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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第10章

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アジト潜入

「おいおい、すげぇビルだな」

「ここら辺にあんな新しい高層ビル、ありましたっけ?」


 うん? 確かに俺の魔力探知に引っかかったビルは高層ではある……が、決して新しくない。


 ビルはざっと見て先程のビルの倍は優にあり、円柱の様な形。上層階に行くにつれてその円は狭まっていっている。


 確かに、この周辺では際立って高いビルだ。だが、早紀の“新しい”という言葉が引っかかる。


 俺の目に映るのは、円柱の骨組みにペタペタと粘土をくっつけて出来たようなビルというより今にも崩れ落ちそうな塔と言った方がしっくりくる。


 だから、早紀の言っている“新しい”とはかけ離れているのだ。


 だから俺はあえて聞いてみた。


「あれのどこが新しいんだ? 俺に言わせてもらえば今にも朽ち果てそうな塔にしか見えないが……」

「塔? 何を言ってるんだ? ここら辺に似合わない、そうだな、丸の内辺りにありそうなコジャレたガラス張りの高層ビルじゃんか」


 真紀の隣で早紀がウンウンと頷く。

 おいおい、どこがコジャレたガラス張りだぁ? 俺は目を擦ってもう一度ビルを見る。ガラスなんて一つもない、不気味な建物だ。


 おかしい。真紀達が嘘を言ってる様にも思えないし……。


「どうしたんだ? 目的の場所が分かったんだ、早くいこうぜ?」 

「あぁ、そうだな」


 分からない事を今ここで難しく考えていてもしょうがない。

 俺は一時的に思考を止めて、真紀達とその場を離れた。



 その場所に到着するまで、それほど時間は掛からなかった。


 最上階に魔王でも居そうな不気味な塔。いや、本物の魔王様はもっとカッコいい場所に住んでるんだっけ。とあのきらびやかな地獄城を思い出していると

「おい、置いてくなよ!」「酷いですよ!」と真紀達がやや遅れて到着する。


 結構本気で走ったので、二人の到着はもう少し掛かると思っていたんだけど、流石六課の肉体労働担当と言うべきか、二人は予想よりも早く俺に追い付いてきていた。まぁ、俺に置いていかれた事に若干腹を立てているのだが、息が上がってないのは流石だな。


「ごめんごめん、じゃあ入ろうか」


 ビルの入口は、真ん中に回転扉、その両脇に自動ドアが設置されている。まっすぐに自動ドアへと向かう早紀と反対に俺と真紀は、回転扉の前に立っていた。


「えっ? 二人ともなんでそっち?」


 早紀はセンサーによって開かれた自動ドアの前で立ち止まる。俺達がまだ外にいるので中に入れずにいるのだろう。


「いや、お前。回転扉があるなら普通はこっちだろ、なぁ? 咲太」

「あぁ、こっちだな」


 と返しつつ俺は回転扉の中に入るタイミングを身体を揺らしながら計っていた。真紀の身体が揺れてると言うことは、恐らく俺と同じくタイミングを計っているのだろう。


「先、いいぞ。咲太」

「いやいや、お前先に行けよ」

「いやいや、ここはお前に譲るよ」

「いやいや……」


 馴れてない回転扉は、入るタイミングが難しい。

 だからなのか、俺達はタイミングに合わせて身体を揺らしながら、どうぞどうぞと日本人らしい譲り合いの精神を全身で出していた。


 一人が入れば、何となくタイミングを掴めそうな感じがするので、真紀を先に行かせようとしたのだが、どうやら真紀も同じ事を考えているようだ。


 でも、こんな所で時間をかける訳にもいかないし、しょうがない……ここは俺が!


 一歩前に出る。


「おぉ、咲太。男だな!」と真紀からは尊敬の眼差しを向けられる。

「任せろ」と短く返しつつ自動扉を見る。


 心なしか、回転が早くなった気がする。しかも、回転するリズムも8ビートから16ビートからシャッフルビートと変則的になった感じがする。


 俺の身体が、回転扉の入口が向けられるタイミングに合わせて更に揺れる。

 タイミングに合わせて、右手の人差し指を動かす。

 トン……トン……トン……トン……トン……「今だ!」


 俺は、決死のダイブが如く回転扉の中に飛び込む!


「おぉ! すげぇ! やったな咲太!」


 真紀の称賛に、フッと鼻を膨らませ、右手を上げて応え、

「今度はお前の番だ! お前ならできるッ!」と俺は真紀に檄をとばす。


 “お前なら出来る”なんて無責任な言葉は、先に成功した者の特権だ。


「おう! 俺は出来るッ!」


 そんな俺達のやり取りを自動ドアを使って早々にビルの中に入っていた早紀が呆れ顔で見ているなか、結局、真紀は回転扉に入る事が出来ず肩を落としながら自動ドアでビルに入って行った。


◇◇

 

 何だこれは……?

 ビルのロビーに入ると、先程の廃ビルとは比べ物にならない程広々としているのだが、エレベーターホール前に立っている守衛さん以外に人っ子ひとりいない。受付嬢も不在だ。

 

「なぁ、これって……」

「どうした? 早く受付の所にいこうぜ?」

「受付? 誰も居ないのに行ってどうするんだ?」

「はぁ? さっきからどうしたんだよ。あそこに二人可愛い受付嬢が居るじゃんか。なぁ、早紀?」

「はい、可愛いかどうかは分かりませんが……」

「俺には何も見えない。このフロアで俺に見えるのは、あそこのエレベーターホールの入口に立っている守衛さんだけだ」

「お前、どうかしてるんじゃないか? こんだけ人が溢れ返ってるのに?」

「人が溢れかえってる?」


 どういう事なんだ? 意味が分からない。


「本当にどうしたんだお前。まぁ、とりあえず受付に行くぞ」


 訳の分からないまま、俺は真紀達の後ろについて無人の受付に向かう。

 受付の前についてとたん「どうも、アポはないんだけど――」と真紀が率先してしゃべりだす。


 何もない空間に向けて独りで話している真紀は傍から見たら目を背けたくなる程イタいのだが……、独りで会話が成り立っているし、その隣で早紀が相づちを打っているのを見るかぎり、おかしいのは俺なのか?と心配していると「了解、じゃあまた来るわ」と真紀と早紀が踵を返し、ビルの入口に戻っているではないか。


「おい、どこ行くんだよ?」


 俺の言葉に真紀達は反応しない。


「おいってば!」と二人の肩を掴んで、俺の方を向けさせる。

 真紀達は目の焦点があっていない感じで、ボケーっと俺の方を見ている。


「どうしたんだよお前ら!」と乱暴に二人の肩を揺らすと、二人はハッとまるで眠りから目が醒めたように覚醒し、辺りをキョロキョロと見渡す。


「さ、くた? 何があったんだ?」「あれ? あれ?」

「それはこっちのセリフだよ! 急に無言で帰ろうとして、何があった?」

「いや、受付の人に話掛けてからの記憶がねえ……」

「私も……です」

「どうなってんだ、さっきまであんなに人で溢れかえっていたのに」

「咲太さんの言った通り、誰もいないです……あ、守衛さん以外」


 どうやら二人も俺と同じものが見えているらしい。催眠か何かだったのか?

 さっきの二人の様子は明らかにおかしかった。まるで人形の様に操られているように……。


「おい、お前達!」


 思考を巡らせていると、背後から乱暴な口調を向けられる。

 振り返ってみると、エレベーターホールの前に立っていた守衛の男が、こん棒サイズの警棒を片手に俺達を睨み付けていた

「客に向かって、酷い態度だな」

「ふん! お前達は客は客でも招かざる客だからな」

「まぁ、この際あんたの態度なんてどうでもいいかぁ。それより、俺達は最上階に用があるんだが、そこにいるんだよな?【イドラ】」

「きっ、貴様ッ! 【イドラ】様だろおおおおおがあああッ!」


 俺が【イドラ】を呼び捨てにしたのがよっぽど気に食わなかったのか、守衛の男は俺の頭部に向けて手に持った警棒を一直線に振り下ろす。


「おせぇ」


 欠伸が出るほどに遅いその攻撃を俺が横に一歩ずれて躱すと、警棒はその勢いのまま床にめり込む。

 普通の人間であれば中々のパワーだと思うが、こいつ普通の人間じゃないな。


「中々のパワーファイターだな」と皮肉たっぷり話し掛けると、守衛の男は皮肉が通じないのか上機嫌で語りだす。


「そうだ! 俺こそは崇高なる【イドラ】様に選ばれた戦士! 普通の人間とはちがうんだよおお!」


 守衛の男は更に攻撃を繰り出す。

「咲太!」と俺の方へ今にも駆け出して来そうな真紀達に問題ないと掌を向ける。

 俺は守衛の男の攻撃を当たるギリギリの所で躱していく。

 攻撃が見えてなければ出来ない芸当であり、そのためには俺と守衛の男の間に圧倒的な力の差があるから出来る芸当なのたが、自分の力に余程の自信があるからなのか、それとも頭に血がのぼっているからなのか……いや、こりゃ両方だな……。


「くそッくそッ、何で当たらない!」

「教えてやろうか?」


 俺は振り下ろされた警棒を片手で掴む。


「な、何を! 貴様ッ! 離せッ!」


 守衛の男は顔を真っ赤にして、両手で俺に掴まれている警棒を力一杯引き剥がそうとするのだが、ビクともしない事でやっと自分と俺の力の差を悟ったらしく、へなへなと力なくその場に腰を落とし、「うそだろ……俺は【イドラ】様から……力を……」とぶつぶつ同じ言葉を繰り返す。


「それで、【イドラ】は最上階でいいんだな?」

「【イドラ】様だろおおおおお!」


 守衛の男は、先程まで俺とやり合った事を忘れたかの様に激昂し、俺に殴り掛かかるが、俺はその遅い拳に合わせてクロスカウンターをねじ込む。


 守衛の男は、ビルの入口の自動ドアを突き破って、この場から退場した。


「何でそこだけ反応するんだよ!」と守衛の男に向けて悪態をつけるのだが……聞こえはしないだろう。 

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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