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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第11章

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不安じゃねーし!

「今さらだけど、本当に俺もいくのか?」

「うん、なんで?」

「いや、だってよ、俺、この国の元敵だし……」


 と段々と声が小さくなっていく俺に「ふふふ、問題ないよ」とワタルは目を細めるだけだ。

 俺は、非常に困っている。

 何に困っているかというと、俺は今、ワタルと共にユーヘミア城へと向かう馬車に揺れている。

 

 昨日の内にユーヘミア城へと書簡を出したワタルに、今朝方、登城の勅命が下されたのだ。国に仕える者として、帰還した旨を王様に報告する義務がワタルにはある。そう、それは至極まっとうな事だが、何で俺まで?


 俺は、戦闘奴隷として戦場で沢山の命を奪って来た。このユーヘミア王国もその内の一国だ。まぁ、俺はワタルとの一騎打ちで消耗したボロボロの身体にキングレを殺した奴隷紋の罰によって早々に戦場から離脱したため、他国と比べると圧倒的に被害者は少ないのだが、それでも俺に同僚を家族を、最愛の人の命を奪われた人は少なくないだろう……。


 思えば初陣であったベルガンディ聖国の時は悲惨だった……相手国が、だ。

 オルフェン王国一万五千の軍勢に対して、ベルガンディ聖国はその倍の三万。誰もが、ベルガンディ聖国勝利を疑わなかった。

 だが、そのベルガンディ聖国の三万の軍勢の殆どを、俺達、二十五人の戦闘奴隷が全滅へと追い込んだのだ。


 それでも初陣だ、二十五人全員が全員ちゃんと戦えた訳ではない。三上なんて、戦争に空気にビビり戦線から離脱しようとして、上官とその下っ端に袋たたきにされていたしな。


 そんな中、個人としては、俺の戦績は群を抜いていた。中隊を十以上潰したんだ、一人で三千人近くはこの手にかけたと思う。恐ろしい事だ……。俺に殺された敵兵達の断末魔は、今でも耳に残っている。

 ――奴隷紋せいで仕方ないじゃないかッ!

 ――俺は、悪くないッ! 全部俺を召喚したオルフェン王国が悪いんだッ!

 そう自分に繰り返し言い聞かせて、俺は剣を振るった。

 今となっては、そんなのはただの言い訳であって、事実として残るのは俺がこの手で沢山の命を奪った事だ。

 だから、失った仲間達の命の分もそうだが、奪った命の分、俺は世のため、人のために生きるって決めたんだ。

 

 それにしてもベルガンディ聖国との戦争で、不可解な事がある。

 いや、今だから不可解に思うと言うべきか。当時は、自分が生き残る為に必死だったため余計な事を考える余裕はなかったからな。

 俺がふと思った不可解な事、それは、第五小隊の全滅だ。


 第五小隊には、俺達の中で最年少である竹本君率いる第五部隊が所属していた。

 竹本君は、色々と異常だったな。

 最年少でありながら、圧倒的な身体能力を有してた。途中で俺が抜いたが……それでも、竹本君の底は見えなかった。必死な俺に比べて、竹本君はいつも余裕を残している、そんな感じがしていたのだ。そういえば、何故か俺は竹本君に嫌われている。一度話し掛けたら、すごい顔で睨まれてそれからずっと避けられていたからな……。結構へこんで紗奈に慰めてもらった記憶がある。


 他には陽気なレフさん、妖精のような美女ジュリエットさん、寡黙な高次さん、フレンドリーなミンギュさん。驚く事に、彼らはたった五人でベルガンディ聖国の軍勢の三分の一を壊滅させた。

 ――そんな彼らがだ。

 竹本君達は所属していた小隊もろとも、三つ目の戦場、グレイスが暮らしていたというティグリス王国との戦争で全滅している。


 正直、ティグリス王国は国の規模はデカイが、軍力はそこまででは無かった。そんな相手に、第五部隊の、誰一人として生き残っていない事に違和感を感じる。それに、死体が見つかった訳でもない。戦場から少し離れた廃墟で消し屑になっている第五小隊の亡骸があったのだが、識別は不可能だった。

 ただ、竹本君達の奴隷紋の反応が消えたため、何の疑いもなく、彼らが戦死したと結びつけられたのだ。


 当時は、生き残る事に必死で余計な事など考えられなかったのだが……今となっては、本当は竹本君達が生きているのでは? と淡い期待を寄せている。


「ほら、咲太。そろそろ城が見えてきたよ!」

「お、おう。どれどれ」


 ワタルの声に意識を戻され、言われるがままに馬車の窓から身を乗りだす俺は「なッ!」と驚きを口にする。


 城は、レンガ調で高さがあると言うよりは、広さがある優雅な佇まいだ。地獄城を実際に目の当たりにした俺には「へぇ~」と思うほどなのだが、それよりも城へと続く道の両端が兵士達で埋め尽くされているのだ。


 そして、馬車が通る一定の間隔で繰り返される「ワタル・タマキ魔法師団長に向かって敬礼ッ!」という掛け声で、兵士達がまるでウェーブの様に馬車に向けて、敬礼を掲げる。

 芸術とさえ思えるそれらに、俺は目を奪われ、胸が熱くなる。

 そして、ポロっと「お前、やっぱり凄い奴なんだな」と目の前で嬉しそうに「ただいまああ! ありがとう!」と手を振るワタルを称賛すると、ワタルは「そうだよ、僕は凄いんだ。そして、君はそんな凄い僕が認めた唯一の男。だから、そんなに不安な顔をせず堂々としてくれよ」と何の躊躇いもなく俺にそういう。

 

 こいつは、いつもこういう事を平気で言ってくる。

 ちくしょう、なんだこの毛穴がぶあーっと広がる感じ。

 ……分かっている。嬉しいんだ。


「別に不安じゃねーし!」


 と俺は、ワタルから顔を逸らす。


 こんな事しか言えないなんて全くもって恥ずかしいし、もう、おうちに帰りたいッと思う俺の気持ちとは裏腹に、俺達を乗せた馬車は城門をくぐる。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

今週中にあと一~二話更新します。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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