サプライズ
更新が遅くなりすみません!
そして俺が今立っているのは、五色湖の西(×)東部、つまりユーヘミア王国の領地側の砂浜だ。(21.11.29修正しました)
オニール殿は他のクズ共と違い私達を人間扱いしてくれていた。だから、オニール殿が生きていたことにみな喜んでいるのだ。
(21.11.29 違いが抜けていたので追記しました)
【五色湖】は、ユーヘミア王国とオルフェン王国の国境に位置する、両国の観光名所の一つだ。青、緑、赤、茶色、黒と様々な色彩よって構成された直径約五十キロメートルの湖は、中心部分に建てられた塔の様な物を中心に西がオルフェン王国の領地、東がユーヘミア王国の領地とされている。
そして俺が今立っているのは、五色湖の東部、つまりユーヘミア王国の領地側の砂浜だ。
湖ではあるが、ユーヘミア王国側は砂浜が存在しており、パッと見て海水浴場にも見える。その実、夏場には、老若男女構わず多くの人が訪れ、各々水泳や日光浴、また、この世界ならではの魔法を使ったアクティビティを堪能しているという。
何故俺がこの砂浜に立っているかというと、師匠を連れ戻すためにオルフェン王国の王都ルフェンに向かう必要があり、ワタルに転移魔法でルフェンに一番近いユーヘミア王国の領地に送ってもらったからだ。
天気も良いし、このまま湖にダーイブ! といきたいところではあるが……今は、師匠を追いかけるのが先だ。師匠の足であれば、既にルフェンには到着しているだろう。
この場所からルフェンまで約百五十キロメートル。平坦な道であれば三時間もあればいけるのだが、森を抜ける必要があるため、もっとかかると考えた方がよいだろう。
「よしッ、善は急げだ!」
気合を入れなおして、ルフェンに向かい走りだそうとしたその時だった。
「サーしゃま」
「えっ? グレイス!? なんで、お前がここに!?」
燃える様なオレンジ色の髪の幼女が、俺のコートを引っ張ていた。
「グレイシュもついていくでしゅ」
「付いていくって、これから行くところは戦場だぞ? 遊びに行くわけじゃないんだぞ?」
「わかってましゅ……わかってましゅが、よくわからないでしゅが、しょこにいかないといけない気がしてしょうがないんでしゅ!」
何かに怯えているように震えているグレイス。
だが、そんな弱々しい姿とは裏腹に視力が戻っていないため焦点の合っていないその双眸は鋭く、言葉は力強い。グレイスにも譲れないものがあるのだろう。
「わかった……その代り向こうでは俺が良いと言うまで隠れること」
「はい、やくしょくしましゅ」
両手でグーを作るグレイス。
まぁ、グレイスは希少種の魔族だし、そこら辺の兵士に何かをされるという事はないだろう。
俺は、そう確信しグレイスを背中におぶるとグレイスの小さな口から「きゃッ」という声が洩れる。
「飛ばすからな、舌噛まない様にな」
「は、はいでしゅ!」
気を取り直してルフェンの方向へと身体を向けると同時に魔力を両足に集中し、一気に開放する!
ドゴォォォンという爆音と共に砂浜の砂が舞い急発進した俺の背中でグレイスの悲鳴が木霊した。
◇
~竹本司視点~
「何もかも計算通りだな」
「まぁな、ベルガンディ聖国にとっちゃオルフェン王国には金を生む木があるんだ。よっぽどなリスクがない限り手放しはしないさ」
ルフェン奪還の報せを出した後、すぐさまベルガンディ聖国から宣戦布告の通達があった。ここルフェンから数キロ先にはベルガンディ聖国の軍勢が陣を取っており、今にも襲い掛かって来そうな勢いだ。
無限の可能性を秘めている資源があると知ってしまったベルガンディ聖国にとって、五千も満たない敗残兵で成り立っているこちらの軍勢に対してのリスクは感じていないのだろう。それに向こうさんの兵力はベルガンディ聖国兵一万五千に加え、同盟国からの援軍が約五千と合わせて二万の兵がこちらに睨みを利かせている。
「向こうは二万か……ツカサ、本当にいけるのか? 向こうには、君達と同じ世界から召喚された勇者があと四人いるんだぞ?」
心配そうな表情を向けるミルの右肩を軽く叩く。
「忘れた訳じゃないよな? ミル。以前、私達五人でベルガンディ聖国の半分近い兵を葬り去った事を」
「それは……」
「その時より私達は格段にレベルアップしている。私も自由に魔法が使えるしな」
奴隷時代は、バレると厄介だと思い魔法は封じていたからな。
「それに、勇者達はあの眼鏡君を見る限り私達の脅威とは成りえんよ」
異世界から召喚された者なので、確かに普通の兵士と比べたら脅威ではあるが、結局ぬるま湯に浸かっていた子供だ。
「それなら良いが……いや、ここまで来たら覚悟を決めるしかないな」
「そういう事だ」
ミルが腹を括ったその時だった。
コンコンとノック音がしたのち、ドアの向こうから一人の野太い声の男の声が耳に入る。
「ミルボッチ殿下、オニール様ですッ! オニール様がこちらにッ!!」
「オニール!? オニールだとッ!?」
ミルは居ても立っても居られない様子で自らドアを開く。
「あぁッ……」
齢五十にして今なお現役と言える、鍛え抜かれた見事な体躯。真っ白なオールバックに鬚を蓄え、右頬に大きな剣傷。間違いない、オニール殿だ。
オニール殿は、ミルの顔を見るや否や片膝をついて頭を垂れる。
「殿下、よく、よくご無事でッ! このオニール感無量ですじゃッ!」
「それは私のセリフだ。オニール、本当に良かった……」
「このオニール、殿下の為に、祖国の為に今一度この拳を振るわせていただきたくッ!」
「願ったり叶ったりだ。鉄拳のオニール、我がオルフェン王国が誇る英雄である貴殿がこの戦に加わってくれれば百人力だ!」
ミルは、そう言ってオニール殿を起こしぎゅっと手を握る。
「このオニール、この命が尽きるその時まで殿下と共に!」
そう胸を張って宣言するオニール殿には悪いが……。
「オニール殿」
「うん? おぉ!! お主は!? 生きておったのか!?」
「はい、ご無沙汰しております。私だけでははく、第五小隊に所属していた他の奴隷達も生きています」
「そうか、そうか、よかった。お主らが生きている事を知れば、バカ弟子もさぞ喜ぶじゃろうて」
バカ弟子? いや、今はそれよりも……。
「オニール殿。その身体で戦場に出るおつもりですか?」
「……何の事じゃ」
「どうしたんだ? ツカサ」
「ミル、見てみろオニール殿の魔力の器を」
私の言葉にハッとしたミルは、オニール殿に向けて魔力解析を行う。
私やミルほどの上級魔導士は、人の魔力の解析が出来るのだ。
「何ということだ……」
「オニール殿の魔力の器はボロボロだ。この状態で戦場など死にに行くようなものだ」
「オニール……貴殿の気持ちは嬉しいが……この事を知ってしまった以上、貴殿を戦場に出すわけにはいかない。貴殿はじゅうぶん国に尽くしてくれた。もう、休んでいいのだ」
「こんな老いぼれの為にそんな辛そうな顔をしないでくだされ。ワシは軍人ですじゃ。もし死んだとしても、それは戦場であるべきですじゃ。それが、祖国の再建となれば、やはりワシはやらねばならないのですじゃ」
「オニール……」
「がっははははは、そんな顔しなさんな。殿下、ワシに死ぬ気は毛頭ないのじゃッ!」
と豪快に笑うオニール殿の顔に一切の迷いは感じられない。
「ミル、正直、オニール殿がこちらに加わってくれれば百人力だ。鉄拳のオニールと言わしめたその拳を存分に振るってもらおうじゃないか」
「ツカサ……」
「ただ、無理はしない事です。命の危機を感じた際はすぐに撤退してください。ミル、命令するんだ」
「あぁ。鉄拳のオニール。貴殿の働きには期待している。ただ、絶対に死ぬ事は許されない。貴殿が私を主君と仰ぐのであれば、必ず守ってもらう」
「はッ! このオニール、主君ミルボッチ殿下の元に必ず生きて戻りますッ!」
「うむ。良く言った! では、開戦まであと数刻。作戦会議は……」
「いらないな」
ミルの言葉バッサリ切った私に、ミルは苦笑いを浮かべる。
「君はもっと利発的だと思っていたのだがな……」
「ふふふ、貴方のその考えは間違いないよ。私は、すこぶる賢いからな。だからこそこの戦に作戦など必要ないのだよ。そもそも開戦数刻前に作戦もクソもないだろうに」
「では、どうするのだ?」
「決まっている。そこにおられるオニール殿と私を含む元戦闘奴隷の五人で敵陣に突っ込む。打ち漏らしを他の兵士で対応してくれればいい」
正直、二万の兵に後れを取るとは思わないが、数が数だ。打ち漏らしは必ずある。五千もの兵がいるんだ打ち漏らしくらい対応できるだろう。
「それではあまりにも……いや、わかった。頼んだぞ、ツカサ、オニール」
「はッ!」
「あぁ、任せくれ」
◇
ミルとひと通りの会話を終えた私は、オニール殿を連れてレフ達が待機している部屋へと向かった。
「みんな、サプライズゲストだ」
「「「「――ッ!?」」」」
「元気そうじゃのう、みな、良く生きていてくれた!」
「おいおい、ツカサ~どれだけおいちゃんをビックリさせれば気がすむんだ~?」
「隊長、生きてたああ」
「良くご無事で……」
「もう、あの豚王に殺されたかと思ってまシタ」
レフをはじめ、ジュリ、高次、ミンギュの反応を見る限りサプライズは成功の様だ。オニール殿は他のクズ共と違い私達を人間扱いしてくれていた。だから、オニール殿が生きていたことにみな喜んでいるのだ。
因みに、この部屋に来る道中、私の前世の話は既にオニール殿にしており、驚きと納得と言った様子だった。
「ほんに、早くバカ弟子に教えてやりたいのぅ。必ず喜ぶはずじゃろうて」
「オニール殿、先ほどから気になっていたのですが、そのバカ弟子というのは……?」
「ん? あぁ、ほらサクタの事じゃ。NO.11と言った方が分かりやすいかのぅ?」
「「「「――ッ!?」」」」
処刑されたと思っていた服部咲太が生きていた……。
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