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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第10章 ~謎の転校生とか求めてないから~
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謎の転校生とか求めてないから 4

「おおおおおま、おまっ なんっ」

 言語機能を麻痺させてしまった光則が、震える手でリンを指さす。

 大混乱である。

 当たり前だ。

 つい先日死闘を演じた相手が、しれっと転校してくるとか。

「佐藤奈月。全員を避難させろ」

 砂使いの様子を見て取った佐緒里が、担任教師に指示を出す。

 事情はよくわからない。

 だが、ここまで光則が取り乱すのはおかしい。

「はいっ みんな教室の外へっ」

 生徒に指示されたことに不満を漏らすことなく、奈月が生徒たちを先導する。

 高校教師である前に、量産型能力者第二隊のリーダーなのだ。

 整然と撤退してゆくクラスメイトたち。

 残されるのは、実剛、光則、佐緒里、そしてリンと名乗るショートカットの少女。

「君は何者なんだ?」

 次期当主が誰何する。

 混乱の極みにある砂使いに交渉役は務まらないし、鬼姫はそれ以上に交渉事になど向かない。

「初めて御意を得ます。魔の皇子よ」

 恭しい一礼。

 異称に聞き覚えがある。

「御前の手の者か」

 表面上は泰然自若を装いながらの確認。

 再侵攻をかけられるくらいに御前陣営が回復しているとしたら、事態は笑って済ませられる範囲を超える。

「その評価は半分だけ正解といったところかしら」

 相好を崩すリン。

 笑顔をたたえて。

「半分とは?」

 言いながら、実剛が身振りで着席を促した。

 平日の高校に生まれた奇妙な空白。

「このまえ光則と闘ったから。その意味ではドラキュラの味方」

 ちらりと横を見ると、光則が頷いている。

 なんとか混乱から立ち直り、戦闘態勢だ。

 精悍な横顔から覚悟が漂っていた。

 勝てるか?

 無理だ。

 ならばどうする?

 何を置いても実剛を逃がす。佐緒里が護衛に付けばひとまずは安心だ。

 絵梨佳と合流するくらいのことはできるだろう。

 時間稼ぎだな。

 死ぬぞ?

 本懐だ。

 内心で繰り返す自問と自答。

 彼はリンの実力を過小評価していない。

 命を賭して足止めして、数分が限度だろう。

 緊張をほぐすように、ぽんと肩を叩く実剛。

「残り半分は?」

「なんだろうね? 自分でもよくわかってないんだけど」

 適当な椅子に腰掛けるリン。

 まあ、まだ席が決まっていないのだから仕方がない。

「じゃあ質問を変えよう。何のために澪にきた?」

「ストレートに訊いちゃうんだ。聞きしに勝る胆力だね。王子様」

 くつくつと笑い、少年に右手を伸ばす。

「監視役ってのが名目。澪が暴走しないように」

「となると、君を派遣したのは、新山総理?」

「良い読みだよ。王子様」

 正解だとも不正解だとも言わない。

 この場に魚顔軍師がいれば、事細かに解説してくれただろう。

 そこまでの頭脳を実剛はもっていなかったので、現時点で事情に深入りするのは避ける。

「戦いにきたわけではない、と、判断していいのかな?」

「少なくとも、戦って欲しいという依頼は受けていないよ」

「OK。信じよう」

 軽く息を吐く。

 澪を襲った者たちのことは聞いている。血族が本気で戦ってなんとか撃退できた程の強さだと。次も勝てる保証はないということも。

 平和的に解決できるのなら、それにこしたことはない。

「ところで、名目があるなら、本音もあると思うんだけど?」

「それは最初に言ったよ。王子様」

 最初になんと言っただろう?

 記憶層を掘り返す。

「……まさか、光則に会いにきたってやつ?」

「そう。もうちょっと正確に言うなら、光則に惚れたんで、きちゃった♪」

 突然彼氏の家に押しかけた恋人みたいな口調だった。

 思わず乗ってしまう。

「そういうことなら、これは差し上げますんで」

 ずい、と親友の背を押す。

 いつもながら一秒で売られる光則である。

 本人が文句を述べるより速く、

「ええ加減にしなさい」

 律儀に関西弁で言った佐緒里が、仰角四十五度のつっこみを入れる。

 伝統的な上方漫才のノリ、のはずなのだが。

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 謎の悲鳴を残して実剛が吹き飛んだ。

 机や椅子を薙ぎ倒し、壁にぶつかって止まる。

「Q~~~」

 そのまま気絶したりして。

「あれ?」

「うおぃっ しっかりしろっ 実剛っ」

 首をかしげる佐緒里と、血相を変えて駆け寄る光則。

「力加減を間違えた? あたしが?」

 不思議そうな顔で、鬼姫がツッコミの素振りを繰り返す。

「……ねえ? 君たちってなんの団体なの?」

 かなり真剣にリンが訊ねる。

 もちろん、答えられるものは誰もいなかった。





 自衛隊と戦ったとき、信二は思った。

 なんと見事な戦いぶりだ、と。

 それは、ようするに人外との戦いを睨んだ訓練を積んでいるということである。

 圧倒的な力の差を埋めるには、数の暴力だけでは足りない。

 もちろん、衆寡敵せずの言葉通り、最終的には数の多い方が勝つだろう。

 澪の血族と日本人全員が戦えば、前者は一億二千万人を殺し尽くすより前に力尽きる。

 そういうことである。

 ただ、そこまで鉄血の意志を持って戦い続けられるものはいない。

 だからこそ戦闘のプロフェッショナルである軍隊が存在する。

 数の暴力ではなく、装備と訓練によって力を得たものたち。

「人外と戦う訓練なんか普通はしません。ですが、彼らは我々との戦い方を知っていた。でも、知っていたのは我々との戦い方ではなかったということですね。首相閣下」

「答えられる類の質問ではないぞ? 軍師どの」

「その言葉だけで充分です」

 頷く信二。

 澪で、首相官邸で戦った自衛隊。

 あれは、バンパイアロードと戦うために組織され、訓練された部隊だ。

 将来、夜の王に反旗を翻すため。

 だから澪の血族「とも」互角に近い戦いができた。

「結果は、惨憺たるものだったがな」

 軍師の思考の軌跡を読んだように、首相が力無い笑顔を見せる。

 人外と戦うために鍛えられた特殊部隊二百四十名。

 たった三十四名の量産型能力者に敗れ去った。

「損耗比率としては、そう悪い数字ではないと思いますが?」

「私が切れる切り札(トランプ)は一枚こっきりだ。勝負にはならなかったということだろうよ」

 自嘲する。

 損耗比率が同じなら、第一隊と自衛隊が戦い続けた場合、双方が全滅するということになる。そして澪には能力者と第二隊が残るのだ。

 育成に十年以上の歳月をかけた虎の子の部隊が前座と相打ちでは、首相でなくとも嘆きたくなるだろう。

「結局、戦ったら人間は人外には勝てん。ならば戦わぬ道を選ぶしかないわけだ」

 新山の目が光る。

 きたか、と、暁貴が姿勢を正した。

 いままでの話は、それこそ前座だ。

 ここからが本題なのである。

「貴殿らには、第三勢力となってほしいのだ。澪の王よ」




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