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23:鉄砲【全面改稿版】

自分自身で書いておきながら、あまりにも「それはないだろう」という展開だったので、比較的あり得そうな内容で改稿しました。これで一応22終わりと23の整合性は取れたと思います。最初から書けるとよかったのですが……。

弘治二(一五五六)年水無月二十二日


 鳥屋で出陣しようとしている俺たちの元に、『日野鉄斎、松浦軍奇襲』の報が入り、呆然と、そして次第に騒然とする。

 ……待て待て待て、何が起きている。

「作戦ではこんなの聞いてないぞ」

「わたしも聞いてないわよ……兄様?」

 空海と瞳が非難じみた視線を送ってくる。

「落ち着け」

 内心、多分一番落ち着かないといけないのは俺なんだろうなぁと思いつつ、動揺を表に出さないように耐えている。

「少弐家の三千もの兵を鉄斎様以外は押さえられないと思うのですが」

 空海が控えめながら具申してくる。そりゃそうだ。俺の討伐こそ失敗したが、ああ見えても優秀な将。三倍の兵力を相手に負けない戦をできる人材はいない。

 俺? 買いかぶってもらったら困る。作戦を立てるのは好きだが、細かい実行案は俺の仕事じゃない。……丸投げとか言うなよ?

「……兄様が密かに策を講じたのでは?」

「ああ、なるほど」

「で、どのような策を講じましたの?」

「それは私も聞いておきたいですなぁ」

「兄様」

「殿」

 二人して言い募ってくるが……。

「だぁぁぁぁぁっ! わかるか! さっぱりわからんわ!」

 俺は脇息をひっくり返し、頭を抱え込むのであった。


弘治二(一五五六)年水無月二十日


「では、手筈通りに」

「うむ。久々の戦いに、ちと心躍っておるわ」

 鉄斎の冷静な口調に対して、長らく表舞台から姿を消していた鍋島清房が笑みを浮かべて言う。心なしか、浮かれているようだ。

 戦線が膠着し始めた先日、密かに陣を訪れた清房は鉄斎と密議をもったのだ。それは、膠着した戦線を崩すための策。


 戦場では実際の合戦の他に、言葉による合戦がある。というと聞こえはいいが、要するに誹謗中傷合戦である。さらに言えば悪口の言い合い。膠着した陣では、声自慢が相手を誘い出すために互いに罵り合いを続けている。

 それと同時に、鉄斎は野戦築城を行っていた。城と言っても建物ではない。一間の高さの冊と一間の深さの空堀だ。単独で見ても足止め効果は大きいのだが、二つが合わさると、二間分以上の高さがあるように錯覚させられてしまう。

 兵数の割に、広大な陣を構築しているが、騎馬巡回兵が絶えず監視を続けている。いざという時は太鼓に鐘が乱打される手筈だ。これは敵陣でも同様である。

「で、狸と狐の化かし合いというわけかね」

 鉄斎が策を講じた清房に冷ややかに目を向ける。

「どっちが狸かねぇ。狩られるのが狸で、汁にして食べられる側だからなぁ」

 言外に、こっちは狐と言わんばかりの口調である。

「しかし……二百でいいのかね?」

 鉄斎は言う。心配しているわけではないが、やはり策の成果に響くことなのだ。

「それ以上動かせば、敵も感づくし、防衛も危うくなる。任せろ。一応これでも大友連中とやり合ってきた程度の動きはするさ」

 にかっ、と年不相応な笑みを浮かべる。

(そういえば……儂と清房の位置づけとはどうなるんじゃろうなぁ。俺は龍哉の父、清房は龍哉の嫁の父(岳父)……)

 戦場にありながら、益体もないことを考えてしまう。

「では、御武運を」

「おう!」

 密かに出陣する。


弘治二(一五五六)年水無月二十二日夜半


「何事だ」

 突然の太鼓と鐘の音に飛び起きる少弐冬尚。歴代当主が全て戦死に近い状況を潜り抜けているので、用心深さも並大抵ではないのだが……。

「敵の挑発でしょうかねぇ……」

 呑気に側近が言うのが業腹で、近くの竹筒を投げつける。

「うつけ! ここでのんびりしており場合でなかろうが! 胡乱うろんなことを言うておる暇があったら、うぬも動かぬか!」

「ぎょ、御意!」

 竹筒をぶつけられた頬を押さえながらも動き出す。

「……役立たずめ」


「何事だ!」

「奇襲だ! 日野鉄斎隊が全軍をもって押し寄せて来ているぞ!」

「押し返せ押し返せ!」

「駄目だ! 冊が打ち破られたぞ!」

「俺に続け!」

 少弐の先駆け陣は既に喧騒に包まれている。本陣より最も離れたこの先駆け陣は、千葉胤頼だ。猛将などではないが、主君を支える武辺者だ。

「慌てるでない! 所詮は少数よ! 追撃して捕らえよ!」

 そう命を下しつつ、首を傾げる。

「おかしい……偽りの合戦であったはずだが……」

 千葉胤頼の呟きは、もしやという危惧に変わりつつあった。その時だ。

 轟音が鳴り響く。

「なっ!?」

 思わず轟音が響く方向へ目を向けようとするが……得体のしれない衝撃に馬上から弾き飛ばされていた。

 そして、体中のあちこちから激痛が駆け巡る。

「すまんな、鉄斎が下るって、ありゃ嘘だ」

 耳元で何者かが囁き、その直下、千葉胤頼の意識は永遠の闇に閉ざされた。


「とりあえず策の第一段階は完了だな。」

 清房はそう言うと、大瀬戸琴海衆の手練れ、三十名と闇に消えていく。


「何?」

「夜襲で、千葉胤頼様討死」

「……ありえぬ」

 少弐冬尚が言う。

「敵は……」

「他の陣にも少数で強襲を続けています。被害は然程でもありませぬが……」

「うつけ。胤頼討死のどこが然程か」

「は、ははっ、失言でございました」

「……追撃をかける」

 夜襲で重臣を失って何もせずこのまま放っておいたら、国人衆の信頼を失う。


「乗ってきたか」

 闇夜で動く清房隊は、これ見よがしに松明をもって移動している。敵の弓や礫が時折飛んでくるが、距離を空けているので損害はほぼ無い。

 敵陣の方向から、騒然とした声と、地響きに似た振動が僅かながら響いてくる。

「……うまく針生島陣へ敵さんを招待しないとなぁ」

 清房はそう言うと、少数騎馬兵を率いていた若者に声をかける。

「直茂、敵を引き寄せながら、撤収じゃ」

「ははっ!」

 元服を迎えた直茂は、上気した顔で元気に答える。この戦が初陣とは思えぬ動きである。


「追え追え!!」

「こっちの方が数は多いのだ! 囲んで嬲り殺せ!」

 物騒な事この上ないが、敵は殺気立っている。

「単純じゃのぉ」

 かっか笑いながら撤収するが、単純という問題ではない。三千を超える兵が二百の兵に翻弄され、挙句の果てに重臣の一人が死んでいるのだ。名門少弐の沽券に関わる。それに、千葉胤頼程の重臣を討ち取った者を討ち取れば、報償も一入であろう。


「開門!」

 清房隊が間一髪陣地内に滑り込む。

「ご苦労」

「おう、苦労したぞ」

「後は任せろ」

 鉄斎が後を引き継ぐ。

「構え……」

 敵の松明がどんどん大きくなっていく。冊はほとんどが松明を置いているため、見落としとなる死角はない。総兵力八百の内、六百が正面門に集中している。

「行け! 叩き潰せ!」

「鉄斎様!」

「まだまだ引きつけよ……」

 鉄砲がいかに遠くまで飛ぶとは言え、威力を考えるとある程度引き付けたい。

「敵が……空堀へ達しました!」

「良し、放て。間髪入れるな」

 鉄斎の合図に、轟音が響き渡る。

 一瞬、双方の動きが止まる。深夜に、そこまでの音が響き渡ったのだ。

「第二射……放て!」

 さらに響き渡る轟音。そして……。

「弓、礫、あるだけ撃ち込め!」

 鉄砲斉射の間に、弓も礫も降ってくる。これはちょっとした災難だ。


「こ、これはどうしたことだ……」

 少弐冬尚がわなわなと震える。

 三千もの兵が、僅か千の陣を落とせないのだ。完全に怒り心頭であったが……。

「総大将ともあろうものが不用意であろう! 放て!」

 迂闊にも、前線まで歩を進めていた少弐冬尚の周辺に、大量の銃弾が降り注ぐ。

 周りの近習たちが慌てて君主の前に立ちはだかり……ばたばたと倒れていく。

「な……」

 さらに轟音……。

「がはっ!」

 左肩に衝撃が走り、落馬する。

「ちっ、外れたか。龍哉に言うて照準が甘いからもうちっと改造せい、とでも伝えるか……」

 鉄斎が残念そうに呟くが、当時の性能から考えると、腕を打ち抜いただけでも十分な戦果である。

「ひ、引け!」

 少弐隊が引き上げをはじめるが、そこで見逃すほど甘くはない。

「全軍……突入」

 鉄斎も駆け足で先陣を切る。


 少弐家、敗走。

 夜間強襲と鉄砲の集中運用、そして野戦築城戦術で何とかそこまで追い込めた。損害は……三十名ほどか。

 一方の少弐家は、重臣千葉胤頼討死に加え、少弐冬尚の負傷、そして……何気に少弐家の内政に携わっていた近習たちの多数が討死したことが大きな戦果となる。

 戦はその場限りではない。内政、外交の結果起きる一つの現象なのだ。その内の内政が占める割合は大きい。この戦で、大きな割合を占める内政担当をごっそりと失ったに等しい少弐家は、最早再起不能であろう。


「……休み無しか」

 鉄斎が血まみれの状態で呟く。と言っても負傷はしていない。敵の返り血だ。

「すぐ、敵の松浦に攻めかかった方が良いだろうなぁ」

 息を切らせながらも、鍋島清房が呟く。

「やれやれ、連戦か」

 そう言いながらも、三倍の少弐家を策に嵌めたとは言え、撤退させた戦果は大きい。これを次の戦に生かしたいのであろう。

「……この陣の撤収は、某と如水様で行っておく。鉄斎殿は隠しておられる船ですぐ大崎経由で音無田郷へ……」

「そんな急に言われても場所が分かるか!」

「こちらに、案内の者を連れてきておりますれば……」

「最初からそういう方向か」

「左様ですな」

 喰えない男だ、と呆れかえる。が、この際求められるのは巧緻より拙速なのだ。少弐が松浦に伝令を送る余裕はないと思うが、情報が伝わる前に敵をかき回す……これがこの作戦の肝であろう。

 そして……。


弘治二(一五五六)年水無月二十二日


「はっ? 鉄斎軍じゃと?」

 松浦隆信は高を括っていた。

「ようやく我らに加勢をする気になったか。遅かったが、まぁ、よい」

「違いまする……我が軍へ突っ込んできました」

「はぁ?!」

 根耳に水である。内通予定の鉄斎軍が攻撃してきたなど。それに……。

「少弐はどうした!」

 連合軍では龍造寺氏に一歩及ばないが、それでも大兵力を有している少弐家がそう簡単に抜かれるとも思えない。

「……わかりませぬ」

「何?」

「とにかく、今は防備を……」


「好機! 全軍攻めかかれ!!」

 室町左衛門尉隊も日野鉄斎隊の攻撃に呼応する。常に炊煙を炊き、敵の油断を誘おうと策を弄していたのが効いた。偽計ではなく、交代制であるが常に出陣体制は整えていたのだ。


「室町高次隊も来ました!」

「え、円陣を組め! 持ちこたえれば、龍造寺山城守が来援するぞ!」

 松浦隆信が的確に指揮を行い、奇襲されたとは言え、大きく崩れは見せていない。だが、敵も中々手厳しい攻めを見せてくる。少数の機動兵力で、自軍をかき回してくるのだ。

「ちょこまかとうるさい! 押さえこめ! 所詮敵は少数ぞ!」

 自分の直轄部隊も迎撃に回す。距離的には室町隊が来るまで後僅かであるが、それまでに鉄斎隊を叩けば、充分に間に合う。

 その計算は楽観的な観測とは違う。小競り合いとはいえ、何度も繰り返された戦いの中で培われた勘のようなものか。

 だが……。

「な!」

 衝撃が走り、落馬する。

「これはもしや……鉄砲!」

 松浦隆信は、噂だけには聞いたことがあるある物を思い浮かべていた。

「じゃが……何故あの日野家がこんなものを」

 松浦は痛みの中でなぜか冷静に考えていた。鉄砲が伝来し、それが使われていることは知っていたが、高価な物であること、一部の勢力が有していることなどから、日野家が持っているなど思いもよらなかったのだ……。

「くそ、誤算か」

 膠着状態に入ると思われていた針生島、川棚の戦は想像以上に早い幕引きであった。

「日野鉄斎は加増だな」

「そりゃそうでしょう。三千の兵を三分の一で撃退した上に、松浦党まで再起不能状態に追い込んだのですから」

 報告によると、松浦党で主だった将の討死はなかった。だが、少弐家と同様、内政に携わる者たちが多く負傷したこと、そして、この連合を策した松浦隆信自身が重傷で、おそらく復帰は絶望的であること、などの報告が来ている。

「鍋島清房は……正式に大瀬戸琴海を任せて、裏方の取次を行ってもらおう」

 つまり諜報統括の役割だ。大瀬戸琴海衆の頭領も既に日野家の家老であるので、諜報部門の二枚看板となるであろう。

「直茂は……俺の直属」

「それも妥当ね」

 他にも多くの戦功者がいるので、手早く決めていく。それでもほとんどの者が銭侍なのだから、管理は楽な方だ。内政統括をしている日野光秀と希美がぼやいているが。

「しかし……ここからが正念場だな」

「そうね。もう、野戦築城戦術も鉄砲も秘密兵器ではなくなったわ」

「左様。そして、肥前の熊……脅威ですな。賢さも持つ猛き将……」

「伝令!」

「構わぬ、言え!」

「鎌倉肥後守様、撤退」

「……次の手か」

 ……ようやく、期待通りの報告が来た。

 いよいよ正念場だ。

24との整合性は、調整中です。

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