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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
最終章

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234/269

彷徨う女

やや残酷な描写ありです。


 久美佳という名前を与えられた私は、()()()十歳の誕生日に前世の記憶を取り戻した。ケイタロス様に命を助けられ、双子の姉ルニカの妹だったクミカという人生を終えてから、数えきれない世界と、人生を彷徨ってきた。


 今回は、地球という星の日本という国に転生したらしい。


 まだ、覚醒しきれていない頭で、私は自分の置かれている状況を確認する。

 広々とした畳の部屋に私は横たわっている。

 そして、部屋の中心にあるちゃぶ台を挟んで中年の男と女が座っている。男は、私の母の兄。つまり、叔父と女はその恋人らしい。

 私の両親は、数年前に事故で他界し、身寄りのなかった私は叔父に引き取られたらしい。

 そして、この男は碌でもないらしい。


 ガリガリに痩せ細った身体からは、所々から鈍い痛みを感じる。私は、この叔父に虐待にあっているらしい。私がいま横たわっているのも、つい先ほどまでパチンコで大負けした叔父の憂さ晴らしの道具にされていたかららしい。


 先程から、“らしい”と言っているのは、私が体験した訳ではなく、私が記憶している事だからだ。


「てめぇ、クソガキ! なんだその目は!」


 こんなクズに今まで散々好き勝手やられた事に沸々と怒りが込み上げる。そんな私の目が気に入らないらしく、口汚く罵る叔父は再び私の胸倉を掴む。

 

「てめぇ! 誰のお陰で生活できると思ってんだ!」


 その言葉、利子をつけて返したい。

 元々無職だった叔父は、両親の遺産を好き勝手使って遊んで暮らしているのだから。


「ちょっと~ケンちゃん。通報されるから、あまりやりすぎちゃダメよ?」 


 叔父の恋人も、叔父同様碌な女ではなく、甚振られている私をみて悦に浸っている。更に虫の居所が悪い時は、叔父に加担して私を甚振る。


「わーってるよ、ちょっと教育してやるだけだ」

「……何が、教育よ」

「あぁん!? てめぇ、今なんっつった!?」

「まずは、この汚い手を離してッ」

「がッ、あ、いててててててて」

 

 自力では勝てないため、私は身体強化でこの瘦せ細った身体を強化する。そして、私の胸倉を掴んでいる叔父の手首を握り、力を込めると叔父は苦痛の表情ですぐに私を離す。


「ちょ、ちょっと、ケンちゃんなにふざけんてのよ!?」

「このガキ、すげぇちからで、へ? うっぎゃああああああああ」


 私に手首を潰された叔父の発狂が部屋中を埋め尽くす。魔法で防音を施したため、近隣の住民に気付かれる事はないだろう。


「て、て、めぇ! 何てことしやがる!」


 叔父は私に掴まれていない方の手を伸ばし、ちゃぶ台に置いてある分厚いガラスの灰皿を手に取り、そのまま私に振り下ろす。そんなもので十歳の子供の頭をカチ割ろうとしているのだ。

 もう、なりふり構わずといったところだろ。


【幻魔の装】でダガーを具現し、叔父の腕を斬り飛ばす。


「ぎゃあああああああああああああ、腕が、俺の腕があああああああああああ」


 狭い部屋があっという間に真っ赤に染まる。


「う、うそ、うそ、いやあああああ! 助けてぇえええええ」


 玄関へと走り出す叔父の恋人の両足に向けて風魔法を発動する。


「いやああああああ! 足がッ、私の足があああああああ! 痛い痛い痛い痛いいいいいい!」


 叔父の折れた腕を離し、私は、テレビ台の引き出しを開ける。私名義の通帳とキャッシュカードと印鑑が置いてある。両親が遺してくれた遺産だ。


 通帳を開けてみると、残高は当初の三分の一しか残っていなかった。両親の遺産は結構な額だった筈なのに、たった二年で、こいつは……。


「て、てめぇ、お、俺の金に」

「これは、あんたのじゃない」


 叔父の顔を殴る。


「これは、私の両親が私に遺してくれたお金だッ」


 叔父の顔を殴る。


 何度も、何度も、繰り返し叔父の顔に怒りをぶつける。

 両親の事は、ただの記憶としてだけじゃなく、二人に注がれていた愛情はちゃんと心に刻まれている。

 だから、余計に腹が立つのだ。


「も、もぉ、やめ、て」


 死なないように力をかなりセーブしていたため、叔父の顏はぐちゃぐちゃだが、意識は保っている状態だ。

  

「ねぇ、今、どんな気分?」

「ゆ、ゆるし、て、おれ、が、わるかった、から」

「許すワケないでしょ?」


 幻魔の装いを解除し、叔父を囲むように土魔法でドーム型の窯をつくり火魔法を発動する。


「あ……い、やだ、いやだあああああ! 熱い、熱い、熱いいいいいい!」

 

 窯の中で高温に焼かれている叔父は放っておいて、次は、両足を切り落とされた叔父の恋人の頭を掴む。


「あは、あははは、あはははははは」

「そう、壊れちゃったのね」


 気が狂ったかの様に笑う叔父の恋人と切り落とされた両足を叔父と同じ釜の中に閉じ込める。


「せめて、一緒に葬ってあげる」

「いやあああああああああああああ! あついいいいい、あついいいいいいいい、ぎゃはははははは」


 しばらくして、骨だけになった二人を確認すると、そのまま窯を骨ごと圧縮してできた野球ボール大の球体をカバンにしまい、部屋に火をつけ、その場を後にした。


 十八歳になった。


 叔父とその恋人を亡き者にした後、私は日本中を転々とした。


 私には、幾多の前世があり、そこで培ってきた知識、経験、スキルがあるため、衣食住には困らなかった。

 両親の遺産は手を付けていない。これが、唯一残っている両親とのつながりに思えて、中々手を付ける事ができない。


 日々、なんの意味のない時間を過ごしていく。

 

 以前は、ケイタロス様や姉のルニカを探したりしていたが、それももうあきらめた。

 この世には、私が想像しているよりも多くの世界が存在している。その実、私の記憶の中で一度でも同じ世界に転生したことはなかった。二人に巡り会うのは不可能に近いのだ。


「どうか、今度こそは輪廻転生の輪から外れますように」と願いながら意味のない日々を過ごしていた。


 だが、ある日を境に私の人生が180度変わる。

 

 ファミレスの隣のテーブルに座っている、中年の男を見て歓喜する。

 ついに出会ってしまったのだ。恋に恋焦がれたあの方、ケイタロス様に。

 見た目は違うし、魔力も感じられない。けど、間違いない。


「け、ケイタロス様?」

「……えっ? 僕??」

「はい」

「ははは、惜しいけど、僕はそんな馬と人間が合体したモノではないですよ」

 それは、ケンタウロスだ。どうやら、ケイタロス様は記憶が戻ってない様子だ。それでも優しそうな笑顔、物腰柔らかなもの言い。私の記憶にあるケイタロス様と同じ。


「あの……クミカという名前に聞き覚えは?」

「クミカ……いや、ないですね」

「そうですか……失礼いたしました」

「いえいえ」


 その場ではそれ以上の事を聞くことはなかった。

 ファミレスを出たケイタロス様の後を尾行する。なんの変哲もない戸建ての一軒家に辿り着いた。表札には、【服部】とかかれていた。ダメだと思いつつも、小型の眷属を家に忍ばせ情報を得た。尾行、盗聴、盗撮……犯罪のオンパレードだ。だけど、どうしても抑えきれなかった。数えきれない人生を生きてきた中で、初めて再会できたのだから……。


 この世界でのケイタロス様は、服部圭太という名前で、奥様とご子息の三人家族。本当に仲睦まじい家族で幸せそうだった。あの、ケイタロ、いや圭太様が……。この幸せな家庭を壊したくない……。だけど、次はいつ巡り会えるかわからない。そもそも、次があるか分からない。


 私の中でギリギリに保っていた何かが壊れる。


 沖縄旅行に行くという事で、私も同じ便、同じホテルを予約した。


 そして、圭太様が一人になった時に魅了のスキルを圭太様に駆使した。

 前世のケイタロス様は化け物じみた状態異常耐性を持っていたため、成功するか心配したのだが、思いのほかすんなりと魅了に掛かってくれた。


 それからは、あっという間だった。


 圭太様を焚き付け、奥様と離婚させた。

 息子さんが行方不明という状況だったにも関わらず、私はこの仲睦まじい家族を壊したのだ。罪悪感で胸が押しつぶされそうになったのだが、私は覚悟を決めたのだ。


 数ヶ月一緒にいても、圭太様は記憶を取り戻す事はなかった。

 でも、それでも、私は幸せだった。

 偽りだとわかっていても、私だけに愛情を注いでくれるのだから……。


 余談だが、闇金に手を出させて逃げるよう仕向けたのも私だ。

 ただ、実際にお金は借りていない。関わった者達の記憶を改ざんしたのだ。奥様に渡した慰謝料は、私の両親が遺してくれた遺産から出した。せめてもの償いとして……。


 荒くれ者達によって命を脅かされれば、記憶を取り戻すかもしれないと考えたのだが、この程度の輩は、圭太様にとっては荒療治にも何もならなかった。


 狭山は、圭太様を海に送りだした。

 船上での生活は危険を伴うので、当分見守る事にしたのだが、圭太様が船を降りるまで大きな危険に晒される事はなかった。


 それから、更に数ヶ月。

 圭太様は、再び海へと旅立った。今度は自分の意志で、だ。

 

 魅了については、耐性がつかないように圭太様と離れた時点で解除してある。

 

 前回は、ただ見守るだけだったのだが、今回は介入する事にした。圭太様のご子息と同年代の青年を操り、近づけさせてある程度の関係を作らせた。

 そして、大嵐の中、青年を海へと落とした。必ず圭太様が助けてくれると信じて。だが、もし、圭太様が助けなければ私が助けるつもりだった。


 案の定、圭太様は迷うことなく海へと飛び込んだ。

 

 そして、今にいたる……。

 漆黒の光柱の中には、漆黒の魔力を全身に纏った。圭太、いや、ケイタロス様が佇んでいた。


「ケイタロス様……」

「オマエハ……クミカ、カ」

「はい。クミカです。やっと、やっと逢えましたわ」

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

次話は「臆病な青年と双子の姉妹王①」になります。


後、20話位で咲太の物語を終わらせるつもりです。


最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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