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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第10章 ~謎の転校生とか求めてないから~
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謎の転校生とか求めてないから 9

「どこまで本気なんだい? 総理大臣」

 グラスにビールを注ぎながら、暁貴が訊ねた。

 夜半の温泉ホテル。

 酒宴が続いている。

 酒が入ってからが交渉の本番。

 これは未成年の魚顔軍師には、まだ判らないことである。

「どの話だ? 澪の王」

「アンタの孫娘を信二の伴侶にって話さ」

「割と本気だ。もちろん軍師どのが、心に決めた相手がいるとか、貴殿のように生涯独身を貫くとか、そういうことなら話は別になってくるが」

 互いにもうけっこう酔いが回っているが、呂律はしっかりしている。

「そういう話は聞かないがな。どうなんだ? 沙樹」

「琴美とってのは冗談よ? 良い友達みたいだけどね」

 信一、信二、琴美の三人は学年も同じで仲も良い。

 ただし、恋愛感情となると話はべつだろう。

 そもそも眷属間での婚姻は、あまり推奨もされていない。

 理由までは伝わっていないが、血が濁ることを忌避してのことだろう。

「この際だからはっきり言ってしまうが、軍師どのの識見と知謀は、澪の血族で無くても欲しいと思っているよ」

 新山の言葉。

 暁貴としても鉄心としても、それは頷くところ大である。

 高校生とは思えない知識の含有量と、五カ国語を操る語学力。なによりも、未熟な実剛を完璧に補佐してみせる状況判断力。

「在野であったなら、契約金を五億積んでも手元に置きたい人材だ」

 大風呂敷を広げる。

 さすがに大げさすぎると感じたのか、鬼の頭領が苦笑を浮かべた。

「あやつは戦えないぞ? 巫の眷属なら光、芝の眷属なら光則あたりの方がずっと価値が高いのではないか?」

「彼らの戦いぶりを私は知らないがな。鉄心どの。戦場の勇者は数多いものだよ」

 徳利をもち、鉄心の酒杯に注ぐ。

「そういうものか?」

 軽く黙礼して飲み干す鬼。

「ああ。だが戦場をプロデュースし、味方を勝利に導けるものなど滅多にいない」

 返杯を首相が飲み干す。

 あの敵と戦えと命じられれば、全力を尽くして戦い打ち倒す。

 それが戦士というものだ。

 あの敵と戦えと、命じることができるのが指揮官だ。

 そして、どうしてあの敵と戦わなくてはならないのか、その勝利によって何が得られるのか、敗北した場合にはどうするのか。それを考えるのが軍師である。

 子供チームの常勝不敗は、実剛の沈着な指揮もさることながら、臨機応変な信二の状況判断に寄るところが大きい。

「失礼を承知で言うが、彼がいなければ遠征チームなどさほど脅威ではないよ」

「ホントに失礼だなぁ。実剛はよくやってると思うぜ?」

 澪の王のお言葉である。

「それだけ高く買っているということなのだ」

「自分の孫娘を嫁がせても良いって考えるくらいにね。本人の意志はどうなるのよ?」

 やや険を含んだ沙樹の表情。

 蒼銀の魔女は、政略結婚など好まない。大恋愛の末に村井と結ばれ、にもかかわらず暁貴を思慕したという、文字通り恋に生きる女なのだ。

「もちろん、それが一番大事だ。戦国時代ではないのだからな」

 いけしゃあしゃあという。

 平成の世の中でも、閨閥(けいばつ)づくりは政治家や官僚の十八番だ。

「だからな。澪の王よ」

「なんだよ?」

 あらたまった表情の新山に身構える暁貴。

 このシチュエーションは憶えがある。彼自身が使った手だから。

「転校生をもう一人、受け入れてみる気はないかね?」

「ほらやっぱり」

 あさっての方向に呟く。

「なにがだ?」

「なんでもねーよ。それがあんたが出す人質ってわけかい?」

「ああ。そして人質となった姫が敵方の勇者と恋に落ちるなど、べつに珍しい話でもなかろうよ」

「よくいうぜ。俺らは手を貸さねぇよ? 場は整えてやるけど、あとは本人たちの歩み寄り次第だ。それで良いってなら受け入れるぜ」

「充分だ」

 総理が笑って付け加える。

「いっそ、王がもらってくれても良いのだぞ?」

「勘弁してくれ。三十二歳年下の花嫁とか、犯罪レベルだろ」

 シニカルな笑みを浮かべるモンスターの首魁だった。

 こうして、魚顔軍師には婚約者候補ができることとなる。

 自らのあずかり知らぬところで。

「会談に最後まで参加しておくべきでした」

 とは、のちに軍師が述懐した言葉である。





 さて、光則と信二と光が帰宅した後、巫邸のキッチンには女性陣が参集していた。

 明日の弁当の仕込みを兼ねた作戦会議である。

 ちなみに唯一の男性である実剛は、ぴろしきと一緒に自室へ避難している。

 女三人寄ればなんとやら、男の出る幕はないのだ。

「でも、良かったの佐緒里さん。リンって子のこと」

 絵梨佳が確認する。

「良くはない。が、坂本光則の周囲をうろうろされるよりはマシ」

 肩をすくめてみせる鬼姫。

 放っておいて好きなように行動されるより、手元に置いてコントロールしたほうが良い。

 どうしてどうして、佐緒里もなかなかの軍師である。

 ことが恋愛の範疇を出ないのが残念だ。

「でもさ。それって再来週も一緒についてきちゃうんじゃない?」

「ぬ」

 美鶴の指摘に、佐緒里が変な声を出す。

 再来週、子供チームの何人かは出張の予定である。

 札幌まで。

 稲積秀人からの招請に応じて、北海道警察の幹部と面会するのだ。

 その際、江別市に立ち寄る手筈になってる。

 目的は江別オニコロ。

 江別市の高校生が考案したB級グルメで、EBE-1というパチモンくさいイベントで準グランプリに輝いた一品らしい。

 同じく高校生が主体で編成されている子供チームとしては、意識せざるをえない。

「オニコロというふざけた名前も気になるし」

「別に鬼を殺すとか、そういう意味じゃないわよ? 佐緒里姉さん」

「判っている。試しただけだ」

「何をよ?」

 まあ、鬼である彼女には、看過できない名前なのだろう。きっと。

「とはいえ、出張メンバーを考え直さないと」

 むうとうなる絵梨佳。

 チームリーダーの実剛と、護衛と料理担当を兼ねている絵梨佳。

 同じく料理繋がりで佐緒里と五十鈴の予定であった。

 これにリンが同行するとなると、やはり信二も一緒に来た方が良いだろう。不確定要素に備える必要がある。

「受験生を引っ張り回すのも気が引けるけど」

「信二さんは進学しないんじゃない? そのまま澪町役場に就職して伯父さんの片腕になると思うわ」

 美鶴が肩をすくめる。

 魚顔軍師が、いまさら大学程度で学ぶことなど無いだろう。

「是非もない。坂本光則の側に残して行くこともできないし」

 ふう、と、鬼姫が溜息を吐いた。

 顔を見合わせる将来の義姉妹。

 彼女らは恋のさや当てがないから気楽なものだ。

 絵梨佳は実剛と、美鶴は光と、すでにらぶらぶ街道まっしぐらである。

「がんばってねっ 佐緒里さんっ」

「ぽっと出の新人なんかに負けちゃダメよ。佐緒里姉さん」

 声援を送る。

「本気で他人事ね。あんたたち」

 鬼姫の苦悩は、まだまだ続くのである。






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