信頼というもの
一課と統合したとしても、原則俺達六課の拠点は前と変わらず地下のままだ。
そして、一課の拠点もそのまま存在している。地上にだ。一課の拠点に移ることも可能だがそうしないのは、六課の拠点の居心地と設備が良すぎるからだ。だからなのか遠藤さんも、いつも俺達の所にいる。まぁ、一課の拠点に行っても一人ってのもあるからだろうけど……。てか、一課の拠点に要らなくね? と思うのだが、一応この組織の顔である一課の拠点だ、そんなわけにもいかないのだろう。
「服部咲太入ります!」
そんなマイホームのドアを気合いをいれてくくる。
室内には、美也子さんをはじめとする六課のメンバーとレンさん、そして、先ほど連絡を取り合っていた司がソファーに座っていた。ちなみに紗奈は、学校があるため遅れてくると連絡をもらっている。
「きたか、咲太。では、竹本君。説明を頼めるか?」
今回の件は、司が専門だと事前に美也子さんには伝えてある。なので、俺の到着と同時に全てをすっ飛ばして美也子さんは司に説明を求め、そして、司がそれに応える。
「前世の私が目にした古い書物にアレと同じ浮島が存在する」
司が、転生者だと言うことはここにいるメンバーには周知済みだ。
だから、包み隠すことなく司はそう口にする。
「もっと詳しく」
美也子さんの言葉に司は頷き、言葉を繋げる。
「古い文献、そう、今から千年以上前の文献がディグリス王国の禁書庫に保管されていた。それは、漆黒の殺戮者ケイタロスと始まりの魔王アーノルド・ルートリンゲンについて記述されている。著者は、ベルガンディ聖国を建国した双子の戦乙女である、ルニカ・ベルガンディによるものだ。私はこれをルニカの文献と呼んでいる」
そこまで言いかけ、司は鈴さんから出されたコーヒーを口に含み、続ける。
「ルニカの文献ではこうしるされている。地に住まわる全ての生物のために神が使わし二人の導使。それらは、のちに漆黒の殺戮者と呼ばれるケイタロスと魔族の支配者である始まり魔王アーノルド・ルートリンゲンだ」
「アーノルド・ルートリンゲンって」
アーノルドという名に、一時期俺と行動を共にしていた真紀が反応する。
「真紀、悪いが時間が惜しい。質問は後にしろ」
「うっす……課長」
「話の腰を折って悪い。続けてくれ」
「眷属化により自分の配下を増やしていったアーノルドとは正反対に、人嫌いだったケイタロスは、人間の眷属化を拒み、その代わり魔物達を己の眷属にした。眷属にしたと言ってもアーノルドとは違い導使ならではの力を分け与えた訳ではない。ただ、眷属化したら意思疎通が叶うという事で、ケイタロスは魔物達を眷属化したのだ。だから、実際に力を分け与えた眷属は、双子の戦乙女ルニカとクミカの二人だけだ。さて、前置きはここまでにして、あの、空に浮かんでいる島について、ルニカの文献によれば、人嫌いだったケイタロスが俗世から離れるために自ら造り上げた楽園としるされている。その楽園には、ケイタロスが眷属化した魔物達で溢れているともされているのだ。だから、私は考えたのだ。あの浮島が、万が一にもケイタロスの楽園であれば、有象無象の魔物達で溢れかえっていると……そして、あれが現れたという事は……」
「ケイタロスが、あそこにいる。という事か?」
皆を代表した美也子さんの言葉に司は頷く。
「その通り。ただ、ケイタロスは、アーノルドとは違い争いを嫌う温厚な導使だったとされている……だが、あの浮島から感じられる禍々しい魔力の渦は、私が読んだルニカの文献とはかけ離れているのだ」
「だそうです、美也子さん」
美也子さんは頷き、目を瞑る。
色々と頭の中で計算をしているのだろう。
「咲太、異世界の勇者達はいつ到着する」
片瀬達の事を言っていると判断し、「先程、FINEにメッセージあり。あと三十分以内に東京駅に到着予定です」と間髪いれず返す。
「上から憑依者案件を解決した我々六課に何とかしろというお達しだ。皆、気を悪くしないで聞いて欲しい。正直、今回の件は、異世界経験者である咲太、竹本君、紗奈たん、そして、異世界勇者の者達の力に頼るしかないと私は考えている。私はみすみす部下を死地においやるつもりはないからな。あぁ、勘違いしないでくれよ? 咲太達の命を軽んじているわけではないからな?」
「はい、それは分かってます」
「今回の作戦を“西の楽園”と名付ける。咲太は竹本君と一緒に、紗奈たんと異世界勇者の者達と合流したのち、我々が保有する輸送機で楽園に向かい現地の調査を実施、わが国の脅威となると判断した場合は、直ちに処置を実施してもらう」
「はい、承知いたしました。ただ、司は……」
「何を言っておるのだ兄上。我が国の危機かもしれないのだ、力ある者が働かなくてはどうする」
「いや、まぁ、そうだけどよ」
「心配しなくとも、兄上の背中を守れるくらいの力量は持っていると自負している」
「お前の実力は分かってるよ、俺が言いたいのは……いや、なんでもない。サクっと終わらせてサクッと帰ろうぜ」
司の前世、今世を知っている俺としては、もっと平和な日常を堪能してもらいたいのだが……こいつがいる事で大分余裕が持てるという事もある。それ程、力の面でも頭の面でも信頼における奴なのだ。大丈夫、何かあったら俺が守ればいい。そんな事を考えていると「咲太」と美也子さんも声で素に戻る。
「はい」
「頼んだぞ」
「……任せてください」
美也子さんからの絶対的な信頼、応えてこそ男だろ!
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




