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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第10章

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イドラ ②

誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。(21.4.1)


「単刀直入に申し上げますと。私は、日本人です」


 うん。何となくだが、予想はついていた。

 イドラは向こうの世界の人と比べて、なんというか彫りが薄い。

 翡翠色の瞳を除けば日本でよく見かけるさっぱりした所謂塩顔だ。

 彼女が日本人であるという事で、魔王の記憶にある前世の【幸】と紐づけてしまうのは俺だけだろうか?


「あらまぁ、他の方々とは違って、咲太様はあまり驚かないのですね?」


 真紀達はイドラの正体が予想外だったのか、かなり驚いている。真紀達のリアクションが普通なのかもしれないが、前述の通り、俺はイドラの顔を見た時にそういう可能性を持っていたのでさほど驚きはない。

 取り合えず、聞きたい事を先に聞いてみよう。


「もしかして、【幸】という女性はイドラさんの事ですか?」

「あらまぁ、どうしてその名を?」


 イドラの表情の変化はそこまでないのだが、俺の問い掛けに対しての口調は明らかに違ったものだった。


「魔王様から、【幸】という日本人の女性の話を聞きました。魔王様は、自分の前世が【幸】という人だったと言っていたのですが、その記憶について魔王様は違和感を感じていて……前世の記憶を思い出したのが、イドラさんにメンタルケアを受けた後だったと言っていたので、イドラさんの前世が日本人であれば、そういう可能性もあるのかと思ったんです」

「驚きです。まさか、アーノルド様と面識があるなんて……」

「こっちの世界への侵攻を思い直してもらうために地獄城にいき、魔王様に直談判しました」

「まぁ……咲太様にとって辛い思い出がある、あの世界に……」

「確かに辛い思い出ではありますが、今回は自由の身で、しかも素晴らしい出逢いが沢山あったので、凄く楽しかったです」


 数週間だったか、本当に様々な、良い人達と出逢う事ができた。

 それは人族でも異世界人でも魔族でも。

 俺の辛かった奴隷時代の記憶を塗り替えれる程に、俺は充実した異世界生活を送ったのだ。


「そうですか、それは咲太様にとって本当に良き経験でしたね。さて、咲太様のご想像通り、【幸】というのは私の事です」

「つまり、イドラさんは転生者という事ですか?」


【幸】は身体のあらゆる臓器を抜き取られ命を落としたと聞いている。いや、聞いているというより、俺の頭の中では既に亡くなった人という位置づけだ。だけど、若干矛盾を感じている。

 魔王アーノルド・ルートリンゲンのおむつを替えた事があるイドラは、現魔王の父親である先代魔王の右腕だった者だ。魔王アーノルド・ルートリンゲンは四十を優に超えている、そして先代の魔王の右腕となるくらいの歳月……それを考える。そして、【幸】の話に出てきた、父親はトレーラーの運転手、母親はホストにハマっていた等々の情報を比べると時系列が合わないのだ。


「私は転移者です」

「でも、転移者だったら時系列が合わない」

「咲太様、転移というものは必ずしも線で結ばれているわけではないのですよ? 空間の移動というものは、入り口と出口で点と点が結ばれているという認識を持った方がいいです」

「という事は、イドラさんは俺と近い時代に生きた後、俺があっちの世界にいた時より遥か過去に転移した、という事ですか?」

「はい、その通りです」


 それなら、時系列に納得がいく


「更にお伝えしますと、今この時代に私はまだ生きています」

「なッ!?」

「というより、まだ小学生ですね」

「つまり、貴方はこの時代より先の時代で生きていたという事ですか? 未来人という事ですか?」

「はい。そうなります」

「……ッ……」


 俺達の会話を真紀達は驚きを交えつつも、口を出す事なくじっと聞いている。


「貴方が魔王様をだましてまで、こっちの世界を侵略しようとしたのは復讐ですか?」

「まぁ、咲太様ったら意外と勘がよろしいのですね。その通りです。私は、この世界が憎い。大好きな両親を失い、大好きな生涯の伴侶を理不尽な形で奪われ、私は両目、身体のあらゆる臓物を抜かれ、恐怖のさなか命を落としました。怖かった、痛かった、ムカついた、悲しかった……悔しかった……だから、この世界を支配できれば、私の中に渦巻くこのどす黒い気持ちを浄化できると思ったのです、自己満足ですよね」


 先程まで穏やかだったイドラの表情がぐちゃぐちゃにした画用紙の様にゆがむ。


「冷たくて、固い手術室のベットの上で、命を諦めました。いえ、違いますね。諦めるというよりは諦めざるをえなかった。だって、私の身体には臓物がないのですから。死んだと思いました。だけど、次に目を醒ました場所は天国でもなく、地獄でもなく寂れた町の外れでした。真っ暗だった視界には光がともり、重さを感じなかった身体は、ずっしりとした重さを感じられました。私の両目に眼球が、体内には臓物が戻ったのです。誰が、何のために私に再度生きる機会を与えてくれたのかは分かりませんが、色々なトラウマはありますが、せっかく救ってもらった命――大事にしようと思いました。そして、私が出会ったのが、先代魔王である、グラナシア・ルートリンゲン様でした。まだ、王座についていなかったグラナシア様は、身元不明の私を拾ってくれ、さらに仕事を与えてくれました。生きる場所を与えてくれたのです。数年後私は、自分が持っている能力に気付きました。洗脳です。その力を使い、グラナシア様の政敵を洗脳し、グラナシア様を魔王の座へと導き、私は、それから魔王の右腕としての使命を全うしました。幸せだった。日本で色々な辛い思いをしてきて、両親やあの人に申し訳が立たないと思いながら凄く充実した毎日を送りました。――カケル様の登場までは」

「なんでそこでカケルさんが?」

「だって、カケル様は日本からの転移者。あっちの世界に来たのであれば、戻れる方法もあると思うのが普通じゃないですか?」


 いや……召喚物は結構一方通行が多いのだが……。


「平穏で、平和だった私の心の内は、私の愛する人と私を苦しめた者達への復讐を忘れていなかったのです。何十年たっても、です。それから先は、咲太様が、アーノルド様からお聞きになられた内容と一緒です」

「そうですか、それならイドラさんは、これからどうするんですか? 復讐、をするのですか?」

「そこが問題なのです。本来であれば、私がこの恨み辛みのある日本に復讐をするか、咲太様に倒されて心半ばに朽ちてゆくというのが定石だと思うのですが」


 いや、全然定石じゃないし。

 軽く心の中で突っ込むが、イドラに聞こえている筈もなく。

 

 イドラは続ける。


「この世界の私はまだ生きていますし、両親も健在です。つまり、私が大好きだった世界のままなのです」

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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