいるのか一目でわかる程に末っ子の葵は威風堂々と言った様子で弱気になっている二人の兄に喝を入れる。


「でも、こんなのどう切り抜くんだよ! 数人ならまだしも武装した本職の包囲網からどうやって逃げるんだよ!」

「それをない頭で考えろっつーの! それにしても、何でこんなに多いのよ! これじゃあまるで」

「池袋周辺にいる暴力団、いやそれだけじゃねぇ。反グレ集団やその傘下の不良共が怒涛を組んで俺達を捕えようとしている」


 葵は蓮の言葉に頷く。


「なんで? てか、今までこんな事一度もなかったじゃん!」

「しらねーよ!」


 オロオロしている次男の洋に苛立つ蓮を余所に葵は何か思い出したのか、ハッとする。


「いや、もしかして……」

「葵、何か思い当たる事でもあんのか?」

「ママが死ぬ前に言ってた事があるんだ」

「ママが!? なに? なんて言ってたの!?」

「“自分が居なくなってもお前達はあの人が守ってくれる”って」

「そんなの聞いた事ねぇぞ? あの人? 誰だよそれ」

「知らないよ! だけど、その話をしていた時のママ、女の顔をしてた……もしかすると、私達のパパとか?」


 物心ついた頃から、父親は死んだと聞かされており三人と母親の言葉を疑いもせずに育ってきた。


「パパ? パパがいるの?」

「ありえない話ではねぇな……。実際、家には親父に関する物が何一つ無かったしな」

「何らかの理由でうちらのパパ、ううん、後ろ盾がなくなった」

「パパが死んだって事?」

「後ろ盾が無くなった事で今まで俺達ににが湯を飲まされた奴らが怒涛を組んで俺達に報復にきた……なるほど、辻褄が合うな」


 今になって好き勝手やってきた事のしっぺ返しを受けている。

 そう確信した漣は、今までの自分の行いを悔いる事になる。


「蓮にぃ! あんたがそんな顔してどうするんだよ! 長男だろ!? ほら、洋にぃは泣かない!」

「だってぇ、怖いよぉ」


 末っ子ながら自分達を鼓舞する健気な葵、怖いと泣きながら震えている洋を見て長男である自分は何をしているんだと、自分に対して怒りをぶつける。


「わるかったな葵、目が醒めたぜ」

「蓮にぃ……」

「泣き止め、洋」

「兄ちゃん……」

「とりあえず、包囲網が薄い所を「パタッ」――うん? あれは、なんだ?」

 

 物音に反応すると蓮の視線の先に地面に横たわっている上下スウェット姿の人がいた。


「なんだろう? 見た感じ女の人っぽいけど……」

「まさか、罠? とかじゃないよね」

「お前らはここにいろ、ちょっと見てくる」


 そう言って、蓮は倒れている女に近づいていく。

 葵は辞めた方がいいと止めるのだが、蓮は直感的にこの倒れている女が自分達のこの窮地を脱出するための何かを握っていると感じ取ったのだ。


「おい、あんた。大丈夫か?」

「……うぅ……ッ」


 女は真っ白な顔をして、今にも命が尽き掛けようとしていた。

 だが、女の状態よりも女の身体から漏れ出ている透明な靄みたいな物に漣は惹かれていく。


「な、なんだ、これ……」

「……お、まえ、これが見えるのか……」

「あぁ、これは一体なんだ?」

「……ま、りょく」

「はぁ? 魔力だと?」


 ゲームじゃあるまいし、ふざけてるのか!?と罵りそうになる漣だが、現在進行形で自分の目の前にゆらゆらと漂う物質の説明が自分の中でつかないため言葉を飲み込む。


 何よりも、自分の身体の中にある何かがこれを欲してた。


「そうか……おまえは、ワタシと、おなじ、なんだな」

「一緒? 何がだ?」

「ワタシには、じかんが、ない。よかろう、ワタシのいのちをおまえにやろう……」


 女は、蓮の右手を自分の口元に近づける。

 蓮はされるがままに女の行動を観察していた。


「さぁ、うばえ……そし、て、ワタシの、ぶんまで、あばれて、くれ」


 女のその言葉を聞いた瞬間自分が何をすべきか理解し、女の口から魔力を吸い取る。


「うあがふゃあぢぁあああああああああ」



 女から断末魔ともいえる悲鳴に似たもんが漏れるのだが、この女が望んでいる事だと分かっているためその行為を止めようとしない。

 ものの数分で女はミイラと化し、そのまま灰となって崩れ去っていた。


「兄ちゃん……?」

「今のなに? なんなのよ!?」


 洋と葵が不安そうな顔で近づいて来る。


「ふは」

「ちょっと、蓮にぃ。大丈夫なの!?」

「あはははははははははははははははははは!」


 蓮は狂ったかの様に笑いだす!


「こ、こわいよ兄ちゃん……」

「いや~わりぃわりぃ。何とかなりそうだ」

「何とかなりそうって、何が?」

「いやよぉ、さっきのおん「おい!いやがったぞ!」」


 蓮が説明をしようとしたその時、複数の足跡が近づいて来る。

 20は優に超える荒くれ者達がまるで獲物を前にしたハイエナの如き眼光を向けていた。


「兄ちゃん、やばいよ……」

「くそッ、どうすんのよ」

使()()()は大体分かった、後は俺に任せろ」


 蓮は、一歩ずつ荒くれ者達に近づいていく。


「宍倉! 今まで、散々コケにしてくれた分、きっちりのしつけて返してもらうからなあああああああ!?」



 蓮達を詰る荒くれ者達の言葉は耳に入ってないのか蓮は、何食わぬ顔でドンドンと荒くれ者達との距離を詰めていく。


 ――そして 


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

次話は、月曜日までに更新できればと思っています。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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