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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第11章

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ルフェン潜入

(文章追加)それに、元同僚同士の横の繋がりもあり、噂が噂を呼び、自ずと集まるというものだ。

(文章修正)「じゃあ、案内してくれ」→「では、案内を頼む」

(21.11.11)


~竹本司視点~


「そろそろ実行に移そうと思うのだが……ミル、何か異論は?」

「特に異論はない。私もそろそろ頃合だと思っていたところだ」


 カシウスの前にミルことミルボッチ・オルフェン元オルフェン王国第三王子を連れてきてから、数ヶ月が過ぎた。


 この数ヶ月間、カシウスの相談役として国の立て直しに尽力しつつ、水面下では旧オルフェン王国軍の敗残兵を探し回るという事に時間を費やしていた。まぁ、敗残兵の捜査は、レフ達に任せっきりではあったが……。


 さて、その敗残兵達は、大中小規模の複数の盗賊団に別れていたため、捜査についてはそこまで難航しなかった。一人見つかれば芋づる式の様にかなりの人数が見つかるのだからな。

 それに、元同僚同士の横の繋がりもあり、噂が噂を呼び、自ずと集まるというものだ。


 今となっては、二千人ほどの敗残兵がオルフェン王国とティグリス王国との国境近くのアジトに待機している。因みに、これらに掛かる費用は、処刑されたバルカンやバルカンの息のかかった貴族達や商会から没収した私財で賄っている。これらの私財だが、カシウスは全部私に託すと聞かなかったのだが、この国もこれから何かと物入りだろうと思い、ひとまずは一割だけもらう事にして、不足分は都度お願いする事にした。


 まぁ、重税により民から搾取したバルカン達の私財は、小国の国家予算に届くほどの額だったので、足りなくなるという事はないだろう。


 さて、話を戻すとしよう。

 ミルに提案した実行とは、ミルによるオルフェン王国の再建だ。


 戦後処理の末、オルフェン王国はベルガンディ聖国が所有権を有しており、王都ルフェンでは、ベルガンディ聖国の為政者達により内政が整えられている真っ只中だという。


 いくら戦争で甚大な被害を被ったからといって、なんの旨みもなく、厄介事しかないオルフェン王国を押し付けられて頭を抱えていたベルガンディ聖国は何かと回避を試みていたらしいが、今となっては静かになっているらしい。


 しかし、あれ程騒いでたベルガンディ聖国が、静かになったことで誰もが違和感を覚えているのだが、自国に押し付けられるよりはマシなため、誰も藪をつつく真似はせずに静観しているという。


「では、近日中に実行するとしよう」

「あぁ、感謝する。ツカサ」

「私に感謝する必要はないさ。私も、私達の目的のためにお前を利用する立場だからな」

「ふっ、そうだったな。それについては、任せてくれ。国を取り戻した暁には必ずッ」

「よろしく頼む」


 ミルには悪いが、正直、私にとってオルフェン王国の再建などどうでもいい。オルフェン王国の再建が私達の利害と一致するから、ミルに手を貸すだけだ。


 たった一つの目的……いや、罪滅ぼしと言った方が良いかもしれないな……そのために、レフをはじめ、私達五人は戦場に立つ。


 私はミルと硬い握手を交わし、その場を後にした。



「さて、皆の衆。別にぐだくだと御託を並べるつもりはさらさらない。私達は、今一度戦場へと足を踏み入れる。だが、これはあの時とは違う。強制ではなく、私達が望んだことだ」


 人々が寝静まる頃の樹木が生い茂る森の切れ目。

 そこには、私をはじめとする五つの影が存在していた。

 今から私達は、王都ルフェン奪取のために、各々の両手を血に染める。


 だが、これは、奴隷時代のように強制されてではなく、私たち各々が望んでいる事だ。


「その通り、これはおいちゃん達が望んだことだぜ~。だからそんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいんだぜ~」

「レフ……」

「私もそう思う。そもそも、ツカサがいなかったら今頃私は生きていないと思うし」


 高次とミンギュもレフとジュリに同意するかのように首を縦にふる。


「そうか……では、作戦を伝える。レフとミンギュは南門で、ジュリと高次は北門で思う存分暴れてくれ。ただし、手にかけるのはベルガンディ聖国の者達だけだ。ちゃんと、右胸に刻まれている紋章を確認すること。決して、オルフェン王国の者を傷付けないこと。これだけを全うしてくれ。その隙に私は、隠し通路を使って城内へ侵入し、中から敵を殲滅する」


「オッケー、ツカサ」 

「てか、あんた一人で大丈夫なの?」


 承知したとサムズアップをしているレフとは裏腹に、ジュリは、心配そうな表情を向ける。


「はは、誰にものを言ってるんだ、大丈夫に決まってるだろ? 」

「なら、いいけどぉ……」

 

 シュンとするジュリ。

 ふぅ……私は大人だ。だがら、私はただツンケンに返すだけの事はしない。


「でも、心配してくれてるんだよな。ありがとう、ジュリ」

「うん!」


 先程までシュンとしていたのがウソだったようにジュリの顔はぱぁっと明るくなる。実にチョロい。


「城内を制圧した暁には、魔法で報せをだす。では……作戦、開始!」


 私の作戦開始の合図とともに、サッとその場から四つの影が消える。


「さぁて、私達も行くとするか……準備はいいか? ミル」


 私の呼び掛けに、ミルが闇夜の中からスーッと姿を現す。


「あぁ、いつでも行ける」

「では、案内を頼む」

「わかった、ついてきてくれ」


 ミルは背を向け、ルフェンとは真逆の方向へと進む。


 通常、どの国の城にも私の元実家同様、国のごく一部の重鎮のみが知っている抜け道が存在している。もちろん、このオルフェン王国にもそれは存在し、王子という立場であるミルは当然それを知っているわけだ。


 森の奥へと進むと徐々に小高い山の麓が姿を現れ、登山口の様なものがあるのだが、ミルは登山口には見向きもせず、数十メートル横に移動する。そこには、外部からの侵入を拒むかのように、私の背丈はありそうな雑草が鬱蒼と生えていた。ミルは、勢いよく雑草を両手で掻き分け、時には足の裏で踏みにじるようにして、麓の奥へ奥へと進んで行く。

 

 入口が完全に見えなくなった頃合いでミルの足が止まる。

 前方にはボルダリングに適してそうな、ゴツゴツとした岩壁が立ちはだかるように存在していた。

 

「ここが入り口なのか? 何もないようだが……」

「あぁ、少し待っていてくれ」


 ミルの言葉と同時に遠方から爆発音が鳴り響く。


 レフ達が暴れ始めたのだろう。

 まぁ、あの四人なら何の問題もないと思うが……それでも急いだほうがいいな。そう思いミルの方を見ると、ミルは懐からナイフを取り出し、自身の右の掌に傷をつけ、そのまま岩壁にピタッとくっつける。すると、ミルの掌から流れる真っ赤な血が、まるで血管を駆け巡るように岩壁を伝うと、次第にそれは魔方陣のような物に象られていく。



 ゴゴゴゴゴゴゴォォォ


 魔方陣の完成とともにミルを中心に岩壁が左右に開かれる。

 急にかなり血を抜かれたせいなのか、若干顔色が優れないミルは、私の方を振り返る。


「だいぶ辛そうだが、大丈夫か?」

「あぁ、問題ないよ。さぁ、急ごう」

「わかった」 



 ゴゴゴゴゴゴゴォォォ


 岩壁の中へ入ると、まるで自動ドアのように左右に開かれていたか岩壁が閉ざされる。


 駆け足で移動しながら、キョロキョロと周辺を見渡す。

 ゴツゴツとした岩肌に包まれたトンネルの様なアーチ状の通路は、マリーンブルーのような輝きを放っているためまるで海の中にいるかの様な感覚に陥る。


「これは……硝海石(しょうかいせき)、か?」

「その通りだ。この山一つが硝海石の発掘場なんだ」

「硝海石なんて高級な代物……なぜ、オルフェン王国は、これを売り込まなかったのだ?」


 硝海石は、大変希少価値のある鉱物で、金よりも高値で取引されている。


 そして、どういうメカニズムかは分からないが、採掘してもある程度時間が過ぎる事で木の実のようにまた育つらしく無限に採掘する事が可能と言われている。

 これを特産物にできていれば、この国はもっと豊かになったはずだ。

  

「しなかったのではないよ。出来なかっただけだ」

「どういう事だ?」

「これの存在は知っていた。だが、この場所に入る術を誰もしらなかったのだ」

「入る術を知らなかった? ここは、城への抜け道であろうに?」

「メインの抜け道はもう一つあるのだ。他の者はそこを使っている」


 ミルの話では、この場所に入れたのは偶然だったらしい。


 この先にある武器庫で足を躓き倒れそうになった際に、立てかけてあった槍で手を切り、その手で壁ドンしたら開いたと言うわけだ。

 漫画かッ! とツッコミそうになる気持ちを抑える。


 因みに、自分以外の血で試してみたが、反応があったのは王族の血だけだったという。

 この事をボボルッチに言っても、碌な事にならないと思い墓場まで持っていこうと思ったらしい。

 

「確かにな」と卑しいボボルッチの顔を思い出しながら苦笑いを浮かべる。


「もしかするとベルガンディ聖国が静かになったのは……」

「おそらく、これの存在を知ったからだろう」

「旨みが出た訳か……交渉は難しそうだな」

「……そうだな」


 ぎゃあぎゃあ騒いでいた頃のベルガンディ聖国であれば、交渉は可能だったかもしれないが、金の生る木を見つけた後では交渉のテーブルさえにもついてくれないだろう。


「そうか、この存在を知っているお前だからこそ、国を取り戻そうとしたわけだな?」

「あぁ、硝海石(これ)があれば国の立て直しなんてどうにでもなるし、民に豊かな生活を送らせる事もできるからな――っと、そろそろ出口だ」

 

 そう言って立ち止まるミルの視線の先の壁は、マリーンブルーの輝きはなく、岩肌が露出している。

 ミルは先程ナイフでつけた掌のキズ口を壁に押し当てると、入口と同じ様に血流の魔法陣によって出口が現れる。


「はぁはぁ、ここを出れば、城の武器庫だ。おそらく武器庫からでれば、ベルガンディ聖国の兵士達が巡回をしていると思う……」


 先程よりも辛そうな表情をしているミルだが、目だけはしっかりと私を見据えている。

 大丈夫か? 少し休むか? なんて気休めは必要ないだろう。

 

「任せてくれ、ここから先は私の番だ」


 その言葉の通り、私はミルを背に城内へと足を踏み入れた。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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