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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
最終章

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誤字修正しました。(22.6.2)

「ふぅ……とりあえず一段落ってところか」


 ケイタロスの居城の入口付近で座り込み周辺に目をやる。


 先程までの死闘がまるで嘘だったかの様に、ただただ静かな時が流れている楽園。先程まで感じていた胸の痛みは和らいたのだが、あの魔物達の事を思い返すと沸々とまた別の感情が沸き上がる。俺は、この感情の正体を理解している。それは“怒り”だ。

 城を睨み付ける。

 この城の中にいるのは、十中八九ケイタロス本人かそれに関わる者だろう。


「サク!」


 俺の名を叫びながら遠くから手を振り、駆け足でこちらに向かって来る紗奈。 

 数時間もの間、アンデッド化した魔物達と渡り合ったとは思えないほど無邪気な紗奈。その可愛らしい顔に先程まで湧き上がっていた怒りが徐々に小さいものに変わっていくのがわかる。

 紗奈のすぐ後ろから高次さんと司も合流し俺のいる方へと集まってくる。


「みんな無事だったか?」

「はい、なんとか。サクもご無事そうで」

「兄上、先程の魔法は一体」


 魔物達を解放した、あの巨大な魔法陣の事だろう。


「……俺も良く分からない。あの苦しそうな魔物達を何とかしてあげたいと思ったら、急に頭に浮かんできたんだ」


 そう、意識して出来た訳じゃない。

 だから理解もしていない。

 同じ事をやれと言ったら、すぐには無理だろう。


「そんな事が……。一瞬であったため、あまり詳しくは見れていなかったが、あれは恐らく……」

「城の上に現れた魔方陣と一緒、って言いたいんだろ?」

「気付いていたのか」

「あぁ、何となくそんな気がしたんだ。魔物達をよみがえらせる事が出来るなら、その逆も可能なのだろう」

 なんで俺にそんな事が出来るんだ?

 ケイタロスとは何者なんだ?

 俺となんの関係があるんだ?


 いや、俺は、気づいているはずだ。

 俺の中にいる存在を。

 あの日。あっちの世界で豚王の奴隷紋に支配されていた時現れたあの男。

 あいつは……。

 

「咲太さーーん!」


 物思いに更けている、今度は遅れて田宮と片瀬達がこちらに向かってきていた。

 良かった、田宮達も無事みたいだ。

 ただ、ぴんぴんしてる元戦闘奴隷(俺達)とは違って、満身創痍といった感じだ。


 司曰く、あちらの世界は現在(いま)とケイタロスがあの世界に降り立った千年以上前では、大気に含まれている魔素濃度が全然違うらしい。千年以上前の方がはるかに濃いんだとか。そのため魔素を取り込んで生命力とするあちらの生物は現在(いま)よりも強力だというのだから、片瀬達や戦闘経験がない田宮を心配していたのだが、いらぬ心配だったようだ。


 俺や紗奈、それに高次さんに司だけであれば、すぐにでも城に乗り込めそうなのだが……田宮達には少々きついだろう。


「少し、休憩にしよう。腹も減ったしな」

「やったー、アタシもお腹すき過ぎて倒れそうです」


 はしゃぐ紗奈に、ホッとした様子の片瀬達。

 休憩を取り入れたのは正解だったな。


 小さな輪になって座り込むと、輪の中心部に司と高次さんがどこからか拾ってきた端材を積み上げる。ある程度積みあがった端材を司は火魔法で燃やし、更にその上に幻魔の装で具現した武骨な大盾を固定する。鉄板の代わりらしい。以前、そんな使い方していいのか?と言ったら、あっちの世界の魔法士の中では魔法で生成した盾を鉄板代わりにするのは常識だと返された。


「そろそろだな」


 盾が良い感じに温まってきた頃合いをみて、俺と司は背負っていたリュックから鈴さんが準備してくれた食材を出す。まぁ、食材と言っても牛の塊肉と調味料だけだが、肉が食えれば十分だろ。


 盾に満遍なく油を引き、塊肉を載せられるだけ載せる。

 ジュゥウウっという食欲をそそる音と、少し遅れてくる肉の焼ける匂いに堪らず喉を鳴らしてしまう。


「おにく、おっにく♪」と気分上々な紗奈を見て自然と口元が緩む。


 塊肉の表面にある程度焦げ目がついた事を確認し、肉をスライスする。

 まだ生の部分を後はみんなの好きな焼き加減で食べてもらうのだ。


「そろそろかな」


 俺は、よく焼き(ウェルダン)が好きだ。肉が硬くなるとかいうかも知れないが、俺の顎は頑丈なんだ。


 各々焼き肉を楽しんでいると、片瀬達の食が進んでいない事に気付く。


「どうしたんだ? これから何があるか分からないんだ、食える時に食っておかないといざという時にうごけないぜ?」


 俺の言葉に、紗奈、司、高次さんが同意するように頷く。


「なんか、咲太さん達を見ていると俺達は本当に恵まれた環境にいたんだなぁって思います。あの腐敗臭の中、あれほど強力な魔物達と何時間もやりあって、顔色一つかえずそれだけ肉を食べれるんですから」


「そうか? まぁ、今となってはこっちに戻れたからいいけど、あんな生活は二度とごめんだからな」

「ほんとです、死んだほうがマシです」

「はは……」

 

 片瀬は、苦笑いを交えながら震える手で無理やり肉を口に入れた。


 それから、食事を兼ねた休憩に小一時間ほど費やした。


「さて、腹も膨れたし、そろそろ城の中に入ろうと思うんだけど、片瀬、田宮大丈夫か?」


 紗奈達には聞かない。必要ないからだ。


「僕はいけます」

「俺達も大丈夫です」

「そうか、なら行こう!」


 行けると片瀬達の表情は決して無理をしているものではなかった。俺達よりはまだまだ力は劣るが、さすが、あの世界でもまれただけはあるのだろう。


 だから、俺はそれ以上何も言わず城内に向けて歩き出すと、みんなは俺の背中に引っ張られるよう立ち上がった。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

もう一話続きます。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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