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64 夢の中まで!?1

シェリル視点

 私はたまに来る病気療養という名のベッド生活を送っていた。


「はぁ……いつになっても好きになれないなぁ……」

「何がです?」

「ベッド生活」

「それ、誰も好きになれませんよ」

「たまに、少しの期間なら好きっていう人もいますよ。その時くらいしか親が気にかけてくれなかったりしますから」

「なるほどね」


 たまになら良い事もあるのか。


「まぁ……今回は明日には良くなるのではないでしょうか。熱も順調に下がっている様ですし」

「それより。若と会わなくてよろしいのですか?」

「うん。今は仕事に集中して欲しいし」


 実は今、ヘインズ侯爵領の城下町ではタチの悪い病気が流行っているという。

 私は幸いそうではなかったのだけれど、念のために私との接触を控えてもらっているのだ。


「水の防御壁を張れば問題ないと思いますけど」

「うん。そうなんだけど、トミーに頼まれたんだ」

「トミーに?」


 『若がまたすぐサボる癖がついてしまって……』っというので風邪ひいている間は面会謝絶にしたのだ。


「なら仕方ないですね」

「自業自得です」

「若が来ても追い返しますね」


 そういえば侍女三人がいない隙にトミーが来て、面会謝絶って事にしたんだっけ。

 面会謝絶は言っておいたけれど、理由はうっかり伝えるの忘れてたなぁ。


 まぁ、私も熱で寝てたし……仕方ないよね!


 だからなのか、また夢にフィランダーが出てきてしまったのだ。











 起きると私は今まで見た事がないくらい豪勢なベッドの上にいた。


「え……ここ、どこ?」


 すると侍女のネルとセリーナが入ってきた。


「「おはようございます。シェリル様」」

「おはよう。あの……ここはどこ?」

「は? ……王城の……姫様の寝室……です」


 ん?

 王城?

 姫様?


「姫様ってどういう事!?」

「どういう事って……姫様は姫様ですよ。第二王女様なのですから」


 は? 第二王女!?


 その時、頭に痛みが走った。


 痛っ!

 あ、私はこの国の第二王女で一番末っ子で一番キレイじゃない王女だ!


 どうして都合よく記憶が戻るんだろ?

 ……夢、だからかもね。うん。






 朝の身支度を済ませると、朝食が運ばれてきた。


 よかった。なぜか家族と食べるのが嫌って思っちゃったんだよね。


 そう思うとまた頭が少し痛んだ。


 ……そうだった。

 第一王女がいつも私に嫌がらせをしてきたり、嫌味を言ったりされてるんだった。


 それなら自分の部屋で朝食を食べた方がいいもんね。


 朝食を食べると、なぜかヘインズ家の料理長のニールの作ったものと同じ味がした。






 食事も終わり一息つくと、護衛騎士が部屋へと入ってきた。


「おはようございます、姫」


 そう言って入ってきたのはフィランダーだった。


「ルースじゃない……」

「ルースは侍女ですよ」

「今日はお休みをいただいておりますけれど」

「今日のシェリル様は少し記憶が曖昧になっている様でして……」


 少し思い出したけれど全部はまだだ。

 まさか護衛騎士がフィランダーだと思わなかった。


 あれ?

 これ、もしかして……フィランダーの夢の中!?


「今日は初めての訪問先だし、何とかなるんじゃないか?」

「それもそうですね」


 ん〜、まだそうとは限らないか。






 今日は午前中に王都の孤児院へ訪問する予定なのだそう。

 孤児院訪問ならよく行っていた様だけれど、今回の訪問先は行くのが初めて。


「どうして今まで行かなかったの?」

「治安が悪くてなかなか訪問が叶わない場所だったのです。最近改善されましたので、ようやく王族が訪問できるほど治安が良くなったとアピールするのが姫様の仕事です」

「なるほどね。今日持っていく品物はどこ?」

「ご安心を。我々の方で責任を持って管理しております」

「そう。それまでに着替えなきゃね」


 今着ているのは普段用のドレス。

 訪問する時は訪問着に着替えなければならないのだ。


「ゆっくりで結構ですよ。時間は取りましたので」

「ありがとう。では私は着替えるわ。ネル、セリーナ。お願い」

「「かしこまりました」」






 訪問着に着替え支度を整えると、フィランダーを従え馬車へと向かう。

 しかしすんなりとは行かなかった。


「あら。みすぼらしいのが歩いているわ。ここをどこだ思っているのかしら?」


 そう言って道を塞いだのは第一王女のイーディスだった。


 え、イーディス様って……フィランダーの妹なんじゃ……どうなってるの?


「私も一応王族ですわ。公務があるので急ぎたいのですけれど」

「『一応』でしょう? それより、フィランダー。どうして私の騎士になってくれないの?」

「シェリル様が良いからに決まっております。さぁ、シェリル様、参りましょう」


 イーディス様とその従者達を押しのけて、フィランダーは道を作る。


 何だろうなぁ。

 普通は不敬って言われるところだけれど、夢だからかな。

 これが許されるの。






 第一王女は悔しそうにこちらを見たが、すぐにニヤリとした笑みを浮かべた。


 あ、これ、何かやったな?


 馬車に着くと、荷物が入っていた馬車が荒らされていた。

 子ども達へのお土産クッキーは粉々に砕かれ、馬車自体も車体がボコボコになっていた。


「さぁて。どうしましょうか」

「ご安心を」


 フィランダーが幕を取ると、中から馬車が二台も現れた。


「ボコボコの馬車はダミーです。クッキーは料理長に頼んで別の料理として提供してもらいましょう。そもそものお土産は服、毛布、布、糸、裁縫道具ですので問題ありません」

「馬車は?」

「これはもうそろそろ交換予定だったものです。これならすんなり廃棄に回されるでしょうね」


 なるほど、抜かりないな。






 馬車で孤児院に向かうと、思っていた以上に歓迎された。


「「「第二王女殿下、ようこそおいでくださいました」」」


 子ども達の可愛い声に私も思わず口角が上がる。


「皆様。お出迎え、ありがとう」

「ようこそ、殿下。狭いところですが、どうぞ」


 中へ入ると、少し軋む音が響く。






 まず、応接室に通されると、お土産を渡した。


「食べ物じゃなくて申し訳ないのだけれど、受け取ってもらえるかしら?」

「まあまあまあ! 本当に助かります。……色々足りなくて……ありがとうございます」


 心から喜んでもらえて幸いだった。

 子ども達はお菓子がなくて少しがっかりした様だけれど、服は喜んでくれた。


 孤児院訪問は成功だった様で、その後お礼の手紙まで届いた。


 今度は建物をどうにかしないと。






 孤児院から戻ったその日の夕食のデザートはタルトだった。

 土台には粉々に砕いたクッキーが使われている。


「ん〜。おいしいわ。お礼、言っておいてね」

「はい。シェリル様」


 護衛騎士がフィランダーだからベタベタしてくると思っていたけれど、真面目に仕事をしているだけだった。


 正直今の方が好感度が高いなぁと思ってしまったのは言うまでもない。





本来なら第一王女はチェルシー・スタートレット公爵令嬢の予定でした。

しかしシェリルは会った事がない事に気づき、イーディスになりました。

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