答え合わせの様なもの(続)
『お前に頼みたい事がある』と言われ、一瞬でケイタロスが何を望んでいるのか理解できた俺は率直な考えを返す。
「俺にアレを、アーノルドをどうにか出来るのか? 俺、あいつに腹をぶち抜かれてるんだぜ? てか、忘れてたけど、俺ってどうなってんの!?」
腹をぶち抜かれて、実は死んでますよ~なんて言われたら……。
若干パニックに陥っている俺をみているケイタロス。ハッキリとした姿形を把握しているわけではないのだが、ケイタロスの口角は二ィっと持ち上げている感じがする。
『心配すんな、お前の腹に空いた穴は今頃クミカが治しているところだ』
「クミカ? クミカって、あの?」
『そうだ。さっきあの場所に、アーノルドの隣にいたのは俺様の眷属、クミカだ』
「なんであんたの眷属がこの世界にいるんだ?」
『あぁ~これも説明しておく必要があるな。上司の命令で俺様がアーノルドと長い時間を共に過ごしていたのはさっき説明したよな?』
「あぁ、仲良くするって事だろ?」
『そう、仲良くなる事が俺様達二人に課せられた最優先事項だったが、もう一つ俺様だけに課せられていた役割があった。それは、アーノルドが暴走しないように押さえつけることだ』
「じゃあ、俺についてきたから、アーノルドを一人にしたからこんな事になったのか!?」
『いや、永い間アーノルドの力を抑え込んだ俺様としては、俺様が少しの間離れていても何も問題ないと確信をもっていたからお前に付いて行ったんだ』
「じゃあ、なんで……」
『そこでクミカだ、クミカというイレギュラーな存在の登場によって俺様の思惑が外れたという訳だ』
「クミカ……あっ!! まさか、あのクミカって、親父の浮気相手の久美って人じゃないのか!?」
『ご名答。そうだ。圭太に魅了をかけて舞子と離婚するきっかけをつくった、その久美だ。クミカの介入がなければ、この世界に戻ってきた時点で俺様が圭太の中に戻れてこんな事態にはならなかっただろうな』
やっぱりか。どっかで見た事があると思ったら……。
魅了……やっぱり、親父は魅了に掛かっていたのか。
クミカに対する怒りよりも、親父の潔白が証明されたことにホッとする俺がいる。
『なぁ、咲太。俺様がこんな事を頼むのもなんだけどよ……クミカの事は、悪く思わないでほしい』
「はぁ? 俺の家族を壊して、親父をあんな状態にした張本人なんだぜ?」
『そうだ、それに関してお前が正しい。ただ、クミカのこれまでを考えると不憫でしょうがなくってよ』
「なんだよ、これまでって。クミカとは生前以来遭っていないんだろ?」
『遭ってないなぁ。だが、管理者権限で眷属の過去を覗き込む事は可能なんだ』
「プライバシーもくそもないな」
『がはは、今回だけだよこんなことすんのは。俺様も常に人様の記憶を覗き込むような趣味はないからな。クミカの記憶では、クミカも俺様達と同じように気が遠くなるほど長い時間を、そしてたくさんの人生を過ごしてきたんだ。そんなクミカが今生で、それも偶然に圭太と出逢ってしまったんだよ』
「だからなんだよ? それが、人様の家庭を壊す理由になるのか?」
『例えばだ。お前の思い人……そうだな、紗奈と千年以上離れて、偶然この時代、この世界で出逢ってしまったらどうするんだ? しかも、紗奈は結婚していて子供もいる。そんな紗奈は少しのきっかけさえあればお前の事を思い出すかもしれない。お前は、知らんぷりして過ごすことができるのか?』
「いや……それは……自信が、ない」
俺はそんな事しない! と言い切れない俺がいる。
そんな長い時間を経て、紗奈と巡り合えたのなら俺もクミカと同じ事をするかもしれないという考えがつよいのだ。
『許してくれとは言わん。今回の件はクミカが100%悪いんだからな。ただ、悪く思わないでほしい』
「……善処、します」
『歯切れの悪い返答だな……まぁ、良い。話を最初に戻すぞ? お前にはアーノルドの無力化を頼みたい』
「全く、自信がないんだけど……」
『大丈夫だ。お前には俺様の力を与える。お前を、俺の三人目の眷属にする』
「……えッ? そんな事が可能なのか?」
『まぁな。俺は、アーノルドみたいにバカスカ眷属を作ってなかったからな。俺の眷属になればお前の強さは数倍にも跳ね上がる。今の、アーノルドと十分にやりあえるはずだ』
「じゃあ、魔法! 魔法もぶっぱなす事ができるのか?」
俺は、ファイアをアローしたいんだ!
『そんな事は俺様の眷属にならなくてもできるぜ? 今のお前でもな』
「いやいや、俺の魔法なんて身体強化くらいしかできないぜ?」
黒拳とか黒の螺旋とかカッコよく言ってるけど、ただの身体強化だからな……あぁ、自分で考えても頬が熱くなる。
『いいか、咲太。魔法ってのはイメージが重要だ。お前の好きな異世界転生系の物語でよくあるだろ?』
「イメージ? え? もしかして、もっと想像を働かせていればファイアをアローできてた?」
ケイタロスはあきれた様子でコクリと頷く。
そんなテンプレな……。
『いいか? なんでも証明したがるこの世界の人間であるお前は、あっちの魔法士よりも遥かに簡単に魔法が扱えるんだ』
「どういうこと?」
『ちゃんと物事の発現の過程を理解していれば魔法なんて簡単に使えるん。あっちの世界のほとんどの魔法士がそれを理解していない。だから、詠唱が必要なんだ』
「詠唱? 俺もやってみたけど、だめだったぜ?」
『それはそうだ。お前が使っているあっちの世界の言葉と、詠唱は違う言葉だからな。詠唱は古代語なんだ。誰一人、理解できない言葉だ。あっちの世界で魔法士が少ないのは、この古代語をいちいち全部覚えないと魔法がつかえないからだ』
「ワタルは? あいつ、詠唱なしで魔法ぶっぱなしてきたぜ? それに、ユーヘミア王国の他の魔法士も
……」
『ワタルの祖父はだれだ』
「あっ、もしかして、カケルさんに……」
『おそらくそうだろうな。そして、その知識を他の魔法士に叩き込んでいるのだろう。それが、ユーヘミア王国が魔法大国と言われている所以だろうな』
「なるほど……それなら、しっくりくる。俺があんたの眷属になって、アーノルドと戦うっていうのは分かった。だけど、親父は大丈夫なのか? 正直、親父を傷つける事が……」
『大丈夫だ、圭太の事を大事に思っているお前だからできると俺様は思っている。お前がアーノルドを無力化してくれたら、後は俺様がお前から出てアーノルドを圭太から引き離す』
「引き離す? なんで? そのまま、親父の所に戻って、またアーノルドを抑え込めばいいじゃんか」
『すぐに出来るなら俺様もそうしたいさ。そもそも、それができてたらこの間圭太が家に来たときにやってるしな。そんなわけで、やつと同期するにはかなり時間がかかるんだ、数週間単位でな』
「そうか……わかった。やってみるよ」
『あぁ、頼んだぜ。じゃあ、これから眷属化の儀式を執り行う。俺の前にきて、跪いてくれ』
ケイタロスに言われた通り、俺はケイタロスの前で膝まづく。
決して大きくはない掌が、俺の頭にそっと置かれる。
『汝、服部咲太を、管理者ケイタロスの眷属とする』
ケイタロスの言葉の終わりに、俺の頭のてっぺんから爪先にかけて温かい光が包み込むと、それはすぐさま俺の右手の甲に集まってくる。そして、右手の甲に浮かぶ太陽を模した紋章。そして、身体が破裂しそうなほどに溢れんばかりの力。これが、ケイタロスの眷属の証なのだろう自然と理解する。
『これで、お前は俺様の眷属だ』
「はい、ケイタロス様」
『がはは、やめろよ様なんてよ』
「いや、一応さ……」
『お前は俺様の息子みたいなもんだからよ、そんな畏まるなって』
「……うん、まぁ、そういうなら」
『よしッ、俺様してやれるのはここまでだ。頼んだぜ咲太』
「あぁ、任せてくれケイタロス」
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