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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第11章

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後日談 ①

書き慣れていない三人称に苦戦してしまいました;;;

「何卒、何卒お許しくださいッ!」


 平日の昼下がり、場所は咲太の祖父母が経営する服部ハウジング本社ビル最上階に位置する社長室。

 高級感漂う使い古された木製の机に両肘をつき、険しい表情を浮かべながら書類に目を落としているのは、咲太の祖母であり、株式会社服部ハウジング代表取締役社長である服部佐江子その人だ。


 目の前で床に頭を擦りつけている壮年の男は、賃貸契約者向けの家具家電などのリース業を営んでいる服部ハウジングの子会社である株式会社手裏剣リースの財務部の責任者で、名を草野(ただし)という。


 この草野が持ってきた書類は、手裏剣リースでの過去三期分の本当の決算書だ。

 子会社の決算書について一通り目を通し、内容を把握している佐江子だが、自分が把握している内容と草野が持ってきた決算書の内容がかなり食い違っているのが、佐江子の表情を険しいものにしている原因だ。 


 結論から言うと手裏剣リースは不正な会計処理を行い、内容虚偽の決算書を作成して虚偽の決算報告を行っていたのだ。所謂、粉飾決算というものだ。


「草野常務、顔を上げて下さい」

「社長……」

「あの子が指示したのですね?」

「……は、い」

「そうですか……順を追って説明してもらえますか?」


 佐江子に言われた通り、草野はことの成り行きを説明しはじめる。


 草野の話では、社長に就任した三幸は経営の事は全て部下に任せ、会社にもほとんど顔を出さなかったという。それでも、会社というものは回るもので今までのやり方で堅調な業績をだしていた。


 三幸が社長に就任して半年が経ったある日、三幸が新たな仕入先を持ってきた。見た事も聞いた事もない会社だった。突如、三幸の口から仕入れを全てこの会社に切り替えろという信じられない指示が飛び、仕入先を一本化にするにはあまりにもリスクが高く、なによりも今まで長く付き合ってきた既存の仕入先を裏切るような事は出来ないと三幸以外の経営陣全員が猛反対し、仕入れの三割ほどを新しい仕入先に移す事で何とか踏み留まった。


 だが、ホッとしたのも束の間、新たな問題が発生した。

 

 三幸が持ってきた新たな仕入先の仕入価格が、現状の仕入先よりもはるかに高いのだ。それに加えて、型落ちの商品ばかりで品質もかなり落ちる。

 これはいかんと思い、既存の仕入先であれば、はるかに安価で高品質の商品を仕入れることが可能だと三幸に再度打診するが「黙れ、クビになりたくなければ俺の言う通りにしろ」と脅され、泣く泣く指示に従うのだが、明らかに型落ちのそれらに需要を求めるのは難しく、何とか使ってもらうためにはリース価格をかなり安く設定する必要があった。大赤字だ。しかし、この事実を佐江子達に知られるわけにはいかないと思った三幸は決算書の改ざんを指示。それがズルズルと今まで続いているという。

 何とかしないとは思っていたが、目の上のたんこぶである三幸がいるためどうする事もできなかったのだが、二週間後に税務調査が入るとの通達があり、導火線に火が付いた草野は居ても立っても居られず、こうして佐江子に打ち明けたのだ。


「はぁ……草野常務、あの子が関わった全てのデータを集めて下さい」

「全て準備できております」

「……分かりました。あの子のことは私の方で何とかしますので、あなたは税務調査が入る前にすぐに修正申告に取り掛かってください」

「承知いたしました!」

「息子のせいで、あなた達には苦労を掛けてしまい申し訳ありませんでした……」

「いえ、社長に謝っていただかなくても……私がこう言うのも烏滸がましいとは思いますが、社長は十二分によくやられております」 

「そう言っていただけると救われます。では、頼みましたよ?」


 草野は、深々と一礼し、社長室から退室した。

 

 佐江子はすぐさま、受話器を持ち上げ夫であり、会社の会長である幸咲に電話をかける。 


「と言うことです」

『はぁ……まさか、そんな事までしていたとは……』

「司さんの事といい、今度という今度はだまって見過ごすわけにはいきません」

『そうだな。咲太からも裏がとれたと連絡があったし、そろそろ頃合いか……』

「あの子が持ってきたという新しい仕入先が気になります。少し調べたいので、少し待ってください」

『なら、そっちはワシの方で調べてみる事にしよう。婆さんには、会社の経営に注力してもらいたいからな』

「ふふふ。分かりました。よろしくお願いしますね」


 と佐江子は柔らかい表情を浮かべガチャッと受話器を下ろし、椅子の背にもたれ何度も深呼吸を繰り返したのち、部下から送られてくる報告事項の確認作業に戻った。

 


 草野からの報告から一週間が過ぎた。

 久しぶりに一緒にご飯を食べようと家に呼び出された服部家三男、服部三幸は、自分が置かれている現況に混乱していた。


 幸咲と佐江子がいるのは当たり前だとして、実兄である幸一と幸二がいるのも別段と不自然ではない。更に、二十年前に学生の分際で子供を作り家を出た義妹の舞子がいる事に普段であれば突っかかるのだが、舞子の隣に座っている存在が三幸の頭は真っ白させていた。


「ど、ど、どういうつもりだ! 朱里ッ」


 そう、一時期恋人関係であった朱里が、子供が出来たと言われて煩わしくなり捨てた元カノがいるのだ。


「立ちっぱなしもなんですから、取り敢えず座りなさい」


 いつもの様に柔らかい口調の佐江子だが、言葉には言い表す事のできない圧が感じられる。さすが、長年工事現場の荒くれ者達と身体一つで渡り合った佐江子というべきか。

 

「や、やってられるか! 俺は帰る!」

「おっと、そうはさせませんよ?」


 三幸の性格上、逃げ出す事もありえるとして咲太が待機していた。


「なんだてめぇは?」

「初めまして。服部咲太です、おじさん」

「おじさん?」

「はい、俺はそこにいる服部舞子の息子です」

「舞子の? って、お前があの時の!?」


 あの時というのは、舞子が家を出た時の事を指しているのだろう。


「さぁ、戻ってください。貴方には、色々と聞かないといけない事があるのでね。だよな?」

「そうだな」

「ぬぁッ!? な、な、なんで、お前が」


 咲太の背後から現れた司を前にして、三幸の顔色が真っ青に染め上がり、ズルズルと後退りする。


「久しぶりですね」

「お、お前は、あの時死んだはずじゃ」

「ひどいではないですか? 勝手に殺すなんて。まぁ、私の事を執拗に消したかった貴方だ。都合の良い方に考えたのだろう」

「ぐッ……」

「まぁ、立ち話もなんですから座りましょう」

「おい、やめ、いててててて」


 まるで赤子のように咲太に持ち上げられた三幸は成す術もなく、元の場所に戻され、無理やり座らせられた。


 目の前には、何かを考え込んでいるかのように目を瞑っている佐江子。底知れぬプレッシャーに押し負けたのか、堪らず三幸は甘える様に「ま、ママ?」と、佐江子に声を掛けるとその言葉に反応した佐江子は深く息を吐き、ゆっくりと両目を開いた。


「私は回りくどく御託を並べる事をよしとしません。それは何故か分かりますか?」

「……時間の無駄だから……」

「その通りです。言いたいことが決まっているなら、ストレートにソレを伝えればいい…………こんの馬鹿息子がああああああ

っ!」

いつも読んでいただきありがとうございます。

今週中にあともう一話咲太の視線で更新したいと思います。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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