佐久間の寿司 ①
数話つづきます。
2~3日置きに更新予定です。
始祖アーノルドとの死闘から三ヶ月が過ぎた。
その間、会社の設立や関連各所への挨拶回りなど目まぐるしい日々を送っていた。
そんな多忙を極めていた俺だが、業務がひと段落ついた事でご褒美と称して久々に休みを取り紗奈と二人でドライブに出掛ける事にした。
どこか目的を決める訳でもなく、ただ車を走らせる。
ただそれだけだ。
ただそれだけなのにとても有意義な時間だと思えるのは、俺の隣に座っているのが紗奈だからだと思う。
ドライブを堪能した帰り道、スピーカーから流れるニュースが自然と耳に入ってくる。
「失踪事件、まだ、解決していないらしいですね」
数か月前から都内を中心に発生している連続失踪事件。
本日時点で50近い人達が失踪しており、未だになんの手がかりもない状況だ。
「この間、くりさんが家にメシ食いに来てたけど全然手掛かりがないらしくて大分参っていたよ」
まぁ、ご飯は3杯お代わりしてたけど……。
因みにくりさんが家に来るときは大抵夜勤明けだ。
夜勤明けに家で朝メシを食ってそのまま昼過ぎまで寝ている。
そんな変なルーティンが出来上がっていた。
「その内、サクの所に依頼が来るんじゃないですか?」
「う~ん、どうだろうな……。お上さんは、あんまり俺達に貸しを作りたく無さそうだし、よっぽどの事がない限りそれはないと思うけど」
俺の会社は所謂何でも屋だ。
基本的に政府からの依頼を中心に請け負う事になっているが、国にとって俺をはじめとする異世界帰りのメンバーは腫れ物として扱われている。
そのため、積極的に俺達を頼るとは思わない。
会社の設立も俺達が日本を出て行かない事を条件に渋々了承したものだし。
そんな訳で、国からの要請は未だに一度もない。
でも、依頼がない事に焦りはない。
俺達が手を貸さないといけないような事案はない方がいいし、依頼がなくても異世界【リアース】と日本の貿易業をメインにしようと考えており、
俺達が扱う商材であれば喰うに困る事はないと思っている。
さて、俺達が今考えている商材は【硝海石】だ。
そう、あの魔王様の居城である地獄城の外壁に使われているマリーンブルーのあれだ。
実は一度リアースに渡りサンプルとして持ち帰ってきた硝海石を国の研究所で解析してもらった。
まだ、ざっくりとした結果しか見えていないが、あの石は自力発光をしている事が判明した。
しかも、驚くべきことに発行は恒久的に行われているという。
その力を上手くエネルギーに変える事ができるなら、この国の慢性的なエネルギー不足に歯止めを掛けられる良いきっかけになれると研究者からは期待を寄せられている。
硝海石の仕入れ先としては、オルフェン王国のミルボッチ王と既に話はつけており、一定量の供給を約束してもらった。
また、こちらからは簡単な玩具などの娯楽品などを輸出する事になっている。
車や電化製品とかも考えたのだが動力になる物を開発するには時間がかかるため、まずは、すぐに使える物をと考えた末にこれらにしたのだ。
あの世界には大した娯楽がないためヒット間違いなしとふんでいる。
「まぁ、ないとは思うけど要請が来たら来たで全力を尽くすよ」
「アタシも手伝います!」
「紗奈は大学が受かるまではだめだ」
「ぶぅうう!」
「拗ねてもだめ。大学受験を最優先。そういう約束だろ?」
「そうですけど……むぅ~分かりました、その代り受験が終ったらアタシも手伝いますからね?」
「もちろん。こき使ってやるから覚悟しとくんだな」
「楽しみです! あッ、そこ右です」
紗奈は思い出したかの様に話を切りフロントガラスを指さす。
カーナビの詳細表示のボタンを押し、近隣の駐車場を探す。
目的地付近にはあまり駐車場がなさそう……というよりは、目的地周辺の道が割と細いのであんまり車で入りたくない。
最近、運転の方は上達してきたが細い道での駐車はまだハードルが高いのだ。
「オッケー。この先は駐車場が無さそうだから、そこの時間貸しに停めようか」
「はい、そうしましょう!」
よしッ、上手く誤魔化せた。
紗奈は俺の運転が下手だからって評価を下げる様なタイプではないが、流石にカッコつかないからな。
広々とした平置きの駐車場に車を停めて本日の最終目的地へと歩いていく。
「ここです」
歌舞伎町内に店を構えている趣のある寿司屋。
お店自体はこじんまりとしているが、年季のある店構えからは高級感が漂う。
店の看板には、【寿司 健】と刻まれていた。
そう、ここは佐久間健一が働いている寿司屋だ。
最初、紗奈からあの【壊し屋】佐久間健一が寿司屋に就職したって聞いた時は信じられなかった。
佐久間は、紗奈が変なホスト集団とひと悶着あった際に助けに来てくれたらしい。
結局、最終的には紗奈が武力で解決したというのだが、それでも全く面識のない他人のために危険を省みず動ける。
実に男前な奴だ。
紗奈からこの店の事を教えてもらい、お礼も兼ねて一度行くと言ったらなぜか今日を指定されたのだ。
「じゃあ、入ろうか」
店の引き戸に手を掛けようとしたその時、ガラガラと戸が開かれ店の中から坊主頭でガッチリとした体形の男が姿を現した。
間違いない佐久間だ。
「ん? おぉぉぉぉ! 来たか咲太!」
「久しぶりだな! まぁ、言っても一回しか会った事ないけど」
「がははは! そうだな! でも、不思議とお前とは長年連れ添った仲間って感じがするんだ!」
一度、そう、たった一度拳を交わした相手。
そんな相手だけど佐久間の言っている事が分かる気がする。
「彼女さんも元気そうだな」
「はい、その節はお世話になりました」
「お世話だなんて、俺はなんもしてないよ。まぁ、ここではなんだ。さぁ、入ってくれ!」
俺達は、佐久間に引っ張られる形で店内へと足を踏み入れた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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