開戦(片瀬右京 side)
誤字修正しました。
そういう事もあり、菜々(×)奈々(○)を残してきたのだ。正直、菊池はついでだ。(21.12.2)
「いよいよだなッ! 腕がなるぜ!」
そう言って左右の拳をぶつける丸山は、アドレナリンが分泌しているのかハイテンションになっている。
「落ち着け丸山。俺達にとってこれは初陣なんだ、もっと冷静になるべきだ」
「んなかてぇ事言うなよ片瀬。向こうは敗残兵五千に対してこっちは同盟国の援軍を合わせて二万。それに俺達二人の勇者がいる。いくら相手が籠城しているからってこの兵力差なら楽勝だろ! それよりもやっと俺達の価値を示せる時が来たんだ、お前こそもっと気合を入れろよなッ」
価値を示せる時が来たか……まぁ、確かに丸山の言う通りだ。
俺達は元々オルフェン王国の戦闘奴隷から国を守るために召喚された。
だが、オルフェン王国の敗北で俺達の存在意義はなくなり、目の上のたん瘤の様な存在になってしまっているのが現状だ。だから、丸山がこんなに張り切るのも分かる。それに加えてこの戦は、こちらの勝ちがほぼ確定しているようなものだ。
だから、俺の幼馴染の奈々と菊池にはベルガンディ聖国に残ってもらっている。
奈々にはあまり血生臭い事には関わらせたくないため、カタルシア様にお願いをしたのだ。今回は、俺と丸山だけで十分だと言って。
思い起こせば、この世界に来てから最初の数ヶ月は訓練を行い、ある程度戦えるようになってからは魔物を狩ったり盗賊、山賊を討伐したりとこの手で命を奪うという行為を重ねてきた。当初は、魔物や盗賊など生きている存在から命を奪うという倫理に反した行為に対して、恐怖心や忌避感により俺達五人は何もできなかったのだが、それでも経験を重ねた事で今となっては躊躇う事をしなくなった。
これが良いのかどうかは分からない……いや、分からないというのは嘘だな。それが、この世界の常識であればとどこかで目を反らしている自分がいる。
それでも俺達がこの世界に骨を埋めるというのなら、問題はないだろう。だが、咲太さんは俺達を元の世界に戻してくれると約束してくれた。俺達は日本に帰れるんだ。であれば、俺達はこの世界の常識に染まってはいけない。そういう事もあり、奈々を残してきたのだ。正直、菊池はついでだ。菊池まで気を遣える余裕なんてないからな。
やる気満々の丸山には悪いがよっぽどの事がない限り、俺達に出番が廻ってくる事はないだろう。さっきも言ったがこの戦の勝利はほぼ確定している。勝ち戦なのだ。そんな好条件な戦場でいついなくなるか分からない俺達に手柄を譲るほどこの世界の人間は無欲恬淡ではないのだ。俺達が軍の最後方にいるのはそういう理由だろう。
だが、一つ、そう一つだけ気になる事がある。
それは、ベルガンディ聖国の右座であるジキールさんについてオルフェン王国に派遣されていた亀山の存在だ。
亀山は、家庭環境などの理由で元の世界に戻らずこの世界に留まる事を望んでいる。この世界で生きていくためにジキールさんから色々と学ぶことを許され、ジキールさんの護衛兼弟子としてルフェンに派遣されていた。
元々運動神経が良い俺や喧嘩慣れしている丸山よりはかなり劣るが、それでも勇者と言う肩書は伊達ではなく、ベルガンディ聖国でも俺達と菊池に次いで戦闘力では上位に位置する。そんな亀山がいるのにも関わらずルフェンが落ちたのだ……。数の暴力によってか、それとも丸山を凌ぐほどの戦闘力の持ち主がいるのか……定かではないのだが注意はする必要があるだろう。
「まだかなああ! ちっきしょう! 早く呼びに来いよ!!」
高ぶった気持ちのせいで座っていられないのか、丸山は俺達に割り当てられたテントの中を行ったり来たりしている。てか、こいつを日本に戻して大丈夫なのか? ここは戦場だ。命の扱いがもっとも軽い場所なんだ。殺されたくなかったら殺す、そんな場所に丸山はこれ程にも行きたがっている。
そんな不安な気持ちで丸山を睨んでいた時だった。
爆発音や怒号、悲鳴が聞こえてくる。そう、静かだった外が急に騒がしくなってきた。
「あぁん? なんだってんだ。外がやけに騒がしいなぁ」
と丸山がテントからひょこっと顔を出す。
「な、なんだあれは!?」
「なんだ、どうしたって言うんだ」
たまらず丸山を押しのけてテントから外に出ると、自軍の至る所で爆発が起き味方の兵士達が空を舞っていた。この角度からは詳細がつかめないと思った俺は、テントの上に飛び乗り目を細めて遠方に目を向ける。身体能力が強化された今ならかなり遠くまで見渡す事ができるのだ。
「どういう事だ……」
敵軍は、籠城はせず町の正門に列になって戦闘態勢を取っている。
なら、なぜ見方が吹っ飛んでるんだ?……あッ、あれは!?
「おい、片瀬! 一体何がおきてんだよ! おいってば!」
「……六人だ」
「はぁ? てめぇ、何言ってんだよ!? もっと分かるように説明しろッ!」
「たった六人がこっちの軍勢に突っ込んできてるって言ってんだよッ! 一人がバカスカでっかい魔法をぶっ放して、残りの五人が左右に拡がって攻めてきてるんだ!」
「はぁ!? たったの六人だと? そんなのありえねぇだろがよっ! おいッ! アンタ、どうなってんだ!」
タンカで運ばれてくる負傷兵を見つけた丸山が、タンカの行く道をふさぐ。
「どいてください勇者様!」
「どうなってんのかって聞いてんだよッ!」
先を急いでいた衛生兵は、苛立っている丸山に観念したのかタンカを持ったまま説明する。
「向こう側に鉄拳のオニール殿が居たのです。それに、その配下と思わしき信じられない程に強い者達が五名。その者達のよって、既にわが軍の二割が被害に……ッ!」
「鉄拳のオニール? ってなんなんだ?」
「拳一つでいくつもの戦場を生き抜いたオルフェン王国の数少ない傑物です。さぁ、どいてください! 早く治療しないとこの兵士がッ!」
「あ、あぁ、すまねぇ。邪魔して悪かった。行ってくれ」
丸山が道を開けると衛生兵は会釈をし、いそいそとその場から離れると今度は、一頭の馬に跨った白銀のフルプレートを身にまとった壮年の男がこちらへと向かってくる。男の名はハキム・ムッシュド将軍。ベルガンディ聖国軍のトップだ。
「勇者様ッ!」
「ムッシュド将軍!」
「勇者様、鉄拳のオニール率いる数名の強力な者達によって我が軍はパニック状態に陥っておる、どうか、前線に向かい鉄拳のオニール並びにその配下共を倒していただきたい!」
「任せてくれ将軍! おい、片瀬! やっと俺達の出番だッ!」
「おい、待て丸山!」
「うっせええ、早く来ねぇと俺が全部頂いちゃうからな!」
「くッ、馬鹿が……」
あいつは何も分かっちゃいない。
相手は、たったの六人で、しかも、こんな短時間で俺達ベルガンディ聖国軍の二割。つまり、三千人を倒したんだぞ。おかしいとは思わないのか? 亀山がやられたのもこれで納得がいった。これほど協力な者達が束になって丸山を襲えば、いくら丸山でも太刀打ちできなかっただろう。
「勇者様ッ! どうかお力を添えを!」
覚悟を決めるしかない。
「分かりました。俺も丸山の後を追います!」
「かたじけない」
俺は、ムッシュド将軍が来た道を辿るかの様に、自陣を突っ走って行った!
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
次話は、司SIDEの話になります。遅くても日曜日までには更新できると思います。




