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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
最終章

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242/269

一点突破

 羽田空港に到着した俺達は、空港スタッフにより一般旅客機の滑走路とは別の制限滑走路に設置されている格納庫へと誘導される。

 格納庫の前には、既に到着していた我が六課の車両担当である海さんが待ち構えていた。


「海さん、お待たせしました!」

「思ったよりも早い到着だね」

「道が想定以上に空いていたので」

「それとサクの運転も以前と比べて大分上手になったので」

「ははは、前は散々だったからね」


 と俺の背後からひょこっと顔を出す紗奈の言葉に何かを思い出したかの様に笑う海さん。


「まぁ、いいじゃないですか……今は普通に出来るんだし」


 免許をとって間もない頃の俺は、車に自分の命を預けるという事にかなり恐怖を感じていたため、同乗者が溜息をもらす程の度を超す慎重運転だったのだ。慎重に運転をする事に越した事はないのだが、法定速度よりも遥かに遅いスピードや車線変更が出来なくて首都高の出口から出られずパニックになるなど、逆に危ないとも言えるだろう。


「司君達は、もう輸送機の中で待機してもらっているよ」

「そうですか。紗奈、片瀬達を連れて先に輸送機に行ってくれるか?」

「はい、わかりました」


 そう言って紗奈は、片瀬達を連れて司達が待っている輸送機へと向う。俺はというと、最後のメンバーの到着を待つ必要があるため、まだこの場所にとどまる必要がある。


「それにしても咲太君のツレは揃いも揃って良いオトコぞろいで、ハァ~脳が蕩けそうだよ」


 そう言ってうっとりしている海さんの表情は、その整った容姿故に決して卑下たモノでなく逆に絵になるというか……。


「咲太!」


 海さんに若干引き気味になっていると、俺を呼ぶ声がして、その声に反応して振り返ると黒いニット帽を被った長身長髪の男が立っている。元戦闘奴隷仲間の高次さんだ。


「あっ、高次さん! 来てたんですね」

「今さっきついた所だ。こうして顔を合わせるのは、帰還した日以来だな」


 そう言って伸ばされた高次さんの右手を握り返す。


「はい、元気そうで! 今日は来てくれてありがとうございます。心強いです」

「お前と司に比べたら力不足かもしれないが、俺なりに頑張らせてもらうよ」

「力不足なんて、頼りにしてます」


 高次さんの右手を離し、再度海さんに身体を向ける。


「じゃあ、海さん、いってきます」

「うん、ちゃんとみんなで無事に戻ってくるんだよ?」

「はい、もちろんです」


 海さんと別れ、俺達はみんなの待っている輸送機へと歩を進めた。



 輸送機に乗り込むと、左右両端にベンチシートが備え付けてあり俺と高次さん以外のメンバーは既に着席していた。


「サク、こっちです」

「お、おう」


 紗奈に手招きされ、不自然に一人分の着席スペースが出来ている紗奈の隣に腰を下ろす。みんな、俺と紗奈の関係を知っているため、気を遣ってくれたのだろう。


「田宮、ありがとうな」


 俺は正面に座っている、田宮に今回の助力について感謝の意を述べる。


「どこまでお力になれるか分かりませんが……精一杯頑張ります」

「あぁ、よろしく頼む!」


 田宮は、ワタルの魂と同期していたためワタルの力が身体に定着している。しかも、生き返れるとは考えもしていなかったワタルが俺との再戦に向けて田宮の事を鍛えていたため、異世界帰りの俺達とは身体能力的には劣るが、こと魔法に関しては、かなりの戦力になりえると確信している。そもそも、ここにいるメンバーの中で魔法を扱えるのは、司、田宮、俺のたったの三人だ。しかも、俺の魔法なんて近接戦闘に特化しているので、飛び道具としては使えないため、効率よく敵の数を減らすための魔法による援護射撃は司と田宮に頼るしかないのだ。


「さて、出発する前に一言だけ」


 皆の視線が俺に向けられる。


「まずは、こんな不確定要素だらけの作戦(ミッション)に参加してくれて本当にありがとう。あの浮島、楽園(エデン)があっちの世界のものという可能性が極めて高い以上、ここにいるみんなの力や経験がその誰よりも頼りになると思っている」

「へへ、アニキに頼られるなんて腕が鳴るぜッ!」

 とワザとらしく力こぶを作って見せる丸山に口元が緩みつつ言葉を続ける


「実際、楽園(エデン)に乗り込んで何もなければそれに越したことはない。だけど、あの報道ヘリを攻撃したビームの様な物を見る限りその確率はかなり低い。なので、各自最悪の事態を想定しての行動を心がけて欲しい。少しでも自分の命に危険が及ぶと感じた時は、迷わずに逃げてくれ。“いのちだいじに”だ。それと、司、簡単に楽園(エデン)ついての説明をみんなしてくれ」


「わかった。あの浮島は――」

 

 ひと通り、司が得ている情報をみんなに開示する。

 俺と紗奈以外は、まだ詳細を知らない。今回、俺達が戦う可能性のある敵について事前に知ってもらいたかったのだ。少しでも多くの情報を得るため、みんなも黙って司の説明に耳を傾ける。


「漆黒の殺戮者の存在は初めて知りました。始まりの魔王始祖アーノルド・ルートリンゲンについてはワタルの記憶にあったんですが……」


 田宮の知識=ワタルの知識だ。

 一国の重鎮であり勤勉なワタルの知識でも知りえない事を他のみんなが知っている訳もない。てか、それを知っている司が凄い。こいつのお陰で今回そこまで時間を掛けず初動対応に移す事ができたのだからな。もし、司の知見がなければ、報道ヘリが攻撃されたのをきっかけに何らかの戦闘態勢になり、犠牲者が増えたかもしれない。


『当機はただいまより離陸態勢に移る、各自速やかに安全ベルトを装着されたし』


 指示に従い、各々がシートに備え付けられている四点式ベルトを装着する。するとゆっくりと機体が前進し格納庫から滑走路へと出てくる。


「それで、どうやってあの島に入るんだ?」


 高次さんの疑問はごもっともだ。おそらく楽園(エデン)と一定の距離を保っていないとあの報道ヘリの二の舞になるだろう。なので、一定の距離を保ちつつ侵入する必要があるのだ。


「それについても、司が説明してくれます」


 みんなの視線が俺から司に移行する。


楽園(エデン)を包み込んでいるあの霧は、魔法障壁だ。普通の魔法障壁となれば私達オルフェン王国の元英雄であれば物理で破壊する事が可能だが、件の魔法障壁は可視化できる程に濃密であるため、そんな簡単にはいかない」

「サクの力でも無理なのですか? サクは、今まで何度も拳一つで魔法障壁をうち破いてきたのですよ?」

「無理だな」


 以前田宮の家に張ってあった魔法障壁は透明だったし、俺の拳一つで砕く事ができたのだが、今回は目に見える程に魔力が濃密に込められているためただの物理攻撃では難しいというのが司の意見だ。


「あそこまで濃密で島一つを包み込んでいる大きさの障壁を全て破壊するのは不可能なため、一点集中型で突破する必要がある。そして、一点突破なら兄上の力で可能だと思っている」

「どうやって?」

「実にシンプルな方法だよ。まずは、この輸送機を楽園(エデン)上空100メート程の高さまで移動させ、障壁の魔力密度が薄い部分を見つける」

「魔力密度が薄い部分? 実際、そんなものがあるのか?」

楽園(エデン)とて生物が住まう島だ。生物が生きる為には酸素を必要とする。万が一あの障壁の密度が一定で密閉されているとすれば、生物は生き長らえる事ができない。どこかに通気口の様な役割をしている場所があるはずだ」

「そんなもの探せるのか?」

「魔力の波動を感じ取ればいいのだ、楽園(エデン)に近づきさえすれば、そんなに難しい事ではない。今の兄上でもできるだろう」

「マジか……」

「それで、その薄い部分に向けてサクを突進させるという事ですか?」

「概ね、そんな感じだ。まぁ、空気抵抗などもあるから色々と魔法で補助はするのだがな。兄上の魔力を纏った拳であれば突破可能だろう」


 司の言葉が一区切りしたタイミングでウイィィィンと輸送機からエンジン音が響く。そして、徐々に機体が加速していくと同時に身体が後部に引っ張られる。


「離陸する様だな。一旦、後にしよう」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

最低でも週に一話更新しようと思っていますが、本業が忙しく中々かけない日々が続いております。。。

GW中に後数話更新出来たらと思います。

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