邂逅
内容が矛盾していたので修正、加筆しました。(21.12.8)
俺とグレイスは、戦場を一望できる小高い丘の上に立っていた。
既に戦争は始まっており、俺達がいるこの丘ですら、その熱気と狂気が伝わる。
久しぶりに感じる感覚だ。
もう二度と戦争には関わらないと思っていたのだが……俺は舞い戻ってしまった。
それはさておき、遠目で戦況を確認する。
数が少ないのを見ると、ルフェンの前に、軍勢が一塊になっているのがミルボッチ王子率いる元オルフェン王国軍だろう。
対してベルガンディ聖国は、その四、五倍はありそうだ。
だが、それも面白い様に数をへらしている。それは、結構な距離があるた俺の視力でもはっきりと見ることは出来ないのだが、数名の兵士達によるものだ。
「すげぇな。あんな強い人達が……うん? あの動きは……」
その数名の兵士の中で見馴れた動きをしている者がいる。間違いない、師匠だ。
「おいおい、師匠なにやってんだよ!」
どうやら師匠は敵兵と一騎討ちの状態で、戦況は師匠が圧されていた。
「俺が知ってる師匠の実力じゃない、それほどまで魔力の器が……こうしちゃいられないな」
一騎討ちに割り込む行為を師匠は良しとしなだろう。だが、そんなの関係ねぇ! 俺はオリビアさんの元に師匠を連れ帰らないといけないんだ。首根っこ掴まえても連れ帰ってやる!
「グレイス、俺は今からあの戦場に向かう。お前は危ないから俺が良いと言うまでここで待機していてくれ」
「で、でも、サーしゃま、あそこにあるじぃの存在をかんじるのでしゅ、グレイシュもサーしゃまについて行くでしゅ」
「ダメだ、危険すぎる。お前を連れてはいけない」
「でも!」
「俺が良いと言うまで隠れている約束だ。グレイスは、約束も守れない悪い子なのか?」
「……ッ……」
「そんな顔するなって、後で気が済むまで調べさせて上げるから、な?」
おそらく俺との約束を守ろうとしているのだろう。
自分の感情を抑えて、下唇を噛むグレイスの頭をわしゃわしゃする。
「わ、わかりました……」
「じゃあ、いってくる」
無理やり納得させた俺はグレイスにそう言い残し、その場を後にした。
◇
グレイスを戦場から離れた場所に待たして、俺は戦場へと足を走らせる。
「こんな場所に長居したくないし、早く師匠を連れてもどろう」
命の重さが何よりも軽いこの場所にいたいとは思わない、とっとと師匠の首根っこを捕まえてユーヘミアに戻ろう。そう心に誓い、先ほど師匠が暴れていた場所へ向かう。大体の場所は把握しているのだが、それでもこれだけの人数がいる中で師匠の居場所を明確にとらえる事はむずかしく、俺は度々立ち止まり師匠の居場所を確認していた。あのオッサン、誰よりも敵陣の深い所に突っ込んでる……。
「はぁ、あの戦闘狂は死んでもなおらないんだろうな……」
と不利な状況ではあるが生き生きと拳を振っている師匠を見ていて苦笑いを浮かべる。
正直、再会した師匠は前ほどの勢いを感じられず、何かが足りないようなそんな雰囲気を醸し出していた。おそらく、師匠にたりなかったのは、命のやり取りをする戦場なのだろう。師匠は所謂“戦争中毒者”なのだ。三度のめしより命のやり取りをする事が師匠にとっては生きがいなのだろう。
俺としても、師匠がそれで満足するのであれば、それはそれでいいと思っていた。だって、これは師匠に人生だから。だが、そんな師匠のために涙を流し、連れ戻して欲しいというオリビアさんの気持ちに触れて、初めて、他にも選択肢があるのだと悟ったのだ。自分一人が幸せになるのではなく、みんなが幸せになれる終着点があるのだ。
だから、俺は師匠を連れ戻すッ!
そう強く誓った俺の知界に群青色の鎧を着た青年が、ロングソードを振り上げ師匠に向かっていくのが見える。
「あれは……片瀬?」
師匠と対峙していたのは片瀬右京。ベルガンディ聖国が俺達、オルフェン王国の戦闘奴隷に対抗するために呼び寄せた異世界人。境遇は違えど、俺達と同じように自分達の人生を理不尽に曲げられた青年だ。
「バカ野郎が、こんな場所に来やがって」
片瀬が戦場にいると言う事実が、自然と俺の眉をしかめさせる。
片瀬達には、必ず日本に連れ戻すと約束してある。
日本に戻るのであれば、こんな血生臭い場所にいるべきではないのだ。
「ったく、アイツにもこんな場所から早々に退場してもらわないとな」
ターゲットが二人になった。
師匠と片瀬の戦況は、あの小高い丘で確認したのと同様、師匠が、片瀬の攻勢に押され気味だ。
片瀬には悪いが、片瀬の実力では師匠の足元にも及ばない……が、師匠はかなり苦戦している。おそらく、魔力の器の破損による能力低下が原因なのだろう。俺の知っている師匠はそこにはいなかったのだ……。
「これは本当に首根っこ捕まえて、連れてかえらないといけないな」
徐々に戦況が不利になっていく師匠の荒ぶる呼吸と比例するかのように俺の二本の脚は加速する。
師匠が片膝をついた! そして、片瀬が師匠の首めがけて刃を振り上げる。師匠は、全てを諦めたような、そんな穏やかな表情を浮かべていた。
「なあにをあきらめてるんですかああああああああ!」
俺は、両足に魔力を集中する。
踏みしめた地面に亀裂が走り、一拍おいて俺の後ろを追う様に地面が弾け飛ぶ!
「――ッ!?」
……………………………………な、なんとか間に合った。
俺の右手は、師匠の首に刃が到達するや否やで止まっている。その代わり、俺の右手は血だらけだけど……まぁ、大事な人の命を一つ救ったんだ。これくらいは許容範囲だろう。
俺の急な登場により、片瀬は一瞬固まるがすぐさま俺に気付く。だが俺は、片瀬よりも先に口を開く。
「わりぃな、片瀬。この人を死なせる訳にはいかないんだわ」
「えっ? さ、咲太さん!?」
「おう、咲太だ」
「サクタ……一騎打ちに水を差しおって……」
案の定俺の介入により、師匠は不機嫌な表情をうかべている。
「文句ならいくらでも聞きます、俺を殴りたいならいくらでも殴らせます……が、師匠にはこれ以上戦わせません」
「……き、貴様に、なんの権限があって、ワシを」
「権限? この世界では俺なんて、元奴隷なんですよ? そんなもんあるわけないでしょ。俺はただ、父を想う娘の為にここにいるんですから」
「お、りびあ、か」
「はい、オリビアさんからの伝言です。お父様の死に場所は戦場ではなく、自分の胸の中だと」
「くッ……世迷言を……」
「世迷言ですか……では、なんでそんなに嬉しそうな顔をして涙をながしてるんですか?」
師匠は強がっているが、大量の涙を垂れ流している。
「これは、あ、あれだ、汗だ」
「無理がありすぎますから!」
「ちッ」
俺の介入によって、戦場の主要部分では一時フリーズ状態になっていた。
そんな、緊張状態を打ち破るかの様に、一つの影が近づいてくる。
「オニール殿、ご無事か!?」
「バカ弟子のおせっかいのお陰で命拾いしたのですじゃ」
「バカ弟子……あッ、そうか……オニール殿には聞いていたが、まさか本当に生きていたとは……」
「うそ、だろ!? 竹本君!?」
俺の目の前にいたのは、死んだと思っていた元戦闘奴隷の竹本君だった。
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