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痴漢冤罪で裏切られた俺、家の力で復讐へ。〜お前ら全員、法と技術で地獄に堕とす〜  作者: ledled


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5/12

王様の椅子と、崩壊の序曲(黒瀬玲司 視点)

俺、黒瀬玲司の世界は、いつだって俺を中心に回っていた。

恵まれた容姿、サッカー部でのエースという立場、そしてそこそこの会社の社長である親父の威光。それらがあれば、欲しいものは大抵手に入ったし、邪魔な人間は簡単に排除できた。クラスという小さな王国で、俺は紛れもない王様だった。


だから、天羽奏という男が、どうしようもなく気に食わなかった。

特に目立つわけでもなく、いつも静かに本を読んでいるような退屈な男。そんな奴が、クラスで一番可愛い花咲蕾と付き合っている。それが、俺の築き上げた世界の秩序を乱す、不快なバグのように思えた。蕾は俺の隣にこそ相応しい。俺という王様の隣に立つべきクイーンなのだ。


「優しさ」?「安心感」?

そんなものは、力のない負け犬が自分を慰めるための言い訳だ。女が本当に求めているのは、分かりやすい強さと情熱に決まっている。天羽のあの腑抜けた顔を見ているだけで、苛立ちが募った。


だから、計画した。

少し悪知恵の働く仲間と、金で動く女を使えば、あんな奴を社会的に抹殺することなど容易い。満員電車で実行したのは、誰が本当の犯人かなんて分かりようがないからだ。俺が「見た」と言えば、それが真実になる。この教室キングダムでは、俺の言葉が法なのだから。


計画は完璧に成功した。

痴漢のレッテルを貼られた天羽は、あっという間にクラスの除け者になった。俺が少し焚きつければ、愚かなクラスメイトたちは喜んでいじめに加担した。皆、強い者に従い、弱い者を叩くのが好きなのだ。俺は「痴漢から蕾を守ったヒーロー」として、さらに株を上げた。すべてが、最高に愉快だった。


そして、俺の狙い通り、蕾は傷つき、俺に寄りかかってきた。


「もう無理だよ……奏くんのこと、信じられない……」


そう言って俺の胸で泣く彼女を抱きしめながら、俺は勝利を確信した。天羽が大切にしていた宝物は、今、この俺の腕の中にある。


雨が降る放課後、校舎の裏で蕾にキスをした時、全身を駆け巡ったのは、純粋な征服感だった。濡れた唇の感触、俺の腕の中で震える彼女の身体。これでようやく、すべてのピースが正しい場所に収まった。天羽奏という不快なバグは、完全にデリートされたのだ。


「俺が、蕾ちゃんを守るから」


そう囁くと、彼女はこくりと頷いた。ああ、なんて可愛いんだろう。やっぱり、お前は俺の隣が一番似合う。


その後の数日、天羽は学校に来なくなった。

「ビビって逃げたんだろ、ダッセェの」

仲間たちと笑い合い、俺はもう天羽のことなど意識から消し去ろうとしていた。終わった人間のことなど、どうでもいい。


異変の最初の兆候は、本当に突然やってきた。

朝のホームルームが終わった直後、教室のドアが開き、スーツを着た男女が数人、厳しい顔つきで入ってきたのだ。校長と教頭が、見たこともないほど萎縮してその後ろに続いている。


「文部科学省の者です。二年三組担任、安井誠先生ですね?」


中心に立つ男の言葉に、安井は「は、はい?」と間の抜けた声を上げた。何が何だか分からないという顔をしている。俺も、クラスの奴らも、ただ呆然とその光景を見ていた。


「あなたには、生徒間の重大ないじめ事案に対する監督責任の放棄、及び隠蔽の疑いがあります。詳しいお話を伺いますので、こちらへ」


有無を言わさぬ口調。安井は顔面蒼白になり、まるで罪人のように連行されていった。教室が、ありえないほどの静寂に包まれる。「いじめ」という言葉に、何人かのクラスメイトがびくりと肩を震わせた。俺は、胸の中に小さな、しかし冷たい棘が刺さったような不快感を覚えた。

なんだ?何が起きている?


その日の夕方。家に帰ってテレビをつけた俺は、我が目を疑った。

『悪質な高校生グループによる計画的痴漢冤罪事件』

そんなテロップと共に、ニュースキャスターが深刻な顔で原稿を読んでいる。画面に映し出されたのは、俺たちが電車で計画を実行している瞬間の、信じられないほど鮮明な防犯カメラの映像だった。俺が被害者役の女と目配せしている顔まで、はっきりと分かる。


さらに、俺と仲間がスマホでやり取りしたメッセージが、そのまま画面に映し出された。


『天羽マジうぜぇから、これで完全に終わらせてやる』

『蕾ちゃんは俺がいただくわw』


血の気が引いた。背筋が凍りつく。ありえない。こんなこと、あるはずがない。削除したはずのデータだ。画質の悪い防犯カメラのはずだ。なぜ、こんなものが。


その瞬間から、俺のスマホが狂ったように鳴り始めた。SNSには、俺の顔写真と実名が晒され、『死ね』『クズ』『人間のゴミ』という罵詈雑言の嵐が吹き荒れていた。非通知の着信が、一秒おきに画面を震わせる。恐怖で身体が動かなかった。


「玲司ッ!!」


親父が、鬼のような形相でリビングに飛び込んできた。


「お前、一体何をしたんだ!取引先から、一斉に契約を切るって連絡が来てるんだぞ!メインバンクからも融資の停止を言い渡された!会社が……会社が潰れる!」


親父の悲鳴のような声を聞きながら、俺はただ震えていた。

その時、玄関のインターホンが鳴った。モニターに映っていたのは、制服を着た警察官の姿だった。


ああ、終わった。

すべて、終わったんだ。


パトカーの後部座席に乗せられ、ゆっくりと遠ざかっていく自宅を眺めながら、俺の頭は混乱の極みにあった。

何がいけなかった?どこで間違えた?計画は完璧だったはずだ。


その時、脳裏にふと、天羽奏のあの静かな顔が浮かんだ。

いつも穏やかで、何を考えているか分からないような、あの顔。俺はそれを「弱さ」だと、「つまらなさ」だと見下していた。だが、もし違ったら?もし、あれが、俺のような矮小な存在など気にも留めない、圧倒的な強者の持つ「余裕」だったとしたら?


パトカーの窓から、一台の黒塗りの車が通り過ぎるのが見えた。後部座席に座っていたのは、白髪の老人だった。一瞬だけ目が合った気がした。その老人の瞳は、まるで深淵のように深く、俺の魂の底まで見透かすような、絶対的な威厳に満ちていた。

俺は、自分が誰に手を出してしまったのかを、その時、ようやく理解した。


冷たいコンクリートの壁に囲まれた、狭い部屋。

鉄格子の嵌った窓から見える空は、どこまでも灰色だった。

俺は、たった一つの椅子を奪おうとしただけだ。俺にこそ相応しい、王様の隣にあるべきクイーンの椅子を。そのために、邪魔な男を排除しようとした。ただ、それだけだったのに。


なぜ、俺の人生は、すべて破壊されてしまったんだ?


天羽奏。

あいつは、王様なんかじゃなかった。

王様を、国ごと、世界ごと、指先一つで消し去ることができる、神様のような存在だったんだ。

俺は、神様に喧嘩を売った、愚かな虫けらだったのだ。


後悔、というにはあまりにも重すぎる絶望が、俺の全身を支配する。もし、あの時、あいつに手を出さなければ。もし、あの時、蕾に関わらなければ。意味のない「もし」が、頭の中でぐるぐると回り続ける。


だが、もう遅い。

俺の王国は崩壊し、王様だった俺は、今や地の底以下の囚人だ。

あの静かな男の顔が、嘲笑うかのように瞼の裏に焼き付いて、離れない。

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