緊急事態?
誤字修正しました。(21.2.24)
修正しました(21.2.25)
美也子さんから本物の敬礼を返して貰った俺は美也子さんと向かい合うように座っている。
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俺は本物の敬礼を返してくれた美也子さんと向かい合うように座っている。
「それで、何かあったんですか?」
俺は本物の敬礼を返してくれた美也子さんと向かい合うように座っている。
いくら鈴さんが居ないからって散らかし放題の室内、普段とは違う仲間達の重たい雰囲気、そして今となっては気を持ち直して鬼の様に両手に持ったハンバーガーをがっついている美也子さんの疲弊していた様子。
絶対何かあると鈍い俺でも分かる変わり様だ。
そんな俺の質問に対して、モグモグしながら「ちょっと待て」と言いたげに向けられた美也子さんの掌に従う。
あっという間にハンバーガーを平らげた美也子さんは、ドリンクを一気に飲み干し、ひと息ついたあと俺に鋭い視線を向ける。仕事モードの美也子さんだ。
「待たせて悪かったな、ここ数日何も食べて無かったせいか一口食べたら止まらなくなってしまった」
「いや、全然いいですけど、そんなに一気に食べたら身体に悪いですよ」
俺の返しに「フッ」と鼻を膨らませ、美也子さんは口を開く。
「それにしても絶妙なタイミングで帰ってきてくれた」
「それで、何かあったんですか?」
「あぁ、緊急事態だ。ニブちんのお前でも気づく程のな」
ニブちんって……まぁ、反論は出来ないけど。
「まぁ、そんな顔をするな。正直私らだけでは進展がなくて手を焼いていた。お前が戻ってきてくれた事で何かが変わるかもしれないと思うと気が楽になる」
美也子さんは、明らかに安堵な表情を俺に向けるが、そんなに期待されていいのだろうか……気が重い……。
「役に立てるかは分かりませんが……それで、緊急事態とは?」
俺の三度目の問い掛けに、美也子さんは軽く深呼吸をし重たそうに口を開く。
「……紗奈たんの行方が分からなくなった。ここ一週間連絡も取れない……」
うん? 紗奈?
キョロキョロ室内を見渡す。確かに紗奈はいない。
いるのは、悲痛な表情をしている海さん、玄さん、真紀、早紀……東城さんは、寝息を立てている。
室内に紗奈がいない事は最初から分かっていた。
この場にいない事に対しても何の違和感も持たなかった。だって、紗奈だし。
「えっと……紗奈の行方が分からないってのが緊急事態なんですか?」
「お前……紗奈たんが心配じゃないのかぁ?」
俺からしてみれば何らおかしい事はない。
だって紗奈だよ?
九つの戦場を生き抜いた【殺戮者】として大陸を震撼させた一人だよ?
「いや、この世界で紗奈をどうこうできる人間なんてそうそういない「ふざけんなッ!」うぉっ!」
美也子さんに怒鳴られ、少し怯んでしまう。
四方八方からこいつありえねぇって視線が、俺を突き刺す。
えっ? そんなにおかしいかな……もし、これが早紀だったら俺もめっちゃ心配するけど……紗奈だよ?
状況を飲み込めずにいると、美也子さんから胸ぐらを掴まれ美也子さんの顔の方へと引っ張られる。うん、近い。美也子さんは、今にも殺す勢いで俺を睨みつける。まさに鬼の形相とはこういう事をいうのだろう。
「いくら紗奈たんが強くても、高校生の女の子が一週間も音信不通なんだぞッ!? それを紗奈をどうこう出来る奴はいないだぁ? それでもお前は紗奈の彼氏かッ!」
「おっ! ついに彼氏と認めてくれるんですか?」
こんな事聞く雰囲気ではない事は分かっているが、
紗奈の親代わりである美也子さんはこと紗奈に関しては俺を害虫扱いしていたので、こうやって言ってくれて素直に嬉しかったのだ。
「うるせええええ! 認めるわけねええだろおおおおッ! そんな事言ってる場合かああああッ!」
「ちょっと、美也ちゃん落ち着いて!」
怒りのあまり顔中の血管がブチ切れそうなっている美也子さんを海さんが宥める。
「落ち着いていられるか! こいつはッ!」
「まぁまぁ、咲太君には咲太君なりの紗奈ちゃんに対する信頼があるんだよ。身一つでいくつもの戦場を共に生き抜いた彼らなりのさ」と優しく美也子さんを諭す。
「それと咲太君。君ほどではないけど、僕達も紗奈ちゃんの強さは理解しているつもりだよ。だけど、そんな紗奈ちゃん程の女の子が一週間も音信不通なんだ……仲間として心配する事は至極当然だと思わないか?」
全くその通りだ。【憑依者】をも軽く手玉に取る紗奈だからこそよっぽどじゃない限り音信不通になんてならないと思わないといけかったのだ。
それを俺は、みんなの事、何も考えていなかった。俺は一人じゃない、組織に属してるんだ。もっと周りを見るんだ、考えるんだ!
「すみませんでした……軽率でした」
俺は自分のアホさ加減に羞恥心を覚えつつ、美也子さん並びに六課のみんなに頭を下げる。
「次同じ事言ったら首だからな?」
「はい、肝に銘じます」
どうやら、許して貰えたらしい。
「では、気を取り直して状況を説明する。一週間前の夕方、紗奈たんはある組織を見つけるため銀座中央通りに向かってから連絡が途絶えた」
うん? 組織?
「事の発端は、二週間程前に売れないホストが――」
美也子さんが言うには、予備校帰りに寄ったファミレスで女の子達を食い物にしているホスト達の会話をたまたま聞いた紗奈がそこに介入して女の子を守った。そこで、ホストのリーダー格が女性を魅了する能力を持っていたとか。組織を探すべく、そのホストのリーダー格が接触したであろう占い師に会いに行ってから連絡が取れないという事だ。
「スキルって……あっちの世界じゃあるまし……それに、組織って?」
「なんだっけな……【ライド】だったかな? なぁ、恵美たん!」
美也子さんの呼び掛けに気怠そうに上半身を起こす東城さん。
「はぁ~めんどい。【イドラ】」
「うん? い…どら? イドラって、えっ? ええええぇッ!?」
東城さんが口にしたその三文字に俺は驚かずにはいられなかった。
【イドラ】って! そんな都合の良い名前はそうはないだろう。
「どうしたんだ? お前なんか知ってるのか?」
「いや、実は――」
俺は、詳細を省いて重要な部分だけを報告した。
「つまりあれか? 紗奈たんが追いかけていた【イドラ】が魔王を洗脳してこっちの世界を滅ぼすように仕掛けたという事か? それでお前はその【イドラ】をとっ捕まえて魔王に差し出さないといけないという事か?」
俺は頷く。
「でも、どうやって見つけるかじゃないっすか? ほら、恵美が数日掛けて探しても見つからないんだし」とポテトの箱を片手に真紀が会話に混じる。
「そこが問題だな……恵美たんでも探せないなら正直お手上げだ……」
いかん、蘇った雰囲気がまたもやお通夜モードに……あ、そうだ!
「探せるかもしれません」
「どうやってだ? まさか、お前紗奈たんに発信機なんぞつけてストーカー行為でもしてたとか言わないよな?」
「してないっすよ! どんな頭してるんすか!」
「あはは、課長じゃあるまいし。じゃあ、どうやって探すんだ咲太……って、すげぇドヤ顔」
「ふふふ、真紀君。俺には便利な友人がいてね。【イドラ】は異世界人だ。異世界人は、誰もが魔力の器を持っていて、それが生命の源となっているらしい。その魔力を探ればいいんじゃないかなと思って」
「魔力を探るなんて可能なのか?」
美也子さんは藁にも縋るといった様子だ。
「はい。ワタルなら可能です」
さっき別れたばかりではあるが、すまんがもう少しだけ付き合ってくれ。と心の中で田宮に謝罪しながらスマホを取り出した。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




