帰ってきた元王子②
脱字修正しました。ご指摘ありがとうございます。(21.7.16)
竹本司という新たな生がスタートして七年が過ぎ、私は小学生になった。
普通これくらいの年齢の子供は、アニメや特撮ヒーロー物に夢中になったり、ゲームやおもちゃを年がら年中ねだるものらしいが、二度目の人生による精神年齢のせいか、私はそうはならずに、好奇心の奴隷の名に相応しく、ひたすら知識を自分の頭に詰め込んでいた。「うちの子天才!」と喜んでいた母上が、「うちの子大丈夫かしら……」と心配するほどに、私は変わった子として周囲に認識されているらしい。
「ほら、つーくん。いくよ!」
「……あぁ」
「もう! 歩きながら本を読むのは危ないんだよ?」
「あぁッ!? 何をする!」
「これは学校に着くまで凛が預かりますッ」
「ぐッ……」
私の至福の時間を邪魔してくるのは、お隣さんである神谷家三女の凛だ。
三年前に今のマンションに引っ越してきてからの付き合いになる。神谷家は三姉妹で、凛の姉上達は私の事を本当の弟の様に接してくるのだが、全員お節介焼きというかなんというか、少し煩わしいと思ってしまうが、母上が仕事から帰ってくるまでの間、神谷家に世話になっているため文句は言えない。
はぁ、早く自立したいものだ。
学校に到着すると凛に本を返してもらい、各々の教室へと向かう。凛とは教室が違うのだ。
「つーくん。また、帰りにね~」
「あぁ……」
私は、ようやく返してもらった本に目を落としながら返事をする。
放課後はそのまま神谷家にやっかいになるため、凛と一緒に下校している。
そんな私と凛の事を周りのガキ共が夫婦だとかおちょくってくるのだが、所詮ガキ共の戯言、大人の私が気にする事はない。
そんな大人な私だ。
凛以外で私に同年代の友人はいないし作ろうとも思わない。
それは、前世でも同じだった。
ダリウス・ディグリスは鼻つまみ者だった。
だから、友人と呼べる者は一人としておらず、私自身必要としていなかった。
従者である緋狐族のグレイスが唯一の心を許せる相手で、世話焼きなところはどことなく凛と重なる。
グレイスは無事なのだろうか?
孤児であり魔族であるグレイスをほとんどの者達がよく思っていなかったが、私の従者と言う肩書によって守られていたため、表立って何かされる事はなかったのだが、私が死んだ事により辛い思いをしていないか心配だ。
「竹本君、この問題わかるかな?」
物思いに更けていると、担任の早坂先生から指される。黒板を見ると5+6=という計算式が書かれていた。
ふん、私を舐めるでない。
「答えは、11だ」
「正解、よくできました! でも、答える時は“だ”じゃなくて、“です”ってちゃんと敬語を使ってくれたら完璧なんだけどなぁ」
「善処しよう」
「しよう?」
「……します」
「はい、よくできました!」
こんなやり取りを一日に数回行うと下校の時間になる。
「帰ったらなにしようか?」
そう言って私の顔を覗き込む凛。もちろん、私の愛読書は凛に没収されている。
「わざわざ聞かなくても、やりたい事は決まっているのだろう?」
いつもの様に、凛は自分のやりたい事が既に決まっているにも関わらず、私に何をするか聞いてくる。
訳が分からん。
「むぅぅッ、そんなことないもん! つーくんのやりたい事一緒にやりたいもん!」
「じゃあ、どくしょ「いやあああ!」……ほら、言ったではないか」
「もう、本ばっかり読んでもつまらないじゃん」
「私は、面白いからいいのだ」
「凛はつまらないもん!」
こうなった凛は、もうどうにもならない。
私は大人だ。子供のわがままくらい軽く受け入れられる。
「そうか……では、凛は何がしたいのだ」
「おままごと! 凛がママで、つーくんがパパで――」
「…………そうか」
今日も羞恥プレイをするのかと肩を落とし歩いていると、ガキ共が私達の前を塞ぐように立ちはだかる。
「兄ちゃん、こいつだよ!」
不敬にも私を指さすガキは、昨日、凛との間をちゃかされて私が泣かせた三年生の鈴木というやつだ。少しこついただけで大泣きして逃げ帰ったと思いきや……なるほど、兄に泣きついたのか。
「お前か? 俺の可愛い弟を泣かせた野郎は」
鈴木兄は、小学生とは思えないほど縦も横も大きい。
普通の一年生だったら、ビビって逃げ出すくらいの圧があるが、私は普通の一年生ではない。
「そうだ」
「兄ちゃんは六年生なんだぞ? うちの学校で一番強いんだぞ! なのに、一年生のくせになにタメ口きいてんだよお前!」
「何で私がガキ相手に敬語を使わないといけないのだ? お前は馬鹿なのか?」
「俺がガキだと!? 一年のくせに生意気だぞ!」
「兄ちゃん、やっちゃってよ!」
鈴木兄が、指を鳴らすポーズを取りながら私に近づいてくる。指が鳴っていないのが酷く滑稽だが、それは突っ込まない事にしてやろう。
「つ、つーくん……」
俺の隣でプルプル震えながら泣きそうになっている凛。まぁ、これが普通の反応だろう。
「大丈夫だ、私の後ろにいろ」と言いながら、私は一歩前に出る。
「今引くなら見逃してやる」
「なめやがってえええ!」
鈴木兄は、怒り狂った形相で突進してくる。
技術もへったくれもない、ただデカい図体任せの突進。
避ける事は容易いが、避ければ後ろにいる凛が危ない。
「しょうがないな……」
私は、身体強化の魔法を掛け、右手一つで鈴木兄の突進を止める。
「なんだと!」
まさか、自分よりはるかに小さい一年生に突進を止められるとは思わなかった鈴木兄は、信じられないような顔をする。
こんな子供の遊びにつきあってやる義理も時間もないので、無防備な鈴木兄の腹部をつま先で蹴り上げると、鈴木兄は小さめの弧を描きながら吹き飛び、ピクリとも動かなくなった。
まぁ、手加減してやったので、内臓が破裂してるとかはないだろう。
私は、状況に付いていけてないのか完全に固まっている鈴木弟に近づく。
「おい」
「ひぃっ……」
「次またこんなくだらない事で私の時間を奪うというなら……その両目を抉りだし、そこにいるカラスにくわせるからな? わかったな?」
鈴木弟は、ボロボロと涙を流し何度も首を縦に振る。
まぁ、これだけやれば、もう、ちょっかいは出してこないだろう。
「さぁ、帰るぞ凛」
「うん!」
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




