謎の転校生とか求めてないから 5
「第三勢力だと?」
暁貴の右眉が跳ね上がる。
それは、日本国とバンパイアロードの関係に一枚噛むということだ。
第一と第二がなくては、第三はありえないのだから。
「巻き込まれるのは御免被りたいところだが?」
やや不機嫌な鉄心の言葉。
応えたのは首相ではなく信二だった。
「もう充分に巻き込まれてますがね」
勇者が澪を訪れた時点で。
あるいは、彼らを殺せなかった時点で、局外中立ではなくなった。
まして御前の陣営と一戦交えた今、どう取り繕ったところで敵対勢力である。
「だから俺は、首相閣下が共闘なり同盟を申し出るものと思っていたんですがね」
肩をすくめてみせる。
予測などそんなものだ。
十通りの予想を立てれば、たいてい十一番目の行動を取るのが他人なのである。
結局、他人は自分ではないという良い証左だろう。
「我々が同盟すれば御前は追いつめられる。それは避けたいのでな」
新山の認識は苦い。
追いつめられ、現在に絶望した者は未来を想定しない。
短兵急な行動を取ってしまうかもしれないのだ。
そしてその場合、最初の犠牲者となるのは日本政府の中枢だろう。
だが、澪が単体で佇立しているなら話は変わってくる。
澪が脅威である限り、バンパイアロードは日本政府と戦うことはできない。必要以上に追いつめることもできない。
それは、名詞を変えればどの陣営にも言えることだ。
「天下三分の計ですか。諸葛亮もびっくりですね」
中国は三国時代の高名な軍師になぞらえ、魚顔軍師が笑った。
「そこまでたいしたものではないさ。ただの三竦みだよ」
薄い笑いを浮かべる首相。
「だが、三国鼎立でも三竦みでも良いが、永遠に続く策じゃねえぞ? そのへんはどうすんだ?」
疑問を呈したのは暁貴だ。
趣味は偏ってはいるが、読書家の彼である。
三国志がどのような結末を迎えたかは、当然知っている。
「澪の王よ。私は永遠など求めてはいない。求めているのは、たかだか十年やそこらの平和で豊かな時代さ」
「で、その間、あんたは総理としてこの国に君臨し続けるって寸法かい?」
「ああ」
暁貴の皮肉に新山は悪びれない。
「あと十年も経てば、私は政界を引退するだろう。その後のことまでは責任は持てんよ」
「まあそりゃそうだな」
相好を崩す澪の魔王。
首相の率直な言い分が気に入ったようである。
政治家としては正直すぎるが、空虚な美辞麗句を並べ立てる輩より余程好感が持てる。
もちろん好意だけで受け入れることができないのが政治だ。
鉄心と信二に視線を送る。
盟友と軍師が頷きを返す。
澪が求める立場としては、中立あるいは棲み分けというのが理想だ。
天下三分の計は、理想からそう遠いわけではない。
落としどころとしては充分だろう。
「良いだろう。話にのるぜ」
右手を差し出す。
「感謝する。王よ」
総理大臣が握り返した。
「まったく。ちゃんと反省しろよな。実剛はか弱いんだから」
光則が説教をたれる。
「退きません。媚びへつらいません。反省はします」
教室の隅で正座をさせられている佐緒里。
まさかツッコミで吹き飛ぶとは思わなかった。
力加減を誤ったという自覚はないのだが。
「いててて……」
実剛が目を醒ます。
どうやら大事はないようだ。
「大丈夫か? 准吾を呼ぶか?」
「死ぬかと思ったけど平気だよ。なにがあったんだっけ?」
記憶層を探る。
光則を売ったら突っ込まれました。
OK。
了解した。
「久保さんだっけ。残念ながら光則は渡せないよ。僕も命は惜しいから」
改めて宣言する。
「残念なのか? むしろ命の危険がなかったら普通に渡していたってことだよな? それ」
横合いから口を挟む光則。
さわやかな笑顔で無視された。
「渡せないといわれて、はいそうですかと引き下がるような女に見える? 王子様」
挑戦的に、リンが胸を反らす。
ボリュームとしては絵梨佳とさほど変わらない。
佐緒里が圧倒的に勝利している。
どうでもいい話だが。
「見えないけど、光則は僕の仲間で親友だ。得体の知れない女の子にあげるわけにはいかない」
「実剛。自覚しているか? さっき言っていることがまったく違うぞ?」
「気にしたら負けだよ」
「もう負けでいいよ……」
「そんなわけで、得体の知れた人になってもらおう」
にこやかに笑う実剛。
何を言っているか判らないという表情を、他の三人が浮かべた。
もちろん少年は説明するつもりである。
リンが敵ではない、または現在敵対するつもりがないということは判った。
御前ではなく首相の依頼で動いているということも判った。
動機に関しては、どこまで本気かは判らないが、光則を憎からず思っているがゆえの行動だと推測できた。
「敵でないなら、僕としては受け入れを拒むつもりはないんだ。だけど、それじゃ納得できない者もいる」
「ああ。それはそうだな」
矛を交えた経験のある光則が大きく頷く。
「まあ光則はどうでも良いとして」
「扱い悪いぞっ」
「佐緒里さんはどう思う?」
鬼姫に視線を送る。
「納得できるわけがない。巫実剛」
正座したまま応える少女。
当然だという表情。
光則がきょとんとする。
鬼姫がリンを拒絶する理由が判らないのだ。
誰しも自分の後ろ姿を見ることはできない、という解釈で問題ないだろう。
「だからさ。ここは寒河江式でいいんじゃないかな」
拳で語る。
殴り合ってこそ、認め合うことができる。
「こっちからは、最強の戦士の絵梨佳ちゃんかな。一バトルして、互角以上なら……」
「まって。巫実剛」
立ちあがった佐緒里が近づいてきた。
「その役目、あたしがやる」
「というわけだよ。久保リンさん。佐緒里さんと模擬戦をして、良い勝負ができたら、君を受け入れよう」
「澪の血族でなく、たかが鬼の娘と? 私もずいぶんと舐められたものね」
好戦的な笑みで嘲弄する少女。
「萩に逃走はないことだ」
表情も変えず、鬼姫が受け止めた。
「じゃあ放課後。校庭で」
実剛が仕切っている。
「おいおい……」
呆れ果てる光則。
本当に頭でも打ったのか。
こんな無茶苦茶な提案をするような男ではなかったはずだ。
「何考えてんだ……」
「信二さんならもうちょっとスマートにできるだろうけどね。僕の頭じゃこれが精一杯」
「なにが?」
「時間稼ぎだよ。何にも判らないから放課後まで先延ばしにした。こんなところで暴れられたら困るからね」
小声で説明する実剛。
なるほど、と、光則が頷く。
やはり深慮遠謀あってのことか。
納得できたが、どうして親友は半笑いなのだろう。
そこだけが引っかかる砂使いであった。




