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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第8章 はぐれた男

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種族の差

 ジリジリとバトルアクスを肩に掛けタムタムが間合いを詰めてくる。


「よくもタムタムの女にっ!! タムタムですらミミの毛先程も触れたことがねぇのに! 人族め、ぜってぇ許さねぇべ!」


 俺がミミの頭を撫でたのがよっぽど気に入らないらしい。

 

「誰がおめぇの女だべっ! ミミはおめぇの女になった覚えはねぇべ!」


 タムタムはミミの叱咤に顔を赤らめ「堪らねぇべ」と鼻息を荒くする。

 なんなんだこいつは、気持ち悪いなぁ。

 ミミが生理的に受け付けないのも頷ける。


「なぁ、ヤル気がないならさっさとここから消えてくれないか? こっちも暇じゃないんだ」


 俺は早く【イト】に向かい、ワタル達と合流をしないといけない。

 こんな所で、こんな変態に時間を取られる訳にはいかないんだ。


「人族風情がッ!?」

「サクタ……」


 ボキャブラリーの引出しが乏しい変態兎を無視して、俺は不安げな表情で俺の名を呟くミミの頭を再度優しく撫でる。


「心配するなって」

「はひゅっ……」


 またもや耳の付け根に手が当たった事で、ミミの口から可愛らしい声が漏れる。

 うん、これはクセになりそうだ。


「人族があああッ!!」


 タムタムが発狂状態で俺に向かってくる。

 そして、未だにミミの頭を撫でている俺の右腕にバトルアクスを振り下ろす!

 俺は降り下ろされるバトルアクスが俺の右腕に当たるか否かのタイミングで手を引っ込めると、タムタムのバトルアクスは、地面に突き刺さる。


「おいおい、あぶねぇな! ミミに当たったらどうすんだよ! ミミ、怪我はないか?」


 俺は地面に突き刺さったバトルアクスの背を踏みつけながら、引っ込めた手を戻し、ミミの頭を撫でる。


「また撫でたべ!」と、タムタムは怒りを露にするが、俺が踏みつけているバトルアクスを引っこ抜くのに必死だ。


 なんだろう、こいつ面白いな。

 村人を人質に取ったことは許されない事ではあるが、実際に誰かに危害を加えてはいない。

 まぁ、俺に対しては殺しに掛かってるけど……。

 アプローチの仕方は間違っているが、奴の行動は至極単純だ。

 “好きだから、俺の嫁になれ”

 この変態じゃなかったら、実に漢らしい口説き文句であると思う。

 まぁ、振られた時点でしつこく迫るのは女々しいとも言えるのだが。


「足をどけるべ! クソ人族!」


 少し悪戯がしたくなり、俺はタムタムのウサミミの付け根を撫でまくる。


「うひょっ、ひょひょひょひょひょおおおお」


 タムタムは身体をピーンと伸ばし、言い表す事が出来ない奇声を発している。

 なにこれ、超楽しい!

 俺はスピードを落とすことなく、ウサミミを撫で回す。


「よーしよしよしよし」

「ひょーひょっひょ、や、やめ、やめるんだべーーひょひょー」


 俺の所業に、ミミをはじめとする雪兎族も赤兎族も有り得ない物を見るかの様な視線を向ける。

 特に子供達には、「見てはいけません!」と大人が子供達の両目を塞ぐ。 

 

 タムタムは、両腕両足を繰り出し必死に抵抗を試みるが、俺は軽々とその全てを躱し、ウサミミの付け根を攻めまくる。


 ――ものの数分でタムタムは動かなくなった。


「ふっ、虚しい闘いだったぜ」


 自分でもよく分からない台詞を吐き捨て、ミミのいる方を振り向くと、雪兎族と赤兎族分け隔てなく、皆一様にゴミを見る様な表情を俺に向ける。


「えっ? なんだこの雰囲気は」

「サクタ……あれはいけねぇべ」とミミが俺を諭す様に呟く。

「何がいけないんだ? ごめん、俺、お前達の常識とかあまりよく分かってなくて……」

「はぁ~、人族にミミ達の常識を問いただしてもしかたねぇべ」

 いや、言えよ! 気になるじゃん!


「なんだべー、何か近づいてくるべー?」

 

 一件落着かと思いきや、突然、雪兎族の子供が空を指差し、皆の視線がそちらに向く。


「なんだありゃ?」


 こっちに向かって何かが近づいてくる。

 俺は鍛え抜かれた両目を凝らしてその飛行物体に照準を合わせる。

 その飛行物体は、巨大なコウモリの様な羽を背に生やした、土色の爬虫類だ。


「レッサードラゴンかぁ……」


 レッサードラゴン、ドラゴンの成り果て。

 ドラゴンというのは、よくある物語同様、この世界でも食物連鎖の頂点に君臨する。

 ただ、その頂点に君臨するドラゴンは一握りだ。

 その一握りに成れないのがレッサードラゴン。

 ハンターでSランクになるためには、単独でドラゴンを倒す必要があるのだが、そのドラゴンというのはレッサードラゴンを指す。

 ドラゴンというのは、滅多に人前に姿を現す事がない。というより、ドラゴンが現れるイコール国が滅ぶ、まさに災害と言えるため姿を現さない方が世のため人のためである。

 

 レッサードラゴンは大きなもので全長十メートルはある。まぁ、でかいと言えばでかい。

 だが、ドラゴンはその数倍はあるらしい。

 らしいというのは、俺も実際見た事がないからだ。

 というより、この世界の人間でも一生に一回遭遇するかどうかだからな。


「そ、そんな……」とミミは絶望的な顔をしている。


 そして、いつの間にかタムタムが起き上がっており、「女、子供を逃がせええ!」と必死に怒鳴り散らす。

 それにより、里の中はパニック状態に陥る。

 どこかに隠れないと! と誰もがあたふたしているが中々隠れる事ができない。


 そんな状況を嘲笑うかの様にレッサードラゴンは里の上空でぐるぐると廻る。

 そして、その背から人影が、飛び降りてくる。


 ストッ! と、軽やかな着地で。


 体つきからして男だろう。

 青い鱗の様な皮膚を纏い、顔をよく見るとそこはかとなく蜥蜴に見える。


「ぐははは、何て運がいいんだ! たまたま、通りかかった場所がペット共の隠れ家だったとはな!」

「ペット?」

「うん? 貴様人族か? 劣等種族の貴様と魔族の中でも最下位に位置する兎族……類は友を呼ぶとは良く言ったものだな、ぐあははははは」


 またそれか……。


「何がおかしいんだ? 蜥蜴野郎」


 俺の放った言葉に、空気がピシリと凍りつく。


「おい、おめぇなんて事を!」


 タムタムが滅茶苦茶焦ってる。


「うん? 何か可笑しい事を言ったか? 蜥蜴だろこいつ」

「違うべ! この方は青竜族の方だべ! 竜族は魔族の中でも上位種族だべ!」


 魔族の種族の中での序列というわけか。


「き、貴様っ! よくも俺様の事を蜥蜴扱いしやがったな!」

「いや、だって、蜥蜴っぽいじゃん」

「やめるんだべ! これ以上、そのお方を怒らしてはいけないべ! 青竜族の御方、この男の無礼はこの赤兎族の次期首長のタムタムが謝るべ! どうか怒りを収めるべ!」


 タムタムの必死な様子を蜥蜴は「ハン!」と鼻で笑い飛ばす。


「ダメだダメだダメだ、その愚かな人族は殺す。そして、お前達は皆奴隷商に売り渡す!」 


 皆の表情が絶望に変わる。


「ほう、そこの貴様は中々良い見た目をしているな、それに肉付きも……光栄に思え、貴様を俺様のペットにしてやろう」


 蜥蜴は下劣な笑みを浮かべ、舐め回すかの様にミミを見る。

 だが、すぐに蜥蜴の視線を遮るかの様にタムタムがミミを背に立つ。

 

「そんな事はさせねぇべッ!」

「タムタム……おめぇ……なんでだべ」

「おめぇ、それは当たり前だべ! 誰が好き好んで自分の惚れたおなごさ奴隷なんぞにさせるべかっ! おめぇも、里の皆もタムタムが守るべ!」

「タムタム……」


 なんだよこいつ、いい奴じゃん。

 アプローチの仕方は赤点物だけど、ミミに対する思いは本物だったか。


「ふん、貴様に何が出来る? 反抗的な奴隷はいらん、貴様はここで処分するとしよう」

「死んでたまるべかあああ!」 


 タムタムが蜥蜴との距離を詰め、バトルアクスを振り上げると、力と気合いの籠った一撃が蜥蜴に向けて振り下ろされる。


「とったべ!」


 タムタムは、自分が放った一撃に確かな手ごたえを感じるのだが、


「なんだ、その欠伸が出る様なショボい攻撃は?」と蜥蜴は軽々とその攻撃を避ける。


 己の会心の一撃がいとも簡単に躱された事に面喰らうが、それでも攻撃の手を止める事無く執拗にバトルアクスを振り回す。


 ――が、結果は同じ。


 その攻撃が蜥蜴に当たる、いや、掠る事すらなかった。


「くそっ、なんでだべ! なんで当たらねぇべ!」


 タムタムの顔に焦りと苛立ちが浮かぶ。

 こんなはずでは……勝てないとしても幾ばくかのダメージは与えられる。

 そう、タムタムは思っていたが、現実はあまりにも残酷だった。


「こ、これが種族の差だべか……どう足掻いても所詮タムタム達兎族は虐げられる存在だべか!」


 タムタムの絶望の叫びが木霊する。


「何を今さら、そんなもの当たり前だろ? 特に貴様らの様な下位の種族に、種族の壁を乗り越えるなんて事はできんのだよ。もう満足しただろ?」


 蜥蜴はタムタムを最大限に見下し、魔法を発動して槍を具現する。


 そして、その槍を構え一言だけ「死ね」と発し、タムタムにその鋭利な矛先を突き出す。


 タムタムは、もう自分は助からないと思ったのか、ミミに向かい「ミミ! 愛してるべ!」と愛を叫ぶ。


 タムタムは、今まで散々嫁になれとミミに付き纏っていたのだが、ミミに向けて愛してると言ったのは初めての事だった。


「タムタム! いやだべ!」と、ミミは大粒の涙を流し、タムタムの元に駆け寄ろうとするのだが、里の者達によって止められる。


 そんなミミの姿を見て、タムタムは満足そうな顔をしていた。

 そして、眼前に迫ってくる矛先に覚悟を決め、目を瞑る。


「(―――――――――――あれ? 痛みが全然こないべ……)」


 おかしいと思ったのか、タムタムは恐る恐る目を開く。


「ぬぁッ!?」

「なーに諦めてんだ? 告白したんだからちゃんと返事を聞いてあげないとダメだろ? 勝手に告って、勝手に死んだら、残された者はどうするんだよ?」

「お、おめぇ、なんで……?」


 タムタムが驚くのも無理はないだろう。

 眼前に迫っていた蜥蜴の矛先を、俺が素手で掴んで止めているからだ。


「ミミには助けられたからな、借りた恩は返せる内に返さないとな!」

「な、何を……」


「種族の差なんて下らねぇっ固定観念だって事を、この最弱の人族様が見せてやるよ!」

いつも読んでいただき、誠にありがとうございます!


ブックマーク、評価などしていただけましたらやる気MAXになりますので、何卒宜しくお願い致します。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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[気になる点]  しまった!  あと1・2話更新を待ってから読めばよかったorz  これでは続きが気になって、今から寝るのに寝られなくなるじゃないか!(火暴)           ↑  寝られなくなる…
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