紗奈の夏休み ③
終わらなかった……
紗奈のパート、後1話だけ書かせてください!
「おっせーな! どんだけ掛かってんだよ?」
黒髪のホストは、苛立っているのか貧乏揺すりをしながらつばささんを睨みつけます。
「ご、ごめんなさい……偶然友達と会って」
「あぁん? 友達?」
アタシはタイミングを見計らって、つばささんの背後からひょいっと顔を出します。
「どうも~つばさっちの友達の紗奈でーす」
「おぉ~めっちゃかわいーじゃん! 俺、十字ってかいてクロスっていうんだ~よろしくね、紗奈ちん!」と金髪のホストがノリノリな感じで自己紹介をしてきます。ていうか、十字って……まぁ、ここはノッておきましょう。
「こちらこそよっろしく~クロスっち!」
「ノリいいね~紗奈ちん!」
いえーい! とクロスとハイタッチをします。
「少し黙ってろクロス!」
陽気なクロスとは正反対に、黒髪のホストはアタシを警戒している様子です。
「紗奈って言ったな? お前何者だ」
まぁ、これから陥れようとしているつばささんの前に偶然自分の知らない人物が現れたら、それは警戒しますよね。
「え~っと、つばさっちの友達ですよー」
「いいじゃん、瑠偉。こんな小動物みたいな紗奈っちに警戒する必要ある?」
なぜか、クロスが助け船を出してくれます。
「アタシなんか不味かった?」
「いいのーいいのー紗奈ちんは気にしなくて!」
「はぁ~もういい。そろそろ行くぞ、零夜さんが待ってる」
と、黒髪のホスト、瑠偉はため息を吐きその場から立ち上がります。
「アタシも一緒に行ってもいい~? 前から興味あったんだよねーホストクラブ」
「いいよ~紗奈ちん。一緒にいこーよ」
「おま、何勝手に言ってんだよ!」
「えぇ~いいじゃん。紗奈ちんみたいなかわいーお客さんに来て欲しいし~」
「ちっ、零夜さんに確認してみる」
そう言って、瑠偉はスマホを取り出し席から離れます。
「大丈夫だから、俺っちが絶対楽しませてあげるからね!」
正直、この種の男の人は生理的に受け付けないのですが、ここは我慢して愛想笑いだけでも返しましょう。
それにしてもこのクロスっていう男、つばささんがお金を用意出来なかったら店ではなく別の場所に連れて行く事を知っているはずですのに……あ、戻ってきました。
「零夜さんからオッケーもらったから、紗奈だっけ? お前も来たいならついてきな」
「やったねー紗奈っち!」
いえーい! と二度目のハイタッチを交わします。
「紗奈ちゃん、本当に大丈夫?」と耳打ちをするつばささんは、未だに心配そうな顔を向けるのですがアタシは何も口にせず、笑顔で返します。
ファミレスを出て歌舞伎町の方へと歩く事数分、瑠偉に連れられたアタシ達は人気の少ない裏路地へと進んでいきます。
「あ、あの、お店こっちじゃないですよね?」
店の場所を知っているつばささんは、訝しむ様に瑠偉に問うと、「零夜さん、店とは別の所にいるんだよ。黙ってついてきてくんねーかな? 零夜さんに会いたいんだろ?」
「はい……」
会話が途切れたと同時、二人組の男達がこちらに向かってきます。
明らかに一般人とは思えない強面の男達に気付いた瑠偉は「お疲れ様っす」と会釈をします。
「おう、その子達が今日の客か?」
「はい、この間と同じ部屋でいいっすよね?」
「おう、早く行け。零夜さんが待ってる」
そう言って男の一人が親指を背後に向けその場から歩き出します。
「さぁ、いくぞ」
アタシ達は、言われるがまま路地裏の更に奥へと進んで行きました。
◇
歌舞伎町内に店を構えている趣のある寿司屋。
お店自体はこじんまりとしているが、年季のある店構えからは高級感が漂う。
そんな寿司屋【寿司 健】の店内から、坊主頭の大柄な男がガラガラと横開きのドアを開け暖簾を掛ける。
「おい、ケン! 空瓶外に出してこい!」
「分かったよ、じっちゃん」
「てめぇ、店ではじっちゃんじゃなくて親方と呼べと言っただろう!」
「そうだった、わりぃ親方!」
「ふん! さっさと行ってこい!」
男は、空瓶入っているケースを持ち上げそのまま裏口のごみ置き場に向かう。
「ふぅ~こっちに来てもう二ヶ月か……早く俺も寿司握ってみたいな」
ケンと呼ばれた男は、二ヶ月前に自分の祖父である親方に頼み込んで弟子入りした。
まだ見習いのため、お客さんの前に立たせてもらう事は出来ず雑用をこなす毎日に不安を抱いている。もっと早く、祖父に弟子入りしていれば今頃は……と後悔の念が一瞬頭を過るが、ぶんぶんと雑念を振り払う。
「ずっとフラフラしてた俺が悪い! あいつに出会わなかったら俺はまだ王様気取りで遊びまわってたろうな……よし!」
ケンが気合を入れ店に戻ろうしたその時、ガラの悪そうな男二人組が目の前を過る。
「おい、今日の獲物の片割れ可愛くなかったか?」
「元々のターゲットの友達らしい、馬鹿だよな。これから自分達がどんな目に合うかも知らずに」
「俺、やっぱり戻るわ! あんな上玉とやれる機会なんて早々ねぇだろ?」
「ぷっ、お前もとうとう男優デビューか?」
「バーカ、撮影終わった後にやらせてもらうんだよ! いつもの様にな! ぎゃははは」
「まったく、零夜様々だぜ。やつが仕切る様になってから、バンバン金が入ってくるんだからよ~」
「自分の客に返し切れないツケを作らせて、顔が良ければAV、そうでなかったら風俗に放り込む。鬼畜だよな~」
ケンは、男達に近づく。
「おい、何だ今の話は?」
「あぁん? 何だてめぇ」
急に話に割り込んできたケンに男は凄むのだが、ケンは全く気にせず
「もう一回聞く、今の話はなんだって言ったんだ」
「はぁ? おめぇ、頭沸いてんじゃねーのか?」
もう一人の男がケンの胸ぐらを掴むのだが、ケンは気にせず男の腕を力士の様な大きく分厚い手で掴み力を込める。
「いてててててて」
「てめぇ、なにしやがんだ! その手を離しやがれ! あぐっ!」
ケンは殴りかかって来そうなもう一人男をアイアンクロウで応対する。
「いぎゃああああ」
「おいおい、でっかい図体してだせぇ声出してんじゃねよ。それで、もう一回聞く、これで最後だからな? 答えなかったら、このままお前らの骨握りつぶすからな?」
男達は泣きそうな顔で首をぶんぶん振る。
「それで? さっきの話はなんだ?」
「いででで、言うから! 言いますから!」
男達が、これから起きる事をケンに説明すると――
「てめぇら、何だせぇ事してんだ!」
「「ひぃ!!」」
「今から、俺をその場所に連れていけ!」
「「はひっ!!」」
男達を連れて、その場を去ろうとするケンの背後から店の裏口が開く音と同時に、祖父の怒鳴り声が響く。
「おい、ケン! てめぇ、店放ってどこに行くつもりだ!」
「わりぃ、じっちゃん! だせぇ事してる奴らの所為で不幸になりそうな女の子達がいるんだ。ちょっと行ってくる」
祖父と孫の睨み合いが続く
「ちっ、親方って呼べっていったろうが! 負けて帰ってくんじゃねぇぞ!?」と早々に店に戻る親方の背中を嬉しそうな顔で眺める。
「おう、行ってくるぜ親方! おら! 早く連れてけ!」
「いてっ!」
男達の尻を蹴り上げ、ケンは路地裏の奥へと進んで行った。
いつも読んでいただき、誠にありがとうございます!
次話は5/10(日)21時頃に更新いたします。
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