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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第11章

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後日談 ②

「こんの馬鹿息子がああああああっ!」

「ひぃッ、お、うおあ」


 おばあ様の一喝に驚いたあの男(三幸)は椅子から転げ落ちる。

 なんとまぁ、情けない。

 

 私と母上、舞子叔母上と咲太(兄上)は今日の事前打ち合わせのために昨晩からこの服部家に訪れていた。その際にこの服部家の家長であるおじい様と幸一叔父上、幸二叔父上とは一通り挨拶はすましている。

 隠し子という存在はどの時代にも煙たがれる存在だ。特に上流家庭ではなおさらだ。それはダリウス時代(前世)にも経験済みだ。そして、自分の家を乗っ取られると勝手に妄想したあげく私を殺そうとしたあの服部三幸の家族だ。そんな事もあって身構えていたのだが、予想外に誰一人として私達を煙たがる者はおらず歓迎してくれた。

 

 さて、三幸は、私以外にも自分が邪魔だと思った者達をあの時の組織、【ピエロの晩餐】を使って消したり、脅迫して自分に有利に事が運ぶようにしていたという。

 何故そんな事が分かるかと言うと、何と【ピエロの晩餐】は兄上が、あ、兄上というのは服部咲太の事だ。さすがに兄ちゃんと呼ぶのキツいため、兄上で了承してもらった。脱線してしまったな、話を戻そう。【ピエロの晩餐】は兄上がそのトップを倒した事で壊滅したのだが、【ピエロの晩餐】のトップの右腕である巽という男は、顧客情報を管理していて、その中に三幸との取引情報もきっちり入っていたという。それが動かぬ証拠となった。


【ピエロの晩餐】に依頼するためには莫大な費用が必要だった。その金を、工面するために三幸は、会社の仕入先に目をつけた。潰れかけていた知人の会社を自分が代表をしている手裏剣リースの仕入先に加えた後、型落ちの製品を格安で仕入れ手裏剣リースに高く売りつけ、利益の半分を受け取っていたのだ。

 全くもってしょうもない男だ。

 三幸の血が私の身体に流れている事実に吐き気がする。


 今回は、三幸を断罪する予定だ。

 しかし、身内で、しかもグループ会社の代表取締役がこの様な悪事に手を染めていた事が露見すれば、上場企業である服部ハウジングにとって企業イメージの低下など、かなり痛手になるだろう。その事について、大丈夫なのかと聞いたところ――「ここまでの事を知ってしまった以上あの子を野放しにはできません。信頼回復には時間がかかるでしょうが、覚悟の上です」とおばあ様をはじめ、おじい様も二人の叔父上達も腹を決めたかの様だった。


 目の前には、おばあ様に叱咤されすっかり怯えている服部三幸。

 その三幸に対して、服部家の面々は険しい表情を向けている。


「い、いきなりどうしたんだよ……親父も兄貴達もどうしちゃったんだよ、そ、そんな怖い顔してさ……?」

「ワシらが何でこんな顔をしているか、本当にわからんのか?」

「は、はは、もしかして、そのガキの事か? そのガキが俺のガキの筈がねぇ、朱里が他の男と作ったガキなんだ!」

「くぉおの……馬鹿たれがああああ!」

「ぐっあ」


 おじい様のげんこつが三幸の頭上に落ち、三幸は痛みのあまり頭を押さえ丸く蹲る。


「この期に及んで、他の男のだと!? 既に、DNA鑑定も済ませておる! 司君は、れっきとしたワシの孫じゃああ!」

「わ、わかったから、そんなに怒らないで。そもそも、俺も朱里が産んだ後に知ったんだよ、あいつが勝手に産んだんだよ! いでぇえ!」


 更にもう一発げんこつが落ちる。


「なんじゃああ、その勝手な言い分は! 勝手に産んだとお前は言っているが、それはお前が朱里さんが産む事を反対したからじゃろうに!」

「何がいけないんだ! こいつがうちに釣り合うわけないだろ! 俺にはもっと相応しい相手がッは」

「黙れ……これ以上、母上を侮辱する事は私が許さない……」


 聞くに堪えなかった私は、三幸の首を掴む。

 

「ぐぐっ、ぐる、じぃ」

「おい、司、やめろ! 死ぬぞその人」と兄上は私の方へと近づき、私の肩に手をのせる。

「このまま死んでくれた方が世のため、人のためだと思うが?」

「バカかお前は、お前が殺人犯になっちまうだろ? 周りを見ろ、そんな事になったら悲しむ人がこれだけいるんだからよ」


 私は、兄上の言葉にハッとし、ぐるりと左右に視線を移す。

 三幸に向けた険しいものとは違う、みんな心配そうな表情を私に向けていた。特に母上は泣きそうな顔で「つーくん、だめ」と弱々しく呟いている。


「ほら、わかっただろ?」

「あぁ……」


 私は、掴んでいた三幸の首を離す。


「ごほ、げほ、げほげほ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」


 よっぽど苦しかったのか、床に蹲って(むせ)ている三幸を一瞥して、おじい様とおばあ様達に謝罪する。

「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ございませんでした」

「自分の親をあんな風に言われたんだ、怒って当たり前じゃ。司君が気にする事はない。ただ、こやつは、しかるところで罰を受けてもらう。それで、良しとしてくれ」

「はい、おじい様」 

「しかる所? 罰? どういう事だよ親父!」

「自分の胸に聞いてみろ、思い当たる節があるだろうに」

「はぁ? そんなもんある訳ねぇだろ!」

「お前が、良からぬ輩を使い司君の命を狙っていた事をワシらは知っている」

「な、なにを言ってるんだよ、そんな訳……」


 何を今更と思っていたら、兄上が三幸に詰め寄る。


「では、何故さっき司を見た時に、「あの時死んだはずじゃ?」とか言ってたんですか?」

「…………」

「まぁ、いいでしょう……これ、なんだか分かりますか?」


 兄上は、カバンから黒革の手帳を取り出した。


「知らねぇよ!」

「これは【ピエロの晩餐】の顧客名簿です」

「なッ!? バカな、ありえねぇ」

「へぇ、そんなもの知らないとは言わないんですね? まぁ、それはいいか。さて、【ピエロの晩餐】は俺が潰しました」

「つ、潰した、だと? でたらめを言うな! そんな事が出来るわけないだろ!」

「でたらめじゃないですよ? 最近、やつらと連絡とれてます? 取れてないですよね?」

「……ッ……」

「たしかここら辺に……あ、あった。顧客名服部三幸。竹本司殺害依頼って書いてありますね、後は、他にも殺害依頼や暴行、脅迫、誘拐……と、びっしり書かれてますね」

「あ、あわわわ、わ」

「これ以上は時間の無駄だな。幸一、入ってもらえ」


 幸一叔父上がスマホを取り出しメッセージ送りしばらくすると四人のスーツ姿の男達が現れた。私達に軽くお辞儀をし、四人はパニック状態に陥っている三幸を囲む様に立つ。


「な、何なんだあんたらは」

「警視庁の捜査一課の遠藤です。服部三幸さん、あなたには殺人未遂および、殺人罪の教唆犯の容疑がかかっていますので、我々と同行をお願いします」

「何を、馬鹿な……」

「それと、収賄罪の容疑もかかっています。これは、我々の管轄ではないので、こちらの取り調べが終わった後、担当部署に引き継がせてもらいます」

 と、三幸の両手に手錠がハメられる。

「い、いや、だ……嫌だ! 助けて、助けてよママ!!」

「三幸……」


 刑事達に引き摺られながら連れていかれる自分の息子の背を、おばあ様は何とも言えない表情で見つめていた。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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