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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第11章

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漆黒の殺戮者

誤字・脱字修正しました(21.1.13)

「なんて食欲なの!?」

「もう、二十人前は優に超えているわ」


 慌ただしく給仕のメイド達が料理を運んでいる。

 私の目的地であるオルフェン王国の王城にあるゲストルームにだ。

 

「失礼する」

「むぐもぐもぐむぐ、ズズズズッ、むしゃむしゃむしゃ」


 ひとこと断りを入れて入室した私の目の前には、顔以外の全身を包帯でぐるぐる巻きにされながらも物凄い勢いで運ばれてくる料理を無心に口に掻き込み、ハムスターの様に左右のホッペを膨らませながら、右手を上げるミイラがいる。服部だ。


「もぐむぐ、ふぅ、わりぃな腹が減ってよ」

「ひと月も眠っていたんだ、腹が減るのも仕方あるまい。気にしないで食事を続けてくれ」

「あぁ、あともう少しだけ食わせてくれ」


 そう、あの日。

 服部が再びボボルッチに支配されたあの日からひと月が過ぎた。



「離してくださいッ、このままだと師匠が!」

「がははは、離さんよ! げほげほごほ」


 いかん、オニール殿の魔力の器が徐々にその輝きを失っている。

 魔力の器とはこの世界に住む人々の生命の源であり、正常であれば神々しい光を放っているのだが、これが死に近くなればなるほど、その輝きは失われていく。それはまるで、命の灯火が消えるかのように。


 ただでさえ、限界に近かったオニール殿の魔力の器は、あの服部を抑えこんでいる事でまさに風前の灯火と言った様子だ。


「タケモトッ、ワシがこやつを封じている間にボボルッチを殺せッ」

「承知しました!」


 オニール殿は、もう長くないだろう。

 オニール殿の頑張りに報わなければ!


「うぉおおおお! ボボルッチ、かくごおおおお!」


 最短距離でボボルッチとの距離を詰め、右手に持つ剣をボボルッチの首もとへと伸ばす!


「ひいいい!」

 

 情けない悲鳴を上げるボボルッチ。

 私の剣先はぶれる事なく吸い込まれる様に一直線でボボルッチの首へと向かっていった。


 ――ザクッ


「ちっ」


 堪らず本日三度目の舌打ちを鳴らす。

 

 ポタポタと服部の左手から血が落ちる。

 私の剣先が、ボボルッチの首を貫く事はなかった何故ならボボルッチの首を守る様に伸ばした服部の手のひらせいで。


 服部は馬鹿力を発揮しオニール殿を引き摺るかの様にボボルッチを守ったのだ。

 オニール殿は未だに服部を抑えこんでいるのだが……。


「服部ッ! オニール殿はもう限界だッ」

「俺だってそれくらい分かってるよ! くっそおおお、離してくれよおおお師匠!」


 そう叫んだ直接。

 何とかオニール殿を剥がそうする服部の様子が……。


「な、なんだ、この馬鹿げた魔力はッ」


 今まで感じたことのない、常識ではありえない、途方もない程の魔力が服部から感じられる。


「黒装……」 


 そう呟く服部の周辺をサイクロン状の魔力が渦巻く。

 段々と黒く染まっていくソレは、次第に服部の全身を包み込む。


「あ、あぁ……まさか……」


 私の両目に映るのは漆黒を纏った服部だった。


 私はこの存在を知っている。

 私がまだダリウスだった頃文献で読んだことがあるのだ。


 今からおおよそ千年前。

 始まりの魔王である、始祖アーノルド・ルートリンゲンと共に神よりこの地に降臨させし人族の管理者。だが、殺戮の限りを尽くし神により罰せられ、その身は消滅したとされる。


 その名は【漆黒の殺戮者 ケイタロス】。


 圧倒的な力の前で、私はただ立ち尽くすしかない。

 尻餅をついて恐怖するしかないレフ達と比べれば、幾分かマシだろ。


「あまり時間がねぇ……ったく、脆弱な身体よ」


 服部の口から発せられる言葉に、服部とは思えないほど畏れを感じ、ごくりとただ喉を鳴らすしかない私がいた。


「まずは、此奴からだな」とその存在は、首だけを右に捻り、動揺しているオニール殿に向けてたった一言「眠れ」と命じると、オニール殿は糸の切れた人形の様にその場に崩れる。


「あぁ~未熟者が、魔力の器をこんなにしやがって……しょうがねぇな、これはサービスだ」


 その存在はそう言ってオニール殿の胸部に自分の掌を当てて魔力を流し込む。

 すると信じがたい事にオニール殿の魔力の器がまるで巻き戻される様に修復されていく。


「こんなものでいいだろう。完璧主義者の俺様の性格上中途半端はゆるされねぇが時間がねぇ」


 そう吐き捨てたその存在は、ボボルッチと向き合う。

 案の定ボボルッチは、圧倒的な力の前に恐怖し、ただ震え、尿を垂れ流すしかできない。


「この糞豚がッ、俺様の手を煩わせやがって」

「……ッ!?」


 一瞬にして、ボボルッチの肉片となって吹き飛ぶ。


「あぁ~この糞豚は後で処刑するんだっけか? じゃぁ、殺しちゃまずいか」


 今度は、四方八方に散らばったボボルッチの肉片が一ヶ所に集まり、あっという間にボボルッチに戻っていく。


「まぁ、これで奴隷紋に縛られる事はないだろう」


 そういうとその存在から徐々に魔力が拡散し始める。

 消えようとしているのだ。

 その前に確かめたい事がある、が、圧倒的な力の前に声を発する事ができない。

 だが、どうしてもハッキリしたいのだ! 私は、死に物狂いで今にも消えかかっていくその存在に問いかける。


「ま、待ってくれ! 貴方は、【漆黒の殺戮者】ケイタロスなのか!?」


 ほんの一瞬だけ、その存在は私に向けて不敵な笑みを浮かべると何も言わず、服部はその場で倒れ込んだ。



「いやぁ~満足、満足。わりぃな待たせて」


 でっぷりと膨らんだ腹を擦りながら満足そうな笑みを浮かべる服部に「気にしないでくれ」と短く返す。


「色々迷惑もかけちまったな」

「そちらも気にしないでくれ。貴方の存在のおかげで、ベルガンディ聖国との交渉も上手くいったのだからな」


 元オルフェン王国の戦闘奴隷である私達の存在を大陸の各国に広め、連合軍を再結成しようとしたベルガンディ聖国だが、先の戦の戦犯であるボボルッチの存命を言い訳に、私の背後にいるディグリス王国がそれを拒否。それを続いて服部、いや、服部のバックにいる魔王アーノルド・ルートリンゲンと強いつながりを持っているユーヘミア王国も拒否。大陸三大勢力の内二国が拒否したのだから自ずと残るガーランド帝国もベルガンディ聖国が掲げる連合軍再結成に賛同しなかった。逆に批判を浴びせられたベルガンディ聖国は泣く泣くオルフェン王国を放棄する事なり、オルフェン王国は存命する事になった。


「まぁ、それならそれでいいけどよ……なぁ、竹本。あれはなんだったんだ?」

「私もそれについてはかなり気になっているところだ。おそらく……」

「何か知ってるのか?」

「可能性としては、生前、城の禁書庫に保管されていた古い文献に記されていた【漆黒の殺戮者】となんら関りがあるのではないかと考察している」

「【漆黒の殺戮者】? 何だよそれ」

「千年以上前の話だからあまり知られてはいない――」


【漆黒の殺戮者】ケイタロスについて、私が知っている事を全て服部に説明した。


「千年前の人族の管理者? 何でそんな奴が俺の中に……あいつは言ってたんだ、“俺様の因子を継ぐもの”って……」

「ふむ。その口ぶりからすると、服部、貴方はケイタロスの子孫である可能性が高いのだが……」

「……全然思い当たる節がねぇ……」

「まぁ、そこは今ここで考えても時間の無駄だろう。貴方は、日本に帰る術を持っているのだな?」

「あぁ、実際に日本とこっちを数回行き来してるからな」

「なら、日本に戻って調べようじゃないか」

「手伝ってくれるのか?」

「もちろんだ、実に興味深い案件だからな」

「はは……じゃぁ、たのむわ」

「あぁ。それはそうと一通り戦後処理も終わった事だし数日のうちにミルによるスピーチが行われる予定だ。いよいよ私達、戦闘奴隷が英雄となる」

「そうか……なんか、こう、胸が熱くなるな」

「あぁ、これで少しは死んでいった仲間達が報われてくれればいいけどな」

「きっと、あの世で喜んでくれるはずさ」

「そう願いたいものだ」

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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