旅は道連れ
イトの町の中心地に位置する、レンガ造りの建物の一室。
薄暗い室内に二つの影が向かい合っていた。
「ただいま、グレイアス。いや~参ったよ~。ミイラ取りがミイラになるなんてね」
「お戯れを。お嬢をどうにか出来る者など、偉大なるあのお方しか存在しませぬ」
参ったという割にな陽気な少女の様な声に、野太い壮年の男の声が答える。
この会話の内容で二人の主従関係が分かる。
「そんな事ないよ~少なくとも二人……ふふふ、いや~世の中は広いね~人族であれほどの力を持っているなんて。カケルちゃん以来だよ」
「カケル殿ですか……懐かしい名前ですな」
「うん、不思議な子達だよ。そして、凄くいい子達。アー君に会いにこの大陸に来たんだって」
「何と!?」
「だから、少しの間あの子達と行動を共にしようと思う。あの子達だけだと、アー君に辿り着く前に門前払いになっちゃうからね。だから、留守を頼むよ」
「承知しました。お任せくだされ」
「うん。いつもありがとうね。あ、それと調べてほしい事があるんだ」
「何なりとお申し付けくだされ」
「レウィちゃん。レウィシア・トーレス・ルートリンゲンについて調べてほしいんだ」
「トーレス家の恥さらし……ですな?」
「何それ?」
「それは――」
男は、主の疑問を解消するべく、自分が持っている情報をすべて曝け出す。
「ふ~ん。凄くきな臭いね。影達を動かしていいから、徹底的に調べてね」
「承知いたしました」
「じゃあ、そろそろ反省会も終わっただろうし、ミーは戻るね」
そう言って部屋を出るララの頭上の鋭い二本の角は、徐々に猫耳へと変化していった。
◇
「やぁ~お待たせ! その様子だと反省会は終わったかな?」
ララは部屋のドアから室内を覗き込むような感じで、顔をひょっこり出している。
「あぁ、何とかな……」と俺が返すと、そのまま部屋のドアを全開にし室内に入ってくる。
「あはは、こってり絞られたみたいだね」
「まぁな。今回は俺が悪かったし」
今回の件は俺の軽率な行動によって引き起こされた事で、下手したら命を落としていた可能性もあった。
魔王に会う事もできず、母ちゃんや紗奈……残してきた人達を悲しませる事になっていた。
「よしよし、ちゃんと反省しているようだね? 大丈夫だぞ、サクタは聡いから同じ失敗はしないよ」
柔らかい口調で、ララは俺の頭を撫でる。
ララは、行動や言動は幼く見えるが、こんな時はすごく大人に感じる。
「君の用事は終わったのかい?」
ワタルは寝落ちしたレウィを寝室に移し、俺達がいる客間に戻ってくる。
「うん、色々と仕事を任せてきた」
「仕事を任せてきた? どういう意味だい?」
「ミーは、ユー達に付いて行く事にしたから」
ララは、舌をペロっと出して、頭をコトンと傾ける。
「いいのか?」
「うん、ユー達だけじゃ魔王に辿りつく前に門前払いになりそうだし」
「門前払い? なんで?」
頭に???を浮かべている俺とは対照的に、ワタルは、やっぱり?と言った様子だ。
「ワタルは、分かっていたみたいだね」
「まぁね。魔王といえばこの大陸全土を統べる者だからね。僕も、そこが一番ネックに感じていたんだ」
うん? どういう事?
「はぁ~。いいかいサクタ、もし君があっちの世界でアメリカの大統領に会いに行くと言ったら、簡単に会えるものなのかい?」
「あっちの世界? アメリカ?」とララは、訝しげな表情を浮かべオウム返しをしてくる。
「あぁ~無理だな。美也子さんに頼めば可能性はゼロではないが、こっちではそんな人脈はない」
「そう、それは僕も同じさ。だから、魔王の居城に辿り着いてもどうやって彼と対面できるかをずっと考えていたんだ」
ワタルが視線をララに向けると、俺もそれに釣られる。
「ララ、君には可能なのかい? 魔王と会う事が」
「うん、可能だよ。彼とは知己の仲なんだ」
ワタルは軽く頷き、再度俺に視線を戻す。
「サクタ、彼女のお陰で最大の関門は何とかなったよ」
「お前な……そんな事があるなら、一人で悩まず相談してくれよな?」
一人で悩んでいたワタルに、俺は少し腹が立ったのか、無意識で強めの口調になってしまう。
「ごめんね。君にはあんまり小難しい事を押し付けたくなかったんだ。次からは、ちゃんと相談するから」とワタルは苦笑いを浮かべる。
「分かった、絶対だからな? で、ララは俺達について来てくれるという事でいいか?」
「うん! 任せてよ! ミーがいれば百人力さ」
「そうか、ありがとうな!」
それから、レウィが目を醒ますまで、俺達はこれからのスケジュールについて話し合った。
魔王の居城は、バンカ―サイドという地域にあるらしく、このイトの町から飛竜に乗って丸一日掛かるらしい。
飛竜については、ララの飛竜を使う事になった。
これで大幅に時間短縮ができる。何から何までララには頭が上がらない。
日が傾きかけた頃、大体の話し合いが終わると、それを見計らったかの様にレウィが目を醒ます。
「あの、お腹が空きました……」と羞恥心によるものか、顔を赤くしているレウィにほっこりした俺達は、腹ペコさんを連れて宿の食堂で食事を取る事に。
勝手が分からないので、ララに全てお任せしたのが、流石というか料理は全て絶品で満足のいくものだった。
食事に舌鼓を打ちつつ、談話を交えながら有意義な時間を過ごす。
そして、食事を終え席を立とうとしたその時、宿の従業員がララにメモの様な物を渡し、それに目を通したララは一言「へぇ~これは面白くなりそうだね」と、ワクワクした様な表情を浮かべた。
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