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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第10章 ~謎の転校生とか求めてないから~
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謎の転校生とか求めてないから 7

 あかくあかく。

 夕陽が照らす。

 真っ赤にそまった校舎が、長い長い影をつくる。

 吹き渡る一陣の風。

 対峙する二人。

 かさかさと軽い音を立て転蓬(てんぽう)がころがってゆく。

 ちなみに転蓬というのは、風にあおられて根から外れた草が丸くなってころがるもので、西部劇などでよく見かけるアレである。

「おい」

 風にのって荒野を転がる根無し草に、古来から人は人生をなぞられていた。

「こら」

 行き先も知れず流れ流れてゆく様は、たしかに人生そのものである。

「なに勝手なモノローグで話すすめようとしてんだっ 実剛っ」

 後頭部に決まるチョップ。

「ち」

「いま舌打ちしたなっ」

 光則がうるさい。

 カルシウム不足かもしれなかった。

「どこに転蓬なんてあんだよっ 『荒野の七人』かよっ」

「いいじゃないか。僕けっこう好きなんだよ。ブロンソンとか」

 往年の西部劇映画である。黒澤明監督の『七人の侍』をモチーフに作られた作品としても有名だ。

 もちろん、佐緒里とリンが対峙しているのはメキシコの荒野ではなく、澪高校の校庭である。

 リンを迎え入れるかどうか、模擬戦をして確かめようという試みだ。

 野蛮なことこの上ないが、寒河江でも見た鬼のやり方である。

 鬼というのは、強者に敬意を払うものらしい。

「それは判ったけどよ。こんな儀式が必要なのか?」

 光則の質問ももっともである。

 認め合うもなにも、実剛が是としたなら眷属たちに否やはない。

 まして魚顔軍師からも、受け入れの方針が示されている。

 あえてケンカなどする必要があるとも思えない。

「人は感情の生き物だからねぇ」

 えっらそうに腕を組んだ次期当主が半笑いで言う。

 光則が主張するとおり、実剛がリンを受け入れるといえばすべて解決する。

 だが、それでは納得できない者がいるだろう。

 佐緒里だ。

 恋敵の存在を唯々諾々として認めるほど大人しい娘ではない。

 彼女の恋心に気づいていないのは光則だけなのだ。

 そもそも佐緒里が実剛の部屋に侵入して宿題を写したのだって、光則に見せるためだろう。

 自分が教師に叱られることなど、鬼姫は歯牙にもかけない。

 唯我独尊を絵に描いてコンピューターグラフィックスで動かしたような彼女がこそ泥のような真似をしたのは、ひとえに砂使いのためだ。

 宿題など自分でやらなくては意味がないのだが、彼女の頭脳でそういうことまで判断できるわけがない。

 善悪はともかくとしても、一途なことではある。

 むろんそれを実剛は親友に教えたりなどしない。余計なことだと知っているから。

「一度拳で語り合えば、友情が生まれるものさ」

「少年漫画かよ……」

「佐緒里さんは好きだと思うよ。少年漫画。それにさ」

「それに?」

「本音でぶつかり合うってのも大事なんだよ」

「……じゃあ俺にも本音を言ったらどうだ?」

「もう気づいてるだろ。認めたくないだけで」

「…………」

 言い返すことができず、光則が視線を動かした。

 校庭の中心。

 体操着の少女たち。

 一方は徒手空拳。他方は自分の背丈よりも長い深紅の槍をもっている。

 八月後半の風が髪をなぶってゆく。

「得物は?」

「萩に武器など不要」

「そう」

 静から動へ。

 一瞬の切り替え。

 槍の石突きが鬼姫の腹部に突き込まれた。

 本来であれば、勝負はそれで決まっていただろう。

 だが、佐緒里の腹の三ミリ手前で槍は止まっていた。

 左手に握られて。

「たしかになかなか速い。坂本光則を追いつめたというのは、ホラではなかったみたいね」

 表情すら変えずに言い放ち、そのまま左腕を持ち上げる。

 リンの小さな体が宙に浮く。

「うまく受けろよ。久保リン」

 言葉とともに投擲。

 二百メートル近い距離を飛翔して、槍使いが校舎に激突した。

 どさりと地面に落ちる。

 ぱらぱらと降りかかる細かなコンクリート片。

「頼むから壊すなよ。これ以上工事増やしたら高木さんに殺されちゃう」

 わりと真剣に注意喚起する実剛。

 身を起こすリン。

 さしたるダメージがあるようには見えない。

「やるねえ。楽しくなってきたよ」

 ジャージの上着を脱ぎ捨てる。

 Tシャツから伸びた白い二の腕は絵梨佳以上に、か細く見える。

「是非もない」

 佐緒里も上着を脱いだ。

 長槍を構えて疾走するリン。迎え撃つ佐緒里。

 突き込まれる穂先。

 前方宙返りで回避した鬼が槍の上を駈ける。

「なんとぉっ」

 繰り出された前蹴りをのけぞって回避しつつ、右に槍を振って鬼を叩き落とす槍使い。

 着地と同時の足払いを、槍を支点にした跳躍でいなす。

 そしてそのまま回転蹴りを顔面にたたき込む。

 両腕でガードした佐緒里が、五メートルほどの距離を押し戻された。

 ふたたび開く間合い。

 数秒にもみたぬ攻防。

「あれと互角に戦ったの? 光則」

 思わず横の親友に尋ねてしまう実剛だった。

「互角だったが、たぶん戦い続けたら負けていたさ。手加減されていたんだろうよ」

 むすっとした返答。

 彼自身が卓越した戦士なだけに判ってしまうのだ。

 リンや佐緒里との力量の差を。

 変身して戦ってなんとか互角。常態ならば一合にも及ばず敗れ去るだろう。

 あの少女たちが、どうして自分程度を気にかけるのかわからない。

 判らないから苛々する。

「人の心の道なんてね、真っ直ぐ伸びてる方が滅多にないよ」

 判ったような判らないようなことをいって、ふたたび実剛が戦域を見遣った。

 じつに楽しそうに戦う二人。

 寒河江と()った時のような、野蛮極まる戦いではない。

 舞踏のように、演武のように。

 目視すら難しいほどの速度で鎬を削る。

「佐緒里がちゃんと戦っているのを初めて見た……」

 ぽつりと呟く光則。

 どういう巡り合わせか、力任せの戦いしか見たことがないのである。

 印象がまったく違う。

 ショートとセミロングの中間くらいの髪をなびかせて舞う戦女神。

 いや、鬼か。

 しなやかな四肢。

 躍動する肉体。

 生身がどこまで強く美しくなれるか、その一つの解が佐緒里の姿。

 澪の血族の変身とはまた違う。

 戦うために生まれた存在。

 ひどく歪なのに、どうしてこんなにも目を惹くのか。

「きれいだな……あいつ……」

「否定はしないよ。でも絵梨佳ちゃんほどじゃない」

 バカが横から口を出す。

 いささかむっとする砂使い。

 なにいってんだ? という目で見てやる。

 だが、少年の瞳に映ったのは、チェシャ猫笑い(にやにや)している親友だった。

 光則は、はかられたことを悟った。

「言質いただきました。絵梨佳ちゃん。そろそろ止めておくれ」

「はいはーい」

 声とともに吹き抜ける風。

 従妹だと悟ったのは、右手で槍を、左手で拳を止めた美少女が校庭に出現してからであった。

 相変わらずの神速である。

 能力者の視力をもってすら動きをトレースできない。

「双方、そこまでです」

 鈴を鳴らすような声で戦闘終了を宣言する。

「是非もない」

 拳を引く佐緒里。

 あっさりとしたものだ。

 もう一方は、淡々とはいかなかった。

 興奮で頬を紅潮させたリン。

「強いね。あなたは。改めて名前を聞いて良い?」

 目をきらきらさせて問う。

 首をかしげる光則。なんだか流れがおかしい気がする。

 たしかこの前は、名を問われてから……。

「萩佐緒里。鬼よ」

 答えちゃった。

「あらためて。私は久保リン」

 右手を差し出す。

 戦士は利き腕を触らせないもの、とかいう不文律がなかったか。

 そんな疑問を抱きながらも、佐緒里が悪びれず握り替えした。

 強敵に対する礼儀は持ち合わせているのだ。

 しっかりとした握手、のわりには妙に長い。

 そもそも握手とは、指は絡めないような気がする。

「佐緒里お姉様って呼んで良い?」

 潤んだ瞳。

「ぜ、是非もない」

 応える鬼姫の頬を一筋の汗が伝う。

「あー これダメなパターンだわ」

 頭を抱える砂使いだった。

 夕日が校庭を照らしていた。




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