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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第11章

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厚顔無恥なブタ

「はぁん? み、ミ、ミルボッチ! な、な、なんで貴様が生きているのであるッ!?」


 ミルに気付いたボボルッチは、幽霊でも見ているかのような反応を見せる。


「それはこっちの台詞です、兄上。処刑されたはずの貴方が、なぜ……」

「ふん! この気高き王である余が、処刑されるなどあり得ないのであるッ」


 どの口が言っているのだと思っているのは、私だけではないはずだ。

 

「硝海石を延命の交渉材料にしたと言うわけか……、処刑には影武者でも仕立てたのだろう」

「な、なぜそれを……!?」


 私の推測は的を得ていたらしく、自称気高き王はダラダラと冷や汗を流す。


「貴方がやりそうな事だ」

「なんと言うことを……己の身可愛さに古くから門外不出を貫いた我が国の秘密を洩らすとは……」

「黙るのである! この国は、余の物であるッ! どうしようと余の勝手である!」

「違うッ! 国は民の者だ! 民あっての国なのだッ! 我々王族は、民の前に立ち、彼らを正しく導く道標に過ぎないッ!」


 ボボルッチの駄々っ子の様な言い分に、ミルが猛反論する。


「ふん、世迷言を……うん? 貴様ら、見覚えがあるのである?」


 ボボルッチは、ミルを押しのけて私達の顔をまじまじと覗き込む。

 そして、何かを思い出したかの様に手を叩く。


「そうだッ、間違いないのである! 余の奴隷どもである!」

「……っ……」


 ボボルッチが私達の事を覚えていた事は予想外だ。

 “余の奴隷”というワードにジキールとベルガンディ聖国の兵達に緊張が走る。


「……ボボルッチ殿、こ、こやつらは……まさか」


 ボボルッチとのやり取りで身元の確認がとれたミルについては何も検索をしないジキール。

 だが、ボボルッチが放った“余の奴隷”というワードによっては嫌な予感しかしないジキールは、間違ってくれと願いを込めてボボルッチに俺達の正体について問いつめる。


「そうである! こやつらは、余が異世界より召喚させた余の奴隷共である!」


 悪い予感は見事に的中したジキールは、力なくへなへなと尻餅をつき、そして、その配下達の顔は絶望の色に染まる。


「うっひひひ、余の運も尽きて無かったである! こんな囚人みたいな生活とはおさらばして、大陸制覇(ゆめ)の続きといくのである! さぁ、下賤な奴隷共よ、今一度余の為に力を振るえる栄光を授けるであーる!」


 上機嫌なボボルッチは、まるで舞台役者の様に大袈裟に両手を広げる。


「脳みそが足りないヤツだとは思っていたが、ここまで酷いとは……」

「おいちゃんも、さすがにこれには言葉がでないぜぇ」

「私達にあんな事しといてよくもそんな事を口にできるわね」

「…………クソ豚がッ」

「誰が殺りますか? みんなで殺りますか?」


 私をはじめ、レフ、ジュリ、高次、ミンギュは、厚顔無恥なボボルッチの物言いに呆れと怒りの感情が渦巻く。


「すまない……これ程愚かとは……」

「別に貴方が謝る必要はないさ」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるミル。だが、ミルには何の非もない。


「何をごちゃごちゃと! 早くコイツらを殺すのである! 命令なのである!」


 この男、いや、豚には、現実を思い知らせた方が良いだろう。

 元一国の王だったとは想像もつかない程に品性の欠片もなく駄々を捏ねる豚に近づいた私は、豚の胸倉を掴む。

 

「な、な、な、貴様、正気であるかッ? 奴隷の分際で主人であり、気高き王であるこの余になんという狼藉であるかッ!」

「貴方こそ気は確かか? なぜ私達が、貴方の命令をきかねばならんのだ」

「なぜ? 何をバカな、貴様らは奴隷であり、余は主である! 奴隷が主の命令をきくのは当たり前なのである!」

「一つ貴方の勘違いを正そう。私達を縛る奴隷紋はもうない、私達は奴隷ではないのだ」

「あぁん? 奴隷紋は、余が解除するか、余が死なない限り消える事はないのである。そんな事も知らないのであるか?」


 とどや顔を向けるボボルッチ。いちいち癇に触る。


「無知な貴方に教えてやろう」


 私に無知呼ばわれされ、ボボルッチは顔を赤くして文句を放つが、それを無視して続ける。


「奴隷紋の解除はもう一つ方法があるのだよ。それは、奴隷紋の術式自体を無効にする事だ」

「術式自体を無効? ハン! 奴隷紋は、国の秘術である、貴様の様な異世界人にそんな事出来るわけがないのである!」


 まぁ、普通に考えたらそうだろうな。だから、半年近くも解析に時間がかかったのだ。

 ただ、弱小国オルフェン王国の術式だったからこれくらいで済んだのだ、もし、これが魔王大国ユーヘミア王国の術式だったら、年単位で時間がかかったであろう。


「信じられない、か? 考えてもみろ、貴様の命令に背いている私達に罰がないのはなぜだ?」


 ボボルッチは、ハッとした表情を浮かべる。どうやらそんな単純な事にも気づかないとは……。


「ありないのである! ありえないのである! ありえないのであるううううう!」

「正直、今すぐにでも地獄に落としてやりたいが……不本意ではあるが、貴方の命にはまだ利用価値がある」


 私の言葉に安堵の表情を浮かべるボボルッチ。


「な、なら、ぐひゃっは」


 私の拳がボボルッチの顔にめり込むと同時に、私の拳にぐちゃっと骨が潰れる感触が伝う。


「何を安心しているのだ。殺しはしないが、何もしないとは言っていない。さぁ、みんな、殺さない程度に怨みをぶつけてやるといい」


 ボボルッチをレフ達の前へと放り投げると、飢えた猛獣達によりボボルッチ(ブタ)の悲鳴が響き渡る。


「さて、ジキール殿」

「ひぃッ!」

「今のところ貴方に危害を加えるつもりはないので、そんなに怯える必要はないのだが……無理のようだな。ミル頼めるか?」


 尋常じゃない程に震えているジキールを見て、私との対話は無理だと悟り、その役目をミルに任せる事にする。


 ジキールには、本国に向けて書簡を出してもらう。

 内容については、次の通りだ。

 ①ルフェンをオルフェン王国第三王子であるミルボッチ・オルフェンが奪還した。

 ②そして、ミルを中心にオルフェン王国を再建をするので、この国から手を引いて欲しい。

 ③その代わりにボボルッチを生かしていた事については口外しない。

 

 私達の事は、黙っているよう伝えている。そっちの方が好都合だと思ったからだ。


 おそらく、ベルガンディ聖国の答えは100パーセントノーだろう。そして、ベルガンディ聖国は実力行使に出るだろう。今のベルガンディ聖国とオルフェン王国の軍事力など火を見るよりも明らかだ。向こうには勇者達もいる。


 私達の存在を明かす事によって、ベルガンディ聖国からは油断が消え、下手したら他国に援軍要請を出す可能性も出てくる。そうなれば、いくら私達でも生き残れる可能性が低くなる。

 どんな些細な事でも備えておくべきだ。私達は生きて元の世界に帰れねばならないからな。


 なので、書簡については、状況を知らないベルガンディ聖国の兵士に託し早馬を走らせた。

 向こうの返事が来るまで幾ばくかの時間がある。さぁ、戦の準備だ。


 血だらけになって転がっているボボルッチ(ブタ)の醜い姿を見ながら、私はこれからの事をミルと話し合った。

 

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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