帰ってきた元王子③
誤字脱字修正しました。(21.7.21)
誤字修正しました。(21.7.22)
誤字脱字修正しました。(21.10.12)
鈴木兄を返り討ちした私は凛と会話を交えながら帰路についた。
会話と言っても一方的にしゃべってくる凛の言葉に対して曖昧な返事をしているだけだ。いつも通りのやり取り。私と凛の日常だ。
これから母上が仕事から帰ってくるまで、凛達と過ごす。これもまた私にとっての日常だ。今日はこれからおままごとという羞恥プレイが待っているという事で気が重いが……と肩を落として歩いていると前方で何か騒いでいる声がする。
「この声は……」
「つーくん、あれ、あかりおばさんじゃない!?」
「そのようだな」
ちょうど私達の住んでいるマンションの目の前に黒いミニバンが停まっており、母上がスーツ姿の男に腕を引っ張られながら、車に乗れ、乗らないと言い争っているいる様子だった。
「母上ッ!」
私は、背負っていたランドセルを雑に放り投げ、両足に身体強化の魔法を発動させ一気に母上の元へと駆ける。
私はこの世界で魔法が使える。
前世で培ってきた魔法の知識を駆使して、己の力で魔法の器を形成させた。数ヶ月前の話だ。
この世界は、生前の世界と違い大気に含まれている魔力が薄い。生前の世界と比べたら百分の一にも満たないだろう。だから、この世界の人間の一生は魔力の器を形成するためには短すぎるのだ。だが、すでに魔力の器を形成させた私にとっては最高の環境だ。いくら大気中に魔力が少ないと言っても、魔法を扱う者がいないこの世界では、この魔力は全て私のものだからだ。
小学低学年とは思えない速さで近づく私を見て、母上の腕を掴んでいる男は「な、なんだ!?」と驚き、母上も男と同様の反応を見せているが、それでも私を心配する思いが勝ったのか、
「つーくん! 来ちゃダメ!」と私に向けて叫ぶ、が、そんな事はお構いなしの私は、男の腹部めかけて突進する。
「母上を離せええッ!」
「ぐぼぇ!」
男は私の突進に悶絶する。
前世の私であれば、今の突進でこんな魔力も使えない雑魚の腹など突き破っていただろうが、いや、そもそも突進など不格好な攻撃などしなかっただろう。
――私は貧弱だ。
貧弱というには、私の自力が弱すぎるという事だ。まぁ、こんな平和な国の子供だ、弱いのはしょうがないと言えるだろう。
そして、魔法については、別に急ぐこともないと思い、基本的な魔力操作の訓練しかしていない。戦場に出るわけでもなく、小学生の私が命の危機に晒されるほどこの国の治安は悪くない。同じ小学生に負けないくらいの力があればいいと思い大した訓練をしてこなかったのだ。
「げほっ、げほっ。なんだ、このガキはッ」
今の私では、魔力を駆使しても中学生ほどの力しかないだろう。
男は咳き込んではいるが、別に怯んだ様子もなく私を睨んでくる。やはり鈴木兄とは違うか。
「つーくん、家の中に入っていなさい」
「いえ、母上を一人にするわけにはいきません」
「いいからッ! 言う事を聞いてッ!!」
「――ッ!? 母上……」
母上がこんなに取り乱すのは初めて見る。
この男が原因だろう。
「おい、母上って、朱里ッ、お前まさか!?」
「違うわ! この子は!!」
「嘘を吐くな! よく見たらこのガキ、俺の小さい頃にそっくりじゃねーか。くそッ、どういうつもりだッ! 俺は堕せと言ったよなッ!?」
「子供の前でそんなこと言わないでよ!」
「うるせえ! そのガキを使って俺の家を乗っ取るつもりかッ!? ふざけやがって!」
「きゃッ」
こいつ、母上の事を殴りやがった。
「貴様ッ、よくも母上をッ!」
私は、身体強化魔法をフル稼働させ、男に向かって突っ込む。
まだ手足が短い私だ。大人に対して行える攻撃はスピード重視の突進しか頭に浮かばない。
「同じ手を喰らうかよ!」
だが、そんな攻撃は虚しく男に難なくあしらわれ、腹部に鈍い衝撃と痛みが走る。
「ぐふッ」
先程のお返しと言わんばかりに男の膝が私の腹部に突き刺さったのだ。
息が一瞬とまりかけ、咳き込んでしまう。
「つーくん! 子供に手を上げるなんて最低よッ!」
地面にうずくまって咳き込んでいると、辺りがざわざわと騒々しくなってきた。これだけ騒ぎだ、事件かと周辺住民が集まってきたのだ。中には、警察に通報をしてくれている人もいた。
「ちッ、今日はここら辺で消えてやるが、ただで済むと思うなよ?」
流石にここまで大ごとになったらまずいと思ったのか、男は、そう吐き捨て車に乗り込み早々にこの場から去っていった。
母上は、男が完全にいなくなった事を確認し、住民の皆さんに「お騒がせしてすみません」と何度も頭を下げ、私と怖かったのかぺたんと座り込み大粒の涙を流す凛を伴ってマンションに入って行った。
◇
「母上、あの男は私の父上なのですか?」
凛を家に届け、私と母上は、我が家の食卓で対面している。
「…………」
「はぁ~沈黙は肯定と取ります。そうですが、父上が亡くなったというのは嘘でしたか……」
「ごめんなさい……嘘をついていて」
「では、あの男が言っていた、家を乗っ取るというのは?」
「……あの人、私の職場の社長さんの息子で、すごくお金持ちなの。でも! つーくんを産んだのは、あの人の家を乗っ取るためなんかじゃないから! 正直、シングルマザーになるのは不安だったけど、それでもお腹の中にいたあなたが、ただただ愛おしくて、そんなあなたに逢いたくて……」
母上は、人を騙したり、陥れたりできるほど器用な人ではない。
まぁ、母上があの男の家を乗っ取る事を望むのであれば、私は全力でそれに従うが……母上が、いつも自慢する自分の職場の社長さんにそんな不義理な行いをするとは思えない。
「そうですか。なら、いいです」
「信じてくれるの?」
「はい。母上が人様の家を乗っ取るなんて考えられないので」
私と母上の中でこの話は、ひと段落した。
さて、あの男はただじゃおかないと言っていた。
これから、母上や私に何かしらの危害を加える気なのかもしれない。いや、確実に加えてくるだろう。自分の子供に容赦なく蹴りを入れてくる男だ。
――力がいる。
大人に負けない力が。
いや、それだけでは足りん!
あの男の事だ、家の事もあるだろうし、自分の手は汚そうとはしないだろう。となると、大人一人に立ち向かえる力だけでは足りない。
これは、本気で訓練を始める必要があるな。
この日、私は、家族を守るために強くなろうと決心した。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
最近、ブックマークや評価が若干ではありますが伸びてきていて、すごくやる気が溢れてきていますw
という事で、連休中には更新します。
改稿も続けていますので、よろしければチェックしていただけると幸いです!




