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16 ユーインの休日と子ども達1

今回はユーインの休日とランドル視点の回です。

なかなかユーインにスポットが当たらなかったので書いてみました。

ただユーインだけでは話の盛り上がりに欠けたのでランドル視点も追加しました。



簡易登場人物紹介


・ユーイン……ヘインズ領の邸の副執事長。28歳。ネルの夫。


・ランドル……ヘインズ領の邸の見習い執事。9歳のシランキオ人。ルシールの兄。第6章で事件に巻き込まれた末、使用人に。


・バーナビー……ヘインズ領の邸の庭師長。30歳。セリーナの夫。元S級冒険者


・ヴィンス……ヘインズ領の邸の庭師。31歳の新人。第6章で使用人になる。


・ルシール……ヘインズ領の邸の見習い侍女。7歳のシランキオ人。ランドルの妹。第6章で事件に巻き込まれた末、使用人に。


・シェリル・ヘインズ……『前溺』の主人公。元アストリー伯爵令嬢。18歳。


・フィランダー・ヘインズ……シェリルの夫。25歳。遊び人令息と呼ばれている。


・ネル……シェリルの侍女。23歳。侍女長の娘。オペラと恋愛小説が好き。


・ドウェイン……ヘインズ領の魔道具ギルド支部長。フィランダーの魔道具の師匠。


主にランドル視点→ユーイン視点の繰り返し。



 ここはヘインズ領のヘインズ邸。

 その廊下には黒髪黒目の少年が手紙を持って歩いていた。

 九歳のランドルは今、ヘインズ邸の執事見習いとして働いている。

 いつも通り副執事長であるユーインの部屋に着くとノックをした。

 するといつもと違う声が返ってきた。

 恐る恐るドアを開けるとそこには庭師のバーナビーが机に腰をかけて書類を見ていた。


「……失礼します。手紙を届けに参りました」

「おぅ。そこに置いといてくれ」


 ランドルは指示されたところに手紙を置くとバーナビーに質問した。


「あの……どうしてここに?」

「ん? あぁ。今日は代理が俺しかいなかったんだよ。ユーインは今日休みだからな」

「あ。そうだったのですか。……あまり休まれたところを見た事がないので驚きました」

「確かにな。あいつほぼ無休に近いから」

「えっ。そうだったのですか?」

「今は若もいねぇからな」


 若様は現在王都だ。

 ユーインの負担が重くなるのも分からなくはない。


「……ユーインさんて、休日は何してるんでしょう?」

「興味あるのか?」

「想像がつかないので。……部屋で本を読んでいる印象くらいしか」

「ハハッ。確かに。今日は昔なじみのところに行ってるよ」

「お友達ですか?」

「ブハッ。……そうだな。そんなところだ」

「だったら今日は帰りが遅くなりそうですね」

「ん。何でだ?」

「だって大人はお酒が飲めるではありませんか。夜まで飲み明かすのでしょう?」

「さぁな。……まぁそうなる可能性もあるか」


 煮え切らない答えにランドルの頭にはクエッションマークが浮いていた。











 時間は少し前に遡る。

 ユーインは通常ならこの時間仕事に励んでいる時だ。

 しかし今日は休日。

 なので街へ行く支度をする。


 いつも整えられているオレンジの髪はボサボサに。

 そして切れ長の黒い目を前髪で隠す。

 服は平民が着る様な楽な服にローブを羽織る。

 その姿はユーインとは気づかれないくらい普段の彼とはかけ離れていた。


 ヘインズ邸の裏口から城下町へと向かうと、以前よりも空気が穏やかだった。

 シェリルが来てからこの街は変わった。

 ユーインはこの街へ来てからこんな空気は味わった事がない。

 領民達の楽しそうな様子を見て自然にうっすら口角が上がった。


 また歩き出すとどんどん人気のない方向へと向かう。

 すると例の孤児院が見えてきた。

 ここは違法に孤児達を奴隷商に売っていた教会関係者がいたところだ。

 現在は関係者が一新され孤児達が安心して暮らしている。

 前を通ると子ども達の楽しそうな声が聞こえてきた。

 ここもシェリルによって救われたところだ。


 孤児院を通り過ぎるとユーインはローブのフードを被った。

 進む先にあるのはスラム街だ。

 一歩入ると先ほどとは雰囲気が変わる。

 何も感じない者もいるだろうが裏の世界を知る者にはピリッとした緊張感がただよっていた。






 路地に入り奥へ進むと前から男が歩いてきた。

 その男はすれ違い様にユーインの顔に向かって拳を振り上げる。

 しかし拳は空振りユーインはその場から消えてきた。


「えっ……がっ!」


 男が声を発した瞬間、ユーインが男の顔を手で覆い壁に押さえつけた。


「油断するな。いかなる時も冷静に対処しろ」

「……テメェ」

「ユーイン!」


 進もうとした先から声がしたので振り向くとそこには大柄の男が立っていた。


「若い奴がすまん。まだ覚えていなくてな」

「え?」


 押さえつけられている男が呆然としているとユーインはそのまま話を続けた。


「甘いが骨はありそうだ。俺の気配に気づいたみたいだしな」

「……とりあえず離してやってくれないか?」


 ようやく離された男はゴホゴホと咳き込んだ。


「こいつはユーイン。ヘインズ邸の執事だ」

「きっ貴族っすか?」

「に、使えている男だ。昔この辺のガキを仕切っていたのはこいつだぞ。『閃光』って聞いた事があるだろ」

「あ」

「……それはやめろ。ユーインでいい」

「いいじゃねーか。スラム街の『閃光』ってこの辺りじゃ英雄に近いんだから」


 自分の恥ずべき歴史が語られているのを知りユーインは切れそうになった。


「もう言うなって言ってんだろ?」

「わっ……悪りぃ。俺も良い話を知らなくてだな」


 仕方がない事だがこればかりはやめてほしい。


 とりあえず若い男はその場に留まり、ユーインは昔なじみに連れられてさらに奥へと進んで行った。











 ところ変わってヘインズ邸では昼食の時間になり使用人様の食堂に集まっていた。


「へぇ。ユーインさん休みなんだ」


 そう言ったのはランドルと同年代の騎士見習いの少年だった。


「何してるんだろうな」

「俺は部屋で本読んでるしか浮かばなかった」

「それ分かる。俺もそれ以外浮かばないな。ランドルは休みの日は何やってんの?」

「俺は……本読んだり屋台に食べに行ったり」

「屋台な。ここのうまいもんな。孤児院にいた時もそれなりだと思ったけど、焼きたてにはかなわないな」

「そっちは何やってるの?」

「俺も屋台に行ったりしてるよ。でもいつか自分の剣が欲しいからな。中には入らないけど武器屋の外に飾られてる剣とか見に行ってる」

「あぁ。いいね」

「ランドルはさ。魔道具とか見に行かないの?」

「魔道具?」

「うん。最近分かったらしいんだけどさ。魔力がなくても使えるらしい」

「え、本当?」

「だから今度一緒に行かね?」

「行く」


 するとランドルのポケットにいた妖精が顔を出した。

 オレンジと名付けた妖精でケープを着た可愛らしい男の子だ。

 ケープの留め具がオレンジのバラなところがポイントらしい。


『ランドルには僕がいるじゃん。だから必要ないよ』

「お。オレンジが出てきた。何言ってるの?」

「オレンジがいるから必要ないって」

「ま、確かにな。でも複数の敵がいたら対処できないだろ?」


 するとムッとした顔になった。


「オレンジ。オレンジがいてくれるから助かるけど、俺も少しは戦いたいな。だからオレンジが許可した魔道具なら買ってもいい?」

『……しょーがないなぁ。いいのがあったらね』

「おっ。許可取れた?」

「うん。いいのがあったらいいって」

「楽しみだな。あ、ルシールも誘う?」

「いいのか?」

「ルシールこそ必要だろ。今いないけど……」

「あー今日は遅いって言ってたから後で誘っとく」

「分かった。俺の方でも何人かに声かけてみる」

「そうなると引率してくれる人がいないとまずくない?」

「そっか。……指導してくれる先輩に聞いてみるよ」

「あ。ヴィンスさんはどうかな?」

「いいかも。聞いといて」


 食事が終わると騎士見習いの少年は演習場へ。

 ランドルはやる事がないのでヴィンスの元へ向かった。






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