またな
誤字脱字修正いたしました。ご指摘ありがとうございます(22.1.21)
俺が目覚めてから更に数日が過ぎた。
ひと月も眠っていたせいで、固くなった俺の身体もようやく調子を取り戻しのか、大分スムーズに動ける様になった。
さて、それはさておき、
昨日、俺達、地球から召喚された二十五人の元戦闘奴隷達は、オルフェン王国の英雄となった。
新たにこの国の王座につく事になったミルボッチ王は、まず、俺達元戦闘奴隷について、民衆が抱いていた誤った認識を正し、大陸全土を敵にまわした過去の戦や今回の戦での俺達の活躍を大々的に讃えた。
最初は理解が追い付かなかった民衆だったが、ミルボッチ王の口からこの国がこうして存在するのは俺達がいたからと畳みかけると、ベルガンディ聖国から解放され気持ちが高揚してい民衆は、大歓声で俺達を讃えたのだ。
胸が張り裂けそうな程に嬉しかったのは俺だけじゃないはずだ。
また、その日の内に王都ルフェンの大広場では、全ての元凶であった豚王の処刑が民衆の前で行われた。自尊心の塊の様な男だ。最初は口汚くミルボッチ王を罵り、石を投げる民衆に罵声を浴びせるのだが、斬首台に首を固定された事で死への恐怖が自尊心を上回ったのか、身体の穴という穴から汚水を漏らし何度も許しを請うのだが、許されるわけがなく刑は執行された。
豚王の汚水塗れの醜悪な頭部が空を舞う間、俺の中では説明しがたい色々な感情が渦巻き、そしてやっと本当の意味で解放されたと実感した。
豚王が処刑されたこのルフェンの大広場には、今後俺達二十五人の英雄像が建てられる予定だという。
自分の像が建つなんて恥ずかしいが、やっとみんなを弔ってやれた実感が沸くのだ、俺の羞恥心などどうでもいいだろう。
実存している俺や竹本君達はいいとして、他の十九人のデザインをどうするか悩んでいると、絵が得意だという高次さんがぜひ描かせてほしいと自ら名乗りを上げたので任せる事にした。
そんなこんなやっている内に、また少しばかりの時間が過ぎ、あっちの世界に戻る日がやってきた。
「悪いなワタル、ここまで来てもらって」
「ふふふ。シエラとの旅行ついでに寄っただけだよ。君が気にする事はないさ」
俺達をあっちの世界へと送り帰すために、わざわざ駆けつけて来てくれたワタル。俺達がユーヘミアに行くと行ったら、転移魔法で自分が行った方が早いと言ってこうしてルフェンに来てくれたのだ。
因みに片瀬達は、俺達が戻った後にワタルがベルガンディ聖国に赴く事ななっている。
「それにしても……ふふふ、まさか君の銅像が立つなんてね」
と広場に御披露目されている俺の銅像を既に見てきたワタルがイタズラっぽい笑みを向ける。
「やめれー! 俺だって恥ずかしいんだからよ!」
二十五体全員分が完成した訳ではなく、俺と竹本君をはじめとする生き残った六人の銅像が先に建てられたのだ。ご本人様という完璧モデルがいるわけで、職人さんたちは各々の匠としての職人魂に火をつけ、俺に瓜二つな銅像が完成した。なんの変哲もない一般人な俺なのだ。実際にモデルがいない方が美化されて、もっとかっこよく仕上げてくれるだろうに……。
「よかったね、咲太」
“よかったね”
俺の実情をよく知っているワタルのその短い言葉には、沢山の意味が込めてれている事が分かる。
「あぁ、本当に良かった」
◇
俺はワタルを皆に紹介し、帰還の準備に取り掛かる。
「私達、本当に、本当に元の世界に帰れるんだね」
「首洗って待ってろよ~セルゲイ」
涙混じり声を絞り出すジュリの隣では、レフさんが悪魔の様な顔をしている。レフさんは、弟分に裏切られ殺されそうになる直前にこの世界に召喚されたと前に聞いたことがある。セルゲイはおそらくその弟分なのだろう。
「やっと……やっと……帰れる」とギュッと拳を握る高次さんに、超ハイテンションなミンギュさん。各々の反応は千差万別だが、みな元の世界への帰還に感無量といった感じだ。
「あるじぃ……」
「グレイス、私はもうこの世界の者ではない。帰らないといけない場所があり、帰りを待っている人がいる」
竹本君は、諭すようにグレイスの燃えるようなオレンジ色のふわふわの頭を撫でる。
眠りから醒めてここ数日で竹本君の身の上話は全てと言っていい程聞いたつもりだ。そんな竹本君だからこそ、どれだけグレイスを大事に思っているかは知っているつもりだ、が、竹本君の言うとおり俺達はこの世界にとって異物にすぎない。俺達がこの世界に留まって良いことはないのだ。それは、グレイスにとっても同じことだ。竹本君の本音としては自分の妹の様な存在であるグレイスを日本に連れて帰りたいだろう……が、連れて帰ってどうする?
グレイスは戸籍すらもっていない、あちらの世界で存在しない人物なのだ。どっかの発展途上国ならまだしも、日本での生活は困難を極めるだろう。それなら、この世界で自分と同じ種族の元で暮らしてほしいと言うのが竹本君の願いなのだ。
「私はお前の事を絶対忘れないし、必ずお前に会いに来る。だから、お前はお前の仲間達と幸せに暮らしてほしい」
「でも……」
「私がこの世で一番嫌うものは?」
「うそ、でしゅ」
「そうだ。なら、私の言っている事が真実である事をお前は知っているはずだ」
「……はい」
竹本君は、再びグレイスの頭を撫でる。
「なら、次会う時までその目を治しておけ。今生の私は意外とイケメンらしいからな」
「……あるじぃ……分かりました、あるじぃのことまってましゅ! ぜったいに、ぜったいに、あいにきてくだしゃいね!」
「あぁ、必ず」
竹本君とグレイスのやり取りを最期に、俺達は元の世界に戻る。ワタルの転移魔法は自分が訪れた場所しか送り出す事が出きず一度は日本に連れていき、国外に住んでいるレフさん達は美也子さんを通じて帰国させるつもりだ。美也子さんなら、何とかしてくれるだろう。性格に難はあるけど我らの課長様は頼りになるのだ。
「じゃあ、そろそろいいか?」
俺の言葉に皆が頷く。
「ワタル、頼むわ」
「うん、今度こそまたね咲太」
「なんて顔しんてんだよ! また会えるだろうに。それに、シエラさんとの新婚旅行に桜を見にくるんだろ?」
「それはそうだけどさ……」
「なら、すぐ会える。てか、俺達の決着もまだついてないんだからな? まぁ、戦っても俺が勝つだろうけど」
「それは聞き捨てならないね咲太。勝つのは僕だよ!」
「いや、俺だ」
「いやいや、僕だから」
「いやいやいや、俺だし」
「いやいや、って、ぷっははは。これは、白黒ハッキリつけないとお互い収まりそうにもないね」
「あぁ、だから、俺達はこれでさよならじゃねぇ。だから、またな、ワタル」
「うん、またね、咲太」
俺はワタルと固い握手を交わし黒い渦に飛び込んだ。
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