帰ってきた元王子⑧
更新遅くなってすみません。。。
「はぁ、はぁ、凄いな、君」
「――ッ!?」
今日も朝から下らない鉄球を付けての持久走をやらされていると、急に横から声がした事で不本意ながらも驚いてしまった。いくら目立たないよう力を抑えていたとしても、こんな短期間でまさか私の隣に並べる者が現れるとは思わなかったからだ。
それにしても……。
私に話を掛けてきたのは、この世界に戻ってきた初日、兵士に体当たりをして奴隷紋の罰をもらった青年だった。この青年は、なぜかオニール殿の目に留まり一人だけ特別特訓を受けている。まぁ、特別特訓というよりはオニール殿から一方的に殴られているようしか見えないのだが、それでも一国の英雄殿に訓練を見てもらえるなんて……低俗なゴリラを相手をしている私としては正直うらやましい。
私が不思議な顔で青年を見ていると、青年は私に向けて笑みを浮かべるのだが、息が上がっているのか少し苦しそうな表情で再度私に向けて口を開く。
「俺、服部咲太っていうんだ、君は?」
服部?
青年が口にした二文字のせいであの男を思い出してしまい、不快感が私を襲う。
いかん。この青年に非はないのに……。
「どうか、したのか?」
「いえ、何でもないです」
私は、ついつい不機嫌な表情を向けてしまった青年に対してどう接すればいいのか分からず、本気を出して青年から距離を取ってしまった。
翌日、せっかく話しかけてくれ青年に対して失礼な態度を取ってしまった事について謝罪しようと思っていたのだが、タイミングを逸してしまい青年と会話を交わすこと無くこの世界にきて半年が過ぎた。
「うむ、ついに……」
この世界に戻ってきて半年。ついにこの奴隷紋の解呪に成功する事ができた。
私の中ではぼそっと呟いた独り言だったが、この狭い空間にいる他の仲間達の耳に入るには十分だったらしく、全員の視線が一斉に私に向く。
「ツカサ、何がついになの?」
みんなを代表して、ジュリーが私に疑問をぶつけてくる。
どうするべきか……?
バルカン……いや、一国を相手にするには私一人では手に余る。
ここにいるメンバーは、この半年でかなり戦闘能力が向上している。それは、先日実施した実践訓練でそれは証明されている。
しかも、こんなくそみたいな環境で、言葉の通り臭いメシを共に分けあった仲間。これ以上信頼を置ける者達はいない。よし……。
「みんなに提案がある。私のそばに集まってくれ」
私の言葉にレフ、ジュリー、ミンギュ、高次が私のそばに寄ってくる。
私は最年少ではあるが、みんなとは対等な関係を築いており、戦闘力がずば抜けて高い私に対して、仲間達は子供扱いはしない。
「さて、私はこの世界に来てからずっとある事を試みていた」
「ある事?」
「あぁ、この奴隷紋の解呪だ」
「「なッ!?」」
まぁ、みなの反応は至極当然だろう。
「じゃ、じゃあ……ついにって事は……!?」
こくりとジュリーに向けて頷く私の口元が自然と緩む感じがする。
「おいおい、ま~じかよ~おいちゃんに嘘ついてねぇよな?」
「私は嘘が嫌いだ」
「ツカサの話が本当だとして、これからどうするの?」
「そこでみんなに提案があるのだが、その前に私の話を少ししようと思う」
ここにいるメンバーにとっても、この奴隷紋から解放される事は願ってたり叶ったりの筈だが、これから円滑に事を進めるために私は自分の前世の事を話すことにした。
私は、自分が元々この世界のディグリス王国の王子で嵌められて殺された事、日本に転生し、またこの世界に戻ってきた事など必要な情報のみを簡略に伝えた。
みな先程よりも、面白い反応を見せてくれたのだが、「これで、ツカサの異常な身体能力にも納得」という事で落ち着いてくれた。
「それで……? お前の提案はなんだ?」
珍しく無口な高次が問いかける。
「奴隷紋を解呪してやる、その代わり私の復讐に付き合ってくれ。復讐を成し遂げた後は、自由を約束しよう」
「教えてくれ、元の世界に戻れる術はあるのか?」
「正直に言ったら分からない。ただ、あの渦……あれをもう一度じっくり見る事ができれば解析できるかもしれない」
「そうか……なら俺は、お前についていく。こんな所で奴隷をやっているよりはお前と一緒に行動した方があっちに戻れる可能性が高そうだ」
「うむ。私も向こうには戻らないといけないからな……できる限り協力しよう。さぁ、他のみんなはどうだ?」
「おいちゃんは、命狙われているから元の世界には戻りたくはないけど、一生このままって訳にもいかなからなぁ」
「私は高次達と同じように元の世界に戻りたい!」
「僕もです!」
高次に続いて、レフ、ジュリー、ミンギュとみんな俺に協力してくれると言ってくれた。
「それで? いつ決行するの?」
「皆には悪いがもう少しこの状況を続けて欲しい。隊員達の話を聞く限り、我々はもうすぐ戦場に送り込まれる。決行のタイミングはディグリス王国との戦争時だ。混乱に乗じてディグリス王国に乗り込み、復讐を成し遂げようと思う」
「それはいいけど、そのディグリス王国ってところと戦争するかどうかも分からないのに?」
「我々の初陣はベルガンディ聖国だと聞いている。私達戦闘奴隷二十五名があれば、正直ベルガンディ聖国に後れを取る事はないだろう。国の規模からして、ディグリス王国はベルガンディ聖国の次、もしくは、その次の次に攻め込むと私は見ている」
「本当にそううまくいくものかね?」
とレフは髭をじょりじょりと撫でる。
「三つ目までの戦場で相手がディグリス王国でなければ、我々はそのままオルフェン王国を離脱する」
「まぁ~それならいいか」
レフが納得した事で、他のメンバーもそれに続く。
「だから、悪いがもうしばらくその奴隷紋を背負ってくれ」
いつも読んでいただき、ありがとうございました。




