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痴漢冤罪で裏切られた俺、家の力で復讐へ。〜お前ら全員、法と技術で地獄に堕とす〜  作者: ledled


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CEOの決断と、父の無言(天羽征士 視点)

私の名前は天羽征士。

IT企業「アマテラス・システムズ」の創業者であり、CEOを務めている。世間では、日本の情報インフラを裏から支えるだとか、サイバー空間の王だとか、好き勝手なことを言われているが、私自身に言わせれば、単なる仕事だ。ロジックとデータに基づき、最適解を導き出し、実行する。感情を挟む余地のない、0と1の世界。それが、私の戦場であり、日常だった。


家庭においても、私はあまり感情を表に出す方ではない。妻の詩織のように言葉で愛情を示すのは苦手だし、父の宗一郎のように孫をあからさまに可愛がることもできない。息子の奏には、父親として不甲斐ないと思われているかもしれない。だが、奏が誰よりも優しく、思慮深い人間に育ってくれたことは、私の密かな誇りだった。彼が天羽家の力を嫌い、「普通」でありたいと願った時も、私は反対しなかった。それが、彼が導き出した「最適解」なのだと思ったからだ。


だから、あの日、奏が全てを失った顔で帰ってきた時。

私の頭の中では、すべての思考が一度フリーズした。

ずぶ濡れの身体、虚ろな目、そして、堰を切ったような嗚咽。妻に抱きかかえられながら、彼が語った言葉の断片――冤罪、いじめ、裏切り。

その一つ一つが、私の脳内のシステムに、致命的なエラーとして認識されていく。


『エラー:最重要保護対象『天羽奏』に重大な損害を確認』

『原因:外部からの悪意ある攻撃』

『脅威レベル:最大』


私の心は、常に冷静でなければならない。CEOとして、数万人の社員とその家族の生活を背負っているのだから。しかし、その時、私の内部で燃え上がったのは、CEOとしての冷静な判断力などではなかった。ただ、純粋な、一人の父親としての、静かで、底なしの怒りだった。


妻が「法の下で正義を執行します」と宣言した時、私は無言でスマートフォンを手に取った。彼女の戦場が「法廷」であるならば、私の戦場は「デジタル空間」だ。


『――ああ、私だ。社の全部門に通達。最優先事項だ。サイバーセキュリティ部、データ解析部、特に優秀なホワイトハッカーを今すぐ集めろ。……そう、ターゲットは『すべて』だ』


私が率いる「アマテラス・システムズ」は、単なるIT企業ではない。日本の通信網、金融システム、交通インフラ、その全てに我々の技術が組み込まれている。我々が本気になれば、一個人のデジタル・フットプリントなど、赤子の手をひねるより容易く丸裸にできる。プライバシー?人権?そんなものは、私の息子を地獄に突き落とした屑どもに配慮する必要はない。これは戦争だ。非対称な、一方的な殲滅戦だ。


次に、父に電話をかける。

『――祖父さんか?……ああ、俺だ。少し、話がある。奏のことだ』


我が父、天羽宗一郎。退官したとはいえ、彼の持つ影響力は、法曹界のみならず、政財界の隅々にまで及んでいる。彼が動けば、「法」そのものの解釈すら捻じ曲げられる。妻の「法」と父の「権威」、そして私の「技術」。この三つが揃って、堕とせない城など存在しない。


私は、息子の奏に言った。

「もうお前は何も心配しなくていい。少し休んでいなさい。お前を傷つけ、お前の心を弄んだ愚か者どもには、我々が相応の報いを与える」


それは、父親としての、絶対的な約束だった。


その後、私の指示通り、優秀な部下たちは驚くべき速さで結果を出してきた。

痴漢冤罪の完璧な証拠。主犯格である黒瀬玲司というガキの、過去の悪事の数々。金の流れ。家族構成。父親の会社の経営状況。全てがデータとして、私のモニターに表示される。

私は、それらの情報を冷静に分析し、最も効果的で、最も残酷な「解」を導き出した。


黒瀬の父親の会社。主要取引先のリストを確認する。そのほとんどが、何らかの形で我が社、あるいは天羽家の影響下にある企業だった。私は、数社の代表に、直接電話をかけた。理由を説明する必要はない。「アマテラス・システムズの天羽ですが」と名乗るだけで、彼らは全てを察する。


「――ご理解いただけて何よりです」


電話を切る。これで、一つの会社が潰れる。一つの家族が路頭に迷う。だが、私の心は一切痛まなかった。データに基づき、最適解を実行しただけだ。彼らが私の息子の心を破壊したのだから、私が彼らの人生を破壊するのは、当然の等価交換に過ぎない。


全てが、私の描いたシナリオ通りに進んでいく。

黒瀬玲司の逮捕。父親の会社の倒産。花咲蕾という少女の社会的失墜。担任教師の懲戒免職。

それらの報告を、私は役員会議の資料を読むのと同じように、淡々と受け止めていた。感情を挟めば、判断が鈍る。これは、CEOとしての私の哲学であり、生き方だった。


全ての嵐が過ぎ去った後、奏が私に尋ねてきたことがあった。

「父さん……。僕のために、こんなことをして、良かったのかな……」

力を行使したことへの、罪悪感と戸惑いがその表情に浮かんでいた。


私は、初めて息子の目を見て、はっきりと答えた。

「奏。力は、使うべき時に正しく使ってこそ意味がある。何より大切な家族を守るために力を使うのは、父親として、一人の人間として当然の責務だ」


言葉にするのは、やはり少し照れくさかった。だが、これが私の本心だった。

会社も、技術も、富も、名声も、すべて失っても構わない。だが、家族だけは、何があっても守り抜く。それが、天羽征士という男の、唯一の感情的な行動原理なのだから。


新しい高校で、奏が新しい友人を見つけ、少しずつ笑顔を取り戻していく姿を、私は遠くから、静かに見守っている。

私は、これからも彼の前に立って道を照らすようなことはしないだろう。ただ、彼の後ろに立ち、彼の進む道を脅かす障害物を、人知れず、静かに、そして完璧に取り除き続けるだけだ。


それが、CEOとしてではなく、一人の父親としての、私のやり方だ。

口に出すことはないが、奏、お前は私の誇りだ。

お前の未来に、もう二度とバグが発生することはない。

この私が、保証する。

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