いざ、ケイタロスの居城へ
誤字修正しました。(22.6.2)
嘗て城の入口だったであろう場所は、外壁同様ところどころ崩れており、俺達は積み重なった瓦礫の上を伝って城内へと侵入した。
「中は、それほど壊れてないな」
「うむ、千年以上前の建造物にしては、かなり状態は良いといえるだろう」
「すごく綺麗です」
城内はボロボロだった外壁とは違い、綻びている部分はあるがほぼ当時の原型を保っていた。
紗奈が綺麗だと言っていたのは、恐らく壁の至るところに備え付けられている色鮮やかなスタンドガラスを見ての事だろう。
「あっ、ねぇ、片瀬、あれって……」
菊池さんが、スタンドガラスを指さす。
「ベルガンディ聖国の紋章……なぜ、こんな所に……」
そう、そこには片瀬達の武器にも刻まれている、月桂冠を被った双子の姉妹王の絵が描かれていた。
「まぁ、ベルガンディ聖国の建国者であるルミカとクミカは、ケイタロスの唯一の人間の眷属らしいからな、あってもおかしくないだろよ」
「そうだったんですね……一応、向こうでルミカ様とクミカ様についても学んだのですが、そんな関係だったとは知りませんでした」
自国の建国に関係する事なのに学んでいない所をみると、ケイタロスと双子の姉妹王の関係はあまり後世に伝わっていないらしい。いや、司の話ではルミカ達を巻き込みたくなかったケイタロスが、ルミカにそう指示したとされている。ルミカは、ケイタロスの指示に従って、自分達の関係を闇に葬ったかもしれない。
「それにしても……もったいないなぁ」
もっとこう、お日様がこの城を照らしてくれていたら、あのスタンドガラスはもっと綺麗に輝いていただろうに……。残念な気持ちでいると、ふと、一枚のスタンドガラスに目が止まる。
穏やかな表情を浮かべる三頭の熊。
「そうか、お前たちは最期に取り戻せたんだな……よかった」
◇
不気味さだけが漂う城内をひたすら真っ直ぐ歩くと両開きの重厚な扉が現れる。
「この先だな……ヤバイのは」
「間違いない、ボス部屋であるな。しかし……これは、想像以上だな」
正直、俺ですらこれだけヤバイと思ってるのに、田宮と片瀬達を連れていって大丈夫なものなのか? だけど、折角ここまで一緒に来てくれたのに今から引き返せと言うのも……だけど、もし、こいつらに何かあったら……。
そんな自問自答を繰り返していると、司がやれやれと言った感じで田宮と片瀬達に向け、
「田宮、片瀬、丸山、柚木、菊池。この先にヤバイモノがいる。正直、想像していた以上にヤバいモノだ」
「俺達を名指しすると言うことは……」
「察しがよくて助すかる。あなた達は、今すぐこの城から、いや、この島から退避して欲しい」
「はぁ? ふざけんなよ! 何でここまで来て逃げなきゃいけねーんだよ!?」
案の定、丸山が突っかかってくる。
「それは……「俺達が足手まといだからですか?」」
片瀬は、司が言いにくくしていた事を代弁する。
「そうだ」
「なんだよ!? 足手まといって!」
「言葉の通りだ。あなた方を庇って戦えるほど、簡単な相手じゃないのだ」
「誰が庇って欲しいって言ったんだよ!」
「落ち着け丸山!」
「何が落ち着けだッ、てめぇは、納得できるのかよ!?」
「俺だってくやしい! でも、納得するしかないだろ! 俺達の為に言ってくれてるんだから!」
「……ッ……」
「丸山、なにそんな辛気臭い顔してるのよ? 私達にできる事はやった。それでいいじゃん。後は、咲太さん達に任せようよ」
「菊池……ちっ、分かったよ! アニキ、絶対無事で戻ってきてくれよな? それで、俺に稽古つけてくれ! 次は、絶対一緒に戦うからよ!」
「おま、変なフラグ立てんなよ! それにこんな事がまたあってたまるかよ!」
「あっははは、そう言わずにさ!」
ったく、こいつは。ゲラゲラ笑いやがって。
「田宮、お前もそれでいいか? というか、念のために、お前がいないとこいつらを島の外へ退避させられないからよ」
この浮き島に、ヘリを近づけるのは難しいだろう。ビームで攻撃されたらたまったもんじゃないからな。
だが、浮き島の付近に戦艦を用意してある。試しに海から無人のボートで接近してみたら、何の反応もなかったので、脱出方法としては浮き島から海へと飛び降りる事にしたのだ。なので、先程俺達が降り立った場所にはパラシュートがおいてある。一応、簡単なレクチャーは機内で行ったのだが、こっちは有象無象の素人集団。アクシデントに備えて田宮に付いて行ってもらう。田宮には魔法があるからな。万が一何かがあってもうまくやってくれるだろう。
「もちろんです。皆さん、お気をつけて先に下で待っています」
「あぁ、頼んだ」
田宮達は後ろ髪を引かれる思いなのだろう、明らかに重たい足取りで城の外へと去っていく。
「さってと、いっちょうこの世界でも英雄とやらになってみるか?」
「いいですね! アタシはあっちの世界に戻ってないから英雄とやらを実感していないのでなってみたいです!」
「結構いいもんだぜ? みんなにちやほやされるんだからさ」
「蔑まれた目で見られないです?」
「あぁ、みんな尊敬の眼差しでみてくれる。モテモテだぞ?」
「むぅ、別にアタシはサクがいてくれたらモテモテじゃなくてもいいんです! それよりも、サク、あっちでモテモテだったんですか!? 聞いてないです!」
なんだ、この墓穴堀った感は!
「はぁ、兄上、紗奈。先に進みたい。いちゃつくのはそれくらいにして欲しい」
「あっ、すまん」
心の中では、ナイス司! と司を絶賛してみる。
俺は再び、扉をジッと見つめる。半端ないプレシャー、飲み込まれそうだ。
「さて、最初の作戦からなーにも変わっていない。いのちだいじにだぞ? ヤバかったら、とにかく逃げろ。絶対に後ろを振り向くことなくだ。生きて帰る事だけを考えてくれ!」
俺の言葉にうなずく仲間達。
「いくぞみんな!」
「「「おう!」」」
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