魔法障壁をぶち破れ!
「実際に目の当たりにすると、圧巻だな」
羽田空港から出発すること小一時間、目的地である浮島、楽園が視野に映り込んできた。
モニター越しで見ていたより、楽園は想像以上にデカく禍々しかった。それに……。
「なんて馬鹿げた魔力だ……」
「こんなの……冷や汗がとまらないです」
「そんなに凄い魔力なんですか? 嫌な感じはしますが……」
どうやら紗奈達は、魔力が扱える俺、田宮、司が中てられている楽園から滲み出ている馬鹿みたいに強大な魔力を感じられないらしい。まぁ、それでも嫌な感じに気付けているのは大したものだろう。おそらく、普通の人であれば何も感じない。だから、あんなに民間の報道ヘリがあの浮島に近づく事が出来たと言えるだろう。ちなみに国からの命令により報道陣は全て撤退している。
予定通り楽園上空へと移動する。
司の風魔法により輸送機は楽園上空100メートル程の場所にとどまっている。
そして俺は、楽園を包んでいる魔法障壁の粗を探してみるのだが……全然分からない。
「なぁ、全然魔力密度が薄い部分なんて全然分からないんだけど、俺が魔法に関してド素人だからなのか?」
「……いや、兄上だけじゃない。私にも魔力密度が薄い部分を見つける事が出来ずにいる。田宮、あなたはどうだ?」
「すみません、僕にも感じ取れませんでした」
「どうやら私の予想は外れたという事か……」
「おいおい、そんなのありえるのか? だって、酸素がないって事なんだろ?」
「そうだな、常識的に考えればありえない……が、酸素の代替えができる何かがあるのか、そもそも生物が存在していないのか……まぁ、魔法障壁ごしでも伝わるこのプレッシャーを考えればおそらく前者だろうな」
「まじかよ……」
「そんな顔をするな兄上。そもそもこんなモノが空に浮かんでいる自体常識的にありえない事なのだ。ここは常識を捨てるべきだろうな。でなければ、足元をすくわれる」
司の言う通りだ。
この先にいるのは紛れもなき強者だ。楽園に足すら踏み入れていないのに、こんな事で動揺しているなんて、命がいくつあっても足りない。
「なら、どうするんだ? 予定していた魔力密度の薄いところが見当たらなければ、どうやって中に入るんだ?」
最年長の高次さんが、顎に手を当て俺と司に問いかける。
「予定は狂ったが、やる事は変わらんよ」
「変わらない、とは?」
「言葉の通りだ、あの魔法障壁は兄上に壊してもらう」
◇
「いいんですか? 俺達にこれを渡して」
「問題ないよ。これから相手にするはあっちの世界のモノだからな」
俺は、片瀬達、元ベルガンディ聖国の勇者達があっちの世界で使っていた武器を手渡す。片瀬と丸山にはロングソード、菊池さんと柚木さんには槍、そのどれもが持ち手の部分に月桂冠を被った二人の乙女がそれぞれ剣と杖をクロスさせて向き合っている紋章が刻まれている。そう、ベルガンディ聖国の紋章だ。アレらは、こっちの世界に戻った際に扱いに困った武器の類はすべて六課が預かる事になり、ずっと保管していたのだが、今回の戦いのために俺が課長に懇願し持ってくることができたのだ。
「俺にも、すまんな」
「いえ、紗奈には元々こっちの世界で使っていた武器がありますし、司と田宮は【幻魔の装】によって魔法で武器の生成が可能なです。なので、高次さんだけ何もないわけにはいかないですからね」
俺は魔力を身体に纏えばいいし。それを考えたら高次さんだけ武器なしじゃ心もとないと思い、実家が古くから伝わる古武術の道場を営んでいる遠藤さんに相談したら、国家の危機に役立てるならと中々の業物を快く譲ってくれた。貸してもらったと言わないのは、今回の作戦で無事に返せる確証ができないためだ。遠藤さんもそれは了承済みだ。
ひと通り準備は整った。
後は、あの魔法障壁をぶち破って楽園に乗り込むだけ。
「さて、そろそろやるぞ。段取り通りでいいな?」
「あぁ、問題ない。では、始める【風の道】」
司が唱えた魔法【風の道】は、司が咄嗟に思いついたオリジナル魔法だ。
楽園までに一直線の風の通気口を風魔法によって作り出したのだ。
無色透明なので、何をしたかはパッと見わからないが、明らかに一ヶ所だけ透明な円柱の様な物が出来ている感じがする。これで風の抵抗は無効化された。そして、田宮の役目は重力魔法【重力操作】を駆使し、スリングショットの様に反動を利用して楽園の魔法障壁にぶつける計画だ。
「頼みましたよ、サク」
みんなからの信頼の眼差しが寄せられる。自然と口元が緩む感じがする。
ここで、俺があの魔法障壁を何とか出来なかったら一巻の終わりなのだから、プレッシャーはある……だが、こうやって頼りにされるのも悪くない。国の一大事。そんな非常事態に俺を信頼してくれ、大役を任せてくれているんだからな。
「任せてくれ! みんなはすぐにでも楽園に乗り込めるよう準備をたのむ! よっしゃ行くぜ!」
輸送機から飛び降りた俺の身体を田宮の【重力操作】が引っ張り上げる。自由落下を無視しての重力操作。かなりの反発が溜まっていく。
「咲太さん、離します!」
田宮のその言葉と同時に、俺の身体がものすごい勢いで引っ張られる。
そして、司の【風の道】により、落下スピードは増していきものすごい重力が身体にかかっているのが分かる。
後は、俺があの魔法障壁を砕くだけっ!
俺は両腕に黒の魔法を纏い、段々と魔力を両拳に込める。
「黒拳!」
魔法衝撃と接触したとたん、それはまるで弾力性のあるゴムの様に反対方向に伸びていく。
「うおおおおおおおおお! ぐあっ!」
くそっ、押し戻された。
だが、手応えはつかめている。何度かあの一点だけに集中すれば突破できそうな気がする。
「司! 田宮! ドンドンいくぞ!」
田宮が再度【重力操作】を駆使し、俺を引っ張り上げる。そして、また魔法障壁に突っ込む!
一度でだめなら、二度三度。それでもだめなら、魔力が続く限りこの手は休めない!
――ピキっ
九回目の試みの際に、わずかであるが魔法障壁にヒビが入る。
「よっしゃあ! ヒビが入った! 次で決めるぞ!」
「任せてください!」
「私も手伝おう!」
【風の道】も安定してきたので、司も田宮同様に【重力操作】を唱える。
先程の数倍空に引っ張られる。
やばいやつだなこれ……。
「「解放」」
くっ、身体の負荷が先までの比じゃない!
俺の身体が原型を保っているのが不思議なくらいだ!
これで最後にしないと、身体が持ちそうにない! 何か、何かないのか!? 確実に突破できそうな何かが!?
俺は、何か突破口がないかと魔法障壁に注目する。
あっ、あれは!?
今まで気づかなかったのだが、魔法障壁のいたる部分に螺旋状の渦みたいのが発生している。
そうだ、あの渦のように俺の身体を横に捻ってスピンをかけたらどうだろうか? ボクシングでいうコークスクリューブローのように。それなら、貫通力が増してあの弾力性のある魔法障壁をぶち抜けるかもしれない!
何もやらないよりはマシだ!
俺は、魔力駆使して身体を捻り解放する。魔法を飛ばせない分、身体をを使った魔法の行使はだいぶ上達しており、この状態でも無理なくできた。横回転にスピンが掛かる。
「うおぉぉ、縦と横両方からの重力が身体バラバラになりそうだッ! ぐッ、障壁は……」
魔法障壁までは目と鼻の先だ!
身体を持ちなおす事に集中していたため、障壁にここまで近づいている事に気が付かなかった!
「間に合え! 黒の螺旋!」
再度、魔法障壁と俺の拳がぶつかり合う!
先までとは違い、俺の拳が魔法障壁を巻き込んでいる感じがビシバシと伝わってくる! 手ごたえは十分だッ!
「もっと、もっとだああああ!」
更に魔力を込めて、スピン量を増やす!
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ピキッ、ピキッ、ピキッ、ピキッピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキ――パリイィン!
ガラスが割れる様なこの感覚!
「よっしゃあああああ! ぶち壊してやったぜえええええええ!」
いつも読んでいただき、ありがとうございます!




