後日談 ④
「えー今日から、このクラスに転入してきた竹本司君だ。竹本君は、親御さんの仕事の関係で数年間海外で過ごし最近帰国した、所謂、帰国子女というやつだ。そして、なんと竹本君は、本校創立以来転入試験オール満点をたたき出した優秀な生徒だ」
担任の田崎教諭の紹介により「お~」という歓声とともに、クラス内の視線が私に集まる。前世では王族、しかも王位継承権第一位だった私だ、目立つ事には馴れていたと思っていたが……ブランクのせいか、非常に気まずいと思う私がいる。
因みに私は、親の仕事の都合により海外で住んでいたことになっている。さすがに、異世界で奴隷やってましたなんて言えるはずもない。まぁ、そんな事を言っても信じる者は一人もいないだろうが。
そんな私に、田崎教諭は容赦なく「さぁ、竹本君、クラスのみんなに一言」とふる。
ふむ……気まずい、が、私は大人だ。
時には嫌な事も、歯を喰いしばってやらないといけないのだ。
「竹本司だ、です、よろしく頼む」
噛んでしまった……が、まぁ、つかみは上々だろう。そう思っていたが、ニコニコしながら私の方を見つめている凛を除いて、他のクラスメート達はシーンと静まり返っている。
田崎教諭からも「えっ? それだけ?」という予想外な声が漏れている。私としては、これ以上ない自己紹介だと思うのだが……。
「あー、まぁ、後は休み時間にでも話し合ってくれ。竹本君の席は……」
「ここでーす! つーくんの席は凛の隣以外ありえません!」
我が幼なじみの元気溌剌な主張により、静寂に包まれていたクラスは、まるで開始前のライブ会場の様にざわざわする。
「おいおい、あの難攻不落な神谷さんが……あいつ何もんだよ!?」
「凛のなんなの? しかも、結構イケメンだし!」
「なんってこった……俺達の純白のエンジェルが、ポッと出の転入生に汚されるなんて!」
様々な意見が飛び交う。というか、最後のやつ……誰が誰を汚すんだ……。
中には、顔見知りもいる。同じ中学だっだ確か……そう、酒井梓だ。酒井は、「あっ、本当に竹本君だ、ウケる! 良かったね、凛。竹本君が帰ってきて」と有難いことに全く違った反応をみせてくれているが、ウケるって……まぁ、酒井は前からあんな感じだったな。
そんな雑音のなか、私が自分の席に腰を下ろした事を確認した田崎教諭がHRを進めるのだが、クラス中の興味の視線が私に集まっている。うむ、非常に気まずい……。
「うへへ~つーくんのおとなりさんだ~」
「こら、凛。田崎教諭が大事な話をしているんだ、ちゃんと集中しろ」
「うへへ~つーくん」
あぁ……ダメだ、これは。
◇
「以上、朝のホームルームを終える」
と、ホームルームを終えた田崎教諭が教室を出たタイミングで、クラスの女子共がワッと、私と凛を取り囲む。男子共は、女子の輪に入ることも出来ず、遠巻きでこちらの様子を伺っている状態だ。
「竹本君、凛とどういう関係なの!?」
「あの凛をこんなにデレさせるなんて、何者!?」
「ちょっと、凛もデレてないで説明しなさいよ!」
転入生という立場上、色々と質問されることは覚悟しており、一応質問される事を想定して色々と答えは準備していた。普通、こういう時は、「海外ってどこに住んでたの?」とか、「ちょっと何か喋ってみてよ」などの質問が定石ではないのか? まさか、凛との関係をこんなに詮索されるとは……これに関しては何も答えを準備していない。
うむ、困った……と、思っていたら、背中にパシッと衝撃が伝う。酒井が私の背中を叩いたのだ。
「久しぶり! 竹本君!」
「あぁ、相変わらず元気がよいな酒井」
「あず、知り合いなの??」
「うん! 中学一緒だったからね」
「へぇ~凛と竹本君ってどんな関係なの?」
「二人は幼なじみで、中学の時付き合ってたんだよ。ウケるっしょ?」
「「キャー」」
とまぁ、私と凛をおいて外野が勝手に盛り上がっている。
しかし、付き合っていた、か……まぁ、凛の男避けとして彼氏役をしていた事は、俺と凛、二人だけの秘密だったからな。酒井が勘違いするのも仕方あるまい。
「ふ、二人は今も付き合っているのでしょうか!?」
女子の輪の外から、一人の男子生徒が右手を上げて声高らかに問いかけてくる。そんな、男子生徒に他の男子は勇気を称える反面、ゴミをみるかような視線を向ける女子達……それでも、男子生徒の右手は下がる事なくピンと伸びていた。
「私たちは「そんなのあったり前じゃん! 凛はつーくんのお嫁さんになるんだから!」……だ、そうだ……」
どうやら、凛は私のお嫁さんになるらしい……初耳だ。
凛の発言により、女子達のボルテージMAXの黄色い声と、男子達の断末魔のような叫び声で教室は混沌と化していく。
「俺達の天使が……汚された……」
汚してないというのに……。
「盛上ってるとこ悪いが、とっくにチャイムはなっているんだがな……」
苦笑いを浮かべる田崎教諭に気付いたのは、始業のチャイムが鳴った大分あとの事だった。
◇
転入初日、私にとって一番の出来事は、凛の成長ぶりだった。
ホームルームでは、だらしなかった凛だが、授業が始まるとスイッチが入ったかの様に凄い集中力で授業に没頭していた。私が話し掛けても、「つーくん、だめだよ? ちゃんと授業に集中しないと」と注意されるしまつ。
整った容姿とタウリンたっぷりの溌剌さだけが取柄だった凛が、この県内有数の進学校で生徒会長まで務めて、今となっては知徳兼全なスーパー女子高生になっているではないか……まさに、目からウロコとはこのことを言うのだろう。
「おい、竹本。いくら、自分の彼女が可愛いからって、見つめすぎだ。彼女を見習って、授業に集中しろ!」
「ちがッ、私は!」
「「キャー」」
田崎教諭の余計な一言で一瞬、教室内は盛り上がりを見せたが、さすが受験生というべきか、みな直ぐに黒板に集中し、先ほどの混沌まではとはいかなかった。
「もう、つーくんたら……めッだよ!」
「あぁ、すまない」
授業に集中していなかった私が悪いのだ、お叱りは甘んじて受け入れよう。
◇
五時限目が終わり、一日の全課程が終了した。
想像以上にハードな一日だった……主に精神的な面で。
「凛、一緒に帰るか?」
「何を言ってるのつーくん、当たり前じゃん!」
「そうか……うん、そうだな」
当たり前らしい。
まぁ、小中とつねに一緒に登下校していたからな、当たり前と言えば当たり前と言えるだろう。
「えへへ」
「では、帰るとしよう」
「ん? 何言ってるの? 今日はこれから文化祭の出し物の準備をしないとだから、まだ帰れないよ?」
「文化祭? 出し物?」
「そう! 凜達の高校生最後のイベントだよ!」
「そ、そうか、最後のイベントか、イベントは大事だな」
「なに他人事みたいに言ってるの? つーくんも一緒にやるの! クラスの出し物なんだから!」
「そうか、クラスの出し物なら、そうだな私も力及ばずながら協力するとしよう」
「ふふふ、つーくん、さっきからそうかばっかり。いっぱい楽しい思い出作ろうね!」
「あぁ、そうだな」
両手に握りこぶしをつくり気張る凜の頭を優しく撫でる。
「あの……お二人さん、仲睦まじいのはウケるからいいとして、そろそろ準備に取り掛かりたいんだけど……」
ウケると言いながら苦笑いを浮かべる酒井と温かい目で見守ってくれる女子達と、言葉は発せず木材やペンキをもってこちらを恨めしそうに見ている男子だったが、
「ごめんね、あずにゃん! さぁ、みんな早速取り掛かろう!」
「「おぉぉぉぉ!」」
凜の号令によって、忽ちクラスは一つに纏まり、モクモクと出し物の準備に取り掛かった。
そんなリーダーシップを発揮している凜の姿に、昔から凜を知っている私は驚きよりもやけに誇らしかったのは言うまでもないだろう。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
司の後日談ですが、今回で収まらなかったので、もう一話続きます。
日曜日までに更新したいと思っています。




