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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第10章 ~謎の転校生とか求めてないから~
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謎の転校生とか求めてないから 3

 大騒ぎは、担任教師の登場より前に片が付いた。

 転写を終えた佐緒里が、少年二人を軽く撫でることで沈静化したのである。

「……ナレーションに異議を唱えたい」

 痛む頭をさすりながら実剛が謎の呟きを発した。

 やがて教室の引き戸が開き、佐藤教諭が入ってくる。

「おはようみんな。いきなりだけど転校生を紹介します」

 ざわつく教室。

 思わず実剛と光則が顔を見合わせる。

 転校生?

 そんな話は聞いていない。

 聞いていないが、ありえない話ではない。

 澪は爆発的な発展を続けている。

 潤沢という言葉では追いつかないほどの資金を背景に、毎日のように新事業が打ち出され、毎週のように着工しているのだ。

 それにともなって、この町に引っ越してくる人間の数もうなぎ登りに増え続けている。

 最も多いのは単身だが、家族で移り住んでくる者も少なくない。

 当然、実剛たちと同世代の子を持つ移住者もいるだろう。

 その意味では、今後、学校への支配を見直す必要が出てくるかもしれない。

「入ってちょうだい」

 奈月に促され、引き戸が開く。

 入室してきたのは女生徒だ。

 小さい。

 一学年下の絵梨佳とほとんど変わらない身長。

 華奢な手足。

 ショートカットに切りそろえた黒髪。

 猫を思わせる吊り目がちな黒い瞳。

「なっ!?」

 がたっと椅子を蹴って立ちあがる光則。

 この中で、彼だけは少女と面識があった。

 元気いっぱいの笑顔を浮かべる少女。

久保(くぼ)リンですっ 光則を追いかけてきちゃいましたっ どうかよろしくっ」

 なぜかびしっと敬礼して見せる。

 光則の顎が、かくーんと音がしそうな勢いで落ちた。





「四十年ほど前になるか。流れ者が東京に住み着いた」

 首相が語る。

 それだけなら、べつに妙でも珍でもない。

 巨大都市東京。

 無数の人間が住まう魔都。

 背徳と虚栄に満ちた大都会は、どんなものでも受け入れてしまう。

 それが、仮に人外だったとしても。

 そうして棲みついたのがバンパイアロードだ。

 彼は、文字通り魔的な支配力を発揮して、瞬く間に政治の中枢部に入り込んでいった。

 新山総理が中央政界入りした頃には、すでにこの国は御前の支配下にあるといって良い状態だった。

 支配の方法は至極単純。

 恐怖による支配だ。

 もちろん反抗勢力がなかったわけではないが、サトルやカトルといった転生者が御前の味方に付くと、すっかりなりを潜めてしまった。

「転生者?」

 信二が訊ねる。

 耳慣れない言葉だ。

「文字通りの意味だ。軍師どの」

 首相が続ける。

 神話の存在が人間に転生したもの。それが転生者である。

 サトゥルヌスが転生したのがサトル。

 ケッツァルカトルが転生したのがカトル。

 にわかには信じられない話だが、澪の血族も似たり寄ったりの存在だ。

 転生とは違うのだろうが、光や美鶴などは遠い始祖の遺伝情報を呼び覚ました。

 まして、先の戦いではカトルが顕神を披露している。

「否定できるだけの要素がないですね」

 肩をすくめる軍師。

「神でも悪魔でも良いが、この国はずいぶんと住みやすいらしい」

「ああ、それはそうでしょうね」

 新山の言葉に信二が頷く。

 たとえばキリスト教などでは神は一柱だけ。それ以外の異教の神はすべて悪魔として扱われる。

 仏教はもうすこし柔らかくて、化身ということになるらしい。

 有名どころでは、日本神話の木花咲耶姫(このはなさくやひめ)観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)の化身である。

 別の神話大系を否定するのではなく、神格を同一視してしまう。

 まあ、悪魔とされるよりはマシであろうが、神自身にとってはたまらない。

 そのような意味では、日本は異教の神にとって非常に住みやすい。

 神が、神のままでいられる場所だから。

「基本的に宗教に無関心ってより、節操がないからな」

 肩をすくめて見せる暁貴。

 仏壇と神棚が同じ家にあり、聖誕祭(クリスマス)万聖節(ハロウィン)を祝う。

 日本の宗教観はカオスである。

「祟るからって神様として奉じてしまおう、などと考えるのは日本人だけだろうしな」

 鬼の頭領も頷いた。

 けっこう鬼が奉じられている神社も多いのである。

 ともあれ、数十年に渡ってバンパイアロードは日本を影から支配してきた。

「といっても、彼から政治的な要求が出たことはないがな」

 世俗の権力が欲しいわけではなく、安住の地を求めただけ。

 そういうと聞こえはよいが、人間と吸血鬼では栄養摂取の方法がまったく異なる。

 政府は定期的に生け贄を差し出し続けてきた。

「平和で治安が良いとされているこの国でも、年間八万人くらい行方不明者が出ますからね。そのうち一パーセントくらいが、彼に美味しくいただかれたとしても、べつに驚くようなことじゃあないでしょう」

 感傷を切り捨てるように軍師が言う。

 胸くそ悪い話ではあるが、日本全体のことは澪とは関係がない。

 吸血鬼のお食事となってしまった人々に関して、澪の血族はどんな手の出しようもないのだ。

「言葉を飾っても仕方がないので率直に言うが、生け贄に関してはさほど問題ではないさ。むしろ政敵や邪魔者の処理を頼んできた政治家もいるほどだからな」

「心が洗われるようなお話です。首相閣下」

「皮肉を言うなよ。軍師どの。いずれにしても、大臣一人決めるにも御前の許可が必要だった。これまではな」

 大きく息を吐く総理大臣。

 彼もまた、御前によって政府の首班たることを許された人間だ。

 感覚的には奴隷頭といったところか。

 視線が彷徨う。

 心得たもので、沙樹が灰皿を差し出した。

 軽く黙礼して煙草に火を付ける首相。

 暁貴と鉄心も、それぞれの懐からありふれた国産銘柄の煙草を取り出した。

「やめてくださいよ沙樹さん。部屋がケムリ一族に支配されるじゃないですか」

 苦情を申し立てる魚顔軍師だったが、もちろん丁重に無視された。

「澪の出現は、私にとって福音だった」

 ふたたび総理が口を開く。

 この国に鬼の一族はいくつかあったが、彼らは基本的に人間と手を結ぶことはない。

 寒河江も人類の敵であるというスタンスは崩していないのだ。

 唯一の例外は萩である。

 この家だけは、巫とともに人間と共存共栄をはかろうとしている。

 光明だった。

 闇の支配に終止符をうてるかもしれない。

 そう思った。

「俺らだって、べつに人間の味方ってわけじゃないんだがなぁ」

 ぼりぼりと暁貴が頭を掻く。

「だが、敵でもないだろう? できれば仲良くしたい、その程度で充分なのだ」

「そういうもんかねぇ。ケンカするより仲良くしてた方がいいってのは、誰でも判ることだと思うんだけどな」

「誰でも判ることができないのが政治だよ。澪の王よ」

 首相の声は苦い。

 表だって政治的な要求をしてこなくとも、御前の意向に逆らうことはできなかった。

 彼が望む世界を、維持し続けるしかなかった。

「ああ。そうか。なるほど。謎が一つ解けました」

 不意に声を上げる信二。

 暁貴と鉄心が怪訝な顔をする。

 説明せず、軍師が新山の顔を見つめる。

「あの自衛隊を組織したのは、あなたですね? 閣下」

 答えず。

 和の国の主権者が唇の端を吊り上げた。





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