帰ってきた元親父 ㊤
最終章突入です。
文章がおかしかった部分を修正しました(22.3.9)
こっちの世界に戻ってきて、一年が過ぎた。
俺はというと、以前と変わらず美也子さんの元で六課の仲間達と世のため、人のために拳を振るっている。この二つの拳でしか物事を解決するしか能のない俺は、さぞ野蛮人に見えるかもしれないが、あいにく俺に出来るのはこれしかなく、それを買われて俺は六課にいるのだから大目に見て欲しいと切実に願う。
ちなみに、今年に入って一課の御堂筋課長が寿退職されたため、新年度より六課と一課は統合し、美也子さんがまとめる事になった。ただ、課名をどちらかに寄せる事はしない。両課の役割分担をはっきりさせるためにだ。あくまで、一課は表、六課は裏なのだ。だが、一課はあのいけ好かない課長代理を含む男性陣は、三上達との一件以来復帰絶望に陥るほど身も心もズタボロになってしまったため、紅一点だった遠藤レンさんだけが残った。なので統合と言っても六課のメンバーに遠藤さんを加えた布陣となっている。一課で唯一まともな性格で、しかも、憑依者と戦える程の実力を兼ね備えた頼りになる仲間が増えた事は、俺達にとってプラスになったと言えるだろう。
それはそうと、この遠藤さん、驚く事に服部三幸の一件でお世話になった警視庁の遠藤警視正の妹さんなのだ。共通の知り合いがいる事で話が弾み、最初にあった変な蟠りはいつの間にか薄れ消えていった。
紗奈は高校三年生に進級した。
受験生という事で勉強に専念してもらうために休職扱いになっている。まぁ、それでも頻繁に六課の事務室に来ているのであまり変わらないのだが……。
受験といえば、司のやつは可愛い幼馴染の彼女と一緒に国立大に合格し、この春から都内で彼女と同棲している。未成年が何を!? と思うかもしれんが、まぁ、両家公認だというのだから部外者の俺が騒いでもしょうがないだろう。司も間違った事はしないだろうし、末永く幸せになってもらいたいものだ。
「ぷはぁ~~」
とある犯罪組織を壊滅させるため、ここの所働きっぱなしだったので、美也子さんから労いの言葉と休暇をもらった。なので、家でのんびりと過ごしている。ちなみに母ちゃんはパート、明美さんは本社でエリア会議があるとかでこの家には現在俺しかいない。
「休みをもらっても、やる事ないしな……暇だ」
ベッドでゴロゴロしながら、テレビ台の端に目が行く。
未開封のゲームソフト達が山積みになっている。そして、その隣には、粉々になってしまったコントローラーが数個。熱中しすぎて力が入り俺が潰した相棒達だ。そんな、相棒達の無惨な姿に新しい相棒を迎えてゲームをする気にもならない。
「紗奈は学校だし……はぁ、暇だ」
やる気のない溜息を吐いていると、スマホが鳴る。
ディスプレイには映し出されたのは、隣の家に住む幼馴染の美咲だ。
「珍しいなぁ」
電話を掛けてくることに対してだ。
いつもなら、FINEでメッセージのやり取りをしたり、直接家に遊びに来たりしているので、美咲からあまり電話を掛けてくることはない。
俺は、美咲が俺の暇な時間を埋めてくれる事を期待して電話に出た。
「もしもし」
『あッ、咲ちゃん、いま家?』
「そうだけど、どうかしたのか?」
『私、いま家に帰ってるところなんだけど、てか、すぐ目の前なんだけど』
「ちょうどよかった、遊びに来いよ、俺すげぇ暇でさ」
『いくー、じゃなくて! 遊びに行きたいのはやまやまなんだけど、その……咲ちゃんの家の周りを変なおじさんがウロウロしてて……怖くて、家に近づけないのよ』
「はぁ? 変なおじさん?」
俺は、自室の窓から外をのぞき込む。
「なんだあれ……」
黒いサングラスに白いキャップ、それに白いタンクトップ姿の色黒で筋肉質のいかにも怪しい男が、家の前で立ち止まったり、離れたりを繰り返しているではないか。美咲はというと、少し離れた電柱に隠れてこちらを伺っている。だっふんだとは言わなさそうだが、変なおじさんではある。
『やばいでしょ? どうする? 栗ちゃんに通報する?』
「取り合えず、俺がいくからいいや、栗さん、最近、連続行方不明事件で忙しそうだったし」
美咲との通話を切り寝間着姿のままで玄関を出ると、そのタイミングで男が家の前に近づいてくる。
「押すべきか……いやでも、今更……、いやでも一目……」
少し距離を詰めてみると、男はブツブツと何かを呪文の様に呟きながらウロチョロしている。
正直不気味すぎる。あっちの世界に行く前の俺だったら間違いなく、ビビって110番していただろう。
「あの~うちに何か用ですか?」
「へッ? あ、あぁ……ッ」
男は俺の顔を見た瞬間、開いた口を閉じれないでいる。
それにしても、この男どこかで……。
「さ、さ、さっくん!」
「は? え? その呼び方にその声……もしかして?」
「さっくううううん! 戻ってきたんだね! 良かった! 本当によかったあああ!」
男は大粒の涙を垂れ流し、俺に抱き付く。
普段であれば、こんな怪しい男に抱き付かれる前に力でねじ伏せるのだが、俺がそうしなかったのには訳がある。
「親父……」
そう、この怪しい男が、俺の元親父である服部圭太改め、田中圭太その人だったからだ。
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